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第十話 ダンジョン2


「リバティ、ちょっとそこの扉を開けてみてよ」



 私が攻略書を片手に言うと、リバティが扉を開け中に入る。


 中は、ガランとした小部屋になっていて、部屋の中央に木製の箱が置いてある。



「はこ?」


「宝箱だよ、開けてみて、トラップは無いから」



 リバティが宝箱を開けると、中から透明な水晶で出来た小瓶を取り出した。


 透明な小瓶には、青い液体が入っている。



「何だ、これは?」


「それはポーション、傷薬よ、飲めば、切り傷、打撲、火傷、何にでも効くし、疲労回復もする」


「珍しい物なのか?」


「普通に街中でも売ってるわよ、とりあえず貰っておきましょ」



 私がそう言うと、リバティは、ポーションを袋の中に入れる。



「こうやって迷宮を探索して、宝箱からアイテムを見つけるのが、ダンジョン探索の醍醐味よ」



 階層が浅い場所の宝箱では、珍しいアイテムは無いが、これが高ランクのコアダンジョンの深い階層ともなると、レアと呼ばれるアイテムなども手に入る。


 レアと呼ばれるアイテムは、高額で取引され、一攫千金を夢見て、ダンジョン探索をメインにしている冒険者も居るくらいだ。



「この宝箱の中身は、誰が入れたんだ?」


「ダンジョンコアよ、時間が経つと自然に宝箱の中身が補充されるの」



 階層の浅い、特に価値の無いアイテムは、宝箱から取り出しても数時間、もしくは数日で中身が生成され補充される。


 これが、階層が深く、レアアイテムと呼ばれるモノになると、何年、何十年と時間をかけて中身が生成されるのだとか。



「あの宝箱は、私たちみたいな冒険者を呼び寄せる餌よ」


「えさ?」


「コアダンジョンってね、進化するって言ったでしょ」



 本来、コアダンジョンが進化するには、ダンジョンコアが自然に存在する魔力を吸収し、その魔力が一定以上溜まると、コアダンジョンが進化すると言われている。


 そんなコアダンジョンの中で、人間が死亡すると、その亡骸からダンジョンコアが魔力を吸収するのである。


 進化したコアダンジョンは、階層が増え、フロアも複雑化し、生み出されるダンジョンモンスターも強くなり、そして、レアアイテムも生成される。


 ダンジョンコアが迷宮を創り、宝箱で冒険者を誘い込み、生み出したダンジョンモンスターに倒させ、傷つき倒れた冒険者の魔力をダンジョンコアが吸って、ダンジョンが進化する。


 このサイクルを繰り返すのだ。


 ダンジョンに入った時に、リバティが『まるで巨大な生き物の中に居るようだ』と言ったが、あながち間違っちゃいない。


 ここはダンジョンコアのテリトリーの中なのだから。



「何でダンジョンコアがそうやって進化するのか、魔導師じゃないから、私はそれ以上の詳しい事は、知らないけどね」


「シャオ、そのダンジョンモンスターと、魔獣は、違うモノなのか?」


「んっ、見た目は一緒だよ、ただちょっと特殊って言うか・・・」



 部屋を出た直後、不意に私の鼻が不快な臭いを嗅いだ。


 身体が勝手に反応し、腰を落として身構える。


 通路の奥から何かが歩いてくる足音や、息遣いが聞こえてくる。


 薄暗い通路の中から現れたのは、人間よりひとまわり小さく、緑色の肌に赤い目、鉄の兜を頭からかぶり、鉄の鎧を身に付け、手には剣と盾を握っている。



「あれは?」


「ゴブリン?! なんで!?」


「反対側からも来たぞ、挟み撃ちにされたな」



 どう言う事? 攻略書には、スケルトン系しか出現しないと書いてあったのに? 誤情報?


 しかし、まぁ、丁度良いや、リバティにダンジョンモンスターの説明をするより見てもらった方がはやい。


 とりあえず、こいつらぶっ飛ばそう。


 通路の奥から出来てたのが二匹・・・その後方に弓矢を持った奴がもう一匹。


 反対側からも、武装したゴブリンが四匹、合計で七匹か。




「リバティやるわよっ! 反対側の連中をお願いっ!」



 私は、リバティにそう言うと、通路の奥から来た二匹のゴブリンに向かって駆け出した。


 瞬く間に、私とゴブリンの距離が詰まる。


 ゴブリンが手に持ったボロボロの剣を振りかざす。



「遅いっ!」



 走る勢いそのままに、私の拳がゴブリンの顔面にめり込む。



 ドゴォッ!



 通路に鈍い音が響く。


 ゴブリンの醜い顔が歪み、潰れ、吸収しきれない衝撃に血を噴き出しながら派手に吹き飛ぶ。


 もう一匹のゴブリンは、仲間がぶちのめされた事に驚いたのか、目を見開き硬直している。


 その驚いているゴブリンのこめかみに、十分なひねりと体重を乗せた拳を叩き込む。



 ゴキィッ!



 鉄兜が陥没する程の威力の拳に、ゴブリンはその場で絶命する。


 その時、私の獣の耳が、シュッと言う空を切る音を拾う。


 奥に居たゴブリンが、矢を放ったのだ。


 私は、飛翔してくる矢を目前で掴む。


 私の動体視力と、反射神経を舐めてもらっちゃ困るわね。


 私に飛び道具なんて、十年早いわ。



「ほらっ、返すよ!」



 掴んだ矢を、撃ってきたゴブリンに投げ返す。


 投げ返した矢がゴブリンの眉間を貫くと、ゴブリンはその場に倒れた。


 はい、終わり、準備運動にもなりゃしない。


 振り返ると、リバティが盾を粉砕し、ゴブリンの首にハイキックを叩き込んだ所であった。


 おお、重くて綺麗な一撃だ、ありゃ首の骨いったな。


 見れば、既にリバティの足元には、三匹のゴブリンの亡骸が横たわっている。


 どうやら、今のが最後の一匹だったみたいだ。


 さすが、この程度のモンスターじゃ相手にもならないか。



「これがダンジョンモンスターか、魔獣と何が違うんだ?」


「まぁ、見ててよ」



 そう言っている間に、倒れたゴブリンの身体が薄く透明になり、やがてスーっと姿を消した。



「消えた?」


「これが、外の魔獣と、ダンジョンモンスターの違いよ、消えちゃうから素材は剥ぎ取れないけど・・・っと、あったあった」



 私は、消えたゴブリンの辺りを見回し、床に落ちている小石の様なモノを拾い上げると、指で弾いてリバティに渡す。



「これは?」


「それは魔石、ギルドに持って行けば買い取ってくれるのよ、袋の中に入れといて」



 魔石は、魔道具と呼ばれる物の材料になる・・・らしい。


 あいにく、どのような加工をしているのかは知らないが、この魔石を使い、魔道ランプと言う光を放つランプや、魔道コンロと言う火が出る調理器具など、日用品に使われている。


 原理が分からなくても使えるのが道具の強みだ。


 残念ながら獣人の国では、作れる者がほとんどいない為、これらの魔道具は輸入されるモノがほとんどであった。


 余談だが、人の国への魔石の輸出量は、多いらしい。


 また、モンスターの強さによって、魔石の大きさも変わってくる。



「ドロップアイテムは・・・無しか、まっ、ゴブリンのドロップアイテム何て大したモノないしね」


「ドロップアイテム?」



 ダンジョンモンスターは、全てダンジョンコアの魔力によって生み出されている・・・らしい。


 その為、倒されたモンスターは消えて、ダンジョンコアの魔力へと還るのである。


 それじゃあ魔石って何? って話になるが、それは知らないわ。


 何度も言うけど、私は魔導師でも研究者でもないからね、ただの闘士だ。


 とにかくダンジョンモンスターを倒すと、基本的に魔石を残して全て消えてしまう。


 それは、モンスターが身に付けている武具なども、例外では無い。


 だが、稀に身に付けている武具や、アイテムが消えずに残る事がある。


 それがドロップアイテムと呼ばれるモノであり、深い階層のダンジョンモンスターや、迷宮のボスなどを倒すと、珍しい魔法の武具などが残る事もあるらしい。


 そう言うモノは、レアドロップと呼ばれている。


 冒険者の中には、レアドロップ狙いで特定のモンスターを狩る者もいるらしい。


 その様な冒険者は、レアハンターと呼ばれているとか。



「さてと、それじゃ先に進むわよ」



 説明を終え、残っていた魔石を回収した私たちは、攻略書に書かれていないゴブリンの襲撃に若干の違和感を覚えながらも、探索を続ける事にした。




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