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第七話 冒険者


 私は、カウンターに近づくと、ジムとネモに声を掛ける。



「ジム、ネモ、そろそろ私たちの事を紹介してもえらえない?」


「えっ? あら? 可愛らしい獣人のお嬢さんですね、ジムさんのお知合いですか?」


「彼女が今話した、魔獣ビッグベアを倒した旅の冒険者です」


「へっ?! えっ?! こんな小さな女の子がっ!?」



 そりゃあ、いきなり現れた、可憐でキュートで美少女な獣人の私を見れば、驚くでしょうね。


 その美少女が脅威度Cランクの魔獣ビッグベアを倒したと言われても、信じられないのも頷ける。



「論より証拠ってね、リバティ、それ、広げて」


「分かった」



 私がそう言うと、リバティが担いでいたビッグベアの毛皮を広げる。


 ギルドのロビーを埋め尽くす、巨大なビッグベアの毛皮。


 その圧巻の光景に、ギルド内にいた他の職員や、冒険者たちも集まって来て騒然となる。



「どう? これで信じてもらえたかしら?」


「えっ!? あっ!? はいっ!?」


「それじゃ、この毛皮、買い取ってもらえる?」



 呆然としているしている受付嬢にそう言うと。



「はっはっは、お嬢ちゃん、嘘はいけないな~」



 そう言いながら人垣をかき分けて現れたのは、一際大きな男だった。


 がっしりとした体にプレートメイルを着込んだ、典型的な戦士の格好をしている。


 ・・・何でこうも私は、毎回チンピラに絡まれるかね。



「あっ、あの人は!?」


「知り合いかい?」


「Dランク冒険者のブライアンさんです」



 私の獣の耳が、リバティとジムの小声を拾う。


 Dランク冒険者ね~、その割には危機察知能力が低そうだ。


 こいつは、見掛け倒しだな。



「どこから盗んで来たんだい、正直に言えば衛兵には、突き出さないでやるぜ」


「・・・盗んでない、私が倒したのよ」



 チラリとリバティを横目で見ると、腕を組んでこちらを見ている。


 どうやら止める気は、なさそうだ。


 ただその目は、やり過ぎるなよと、訴えていた。


 分かってるって、私だってギルド内で暴れようとは思っていないわよ。



「はっはっは、こんなチンチクリンのガキが、こんなデカい魔獣を倒せるわけないだろ」



 前言撤回。


 こう言う勘違いした輩には、キッチリと教えてやらないといけないわね。



「は~~~~~~~、身体がデカけりゃ、強いと勘違いする」


「・・・なにぃ」



 私がため息を吐きながら呟いた大きな独り言に、ブライアンは目を細める。



「武器を持てば強くなったと勘違いする・・・三下ってやつ?」


「口の悪いお嬢ちゃんだな・・・ケンカ売ってんのか?」


「だったら、どうするのかな?」



 私は、自信たっぷりの笑みを浮かべたまま、ブライアンを睨み返す。



「そう言う悪い子は、捕まえてお尻ペンペンだ」



 言いながら、私を掴もうとゴツイ手を伸ばして来る。


 私は、その腕を避けると、目標を失ったブライアンは、バランスを崩してしまいたたらを踏んだ。


 そして、すれ違いざまにブライアンの脚を引っ掛けると、短い声を上げてその場にこけた。


 ああやってしまった、でもまぁしょうがないよね、私の事を馬鹿にしたんだから、自業自得だよね。



「なぁにやってんだか、野生の動物でも、もう少し頭が良いんじゃない?」



 私は、指で自分の頭をトントンと叩きながら、床に転がったブライアンを挑発する。


 ブライアンの顔が、見る見るうちに赤くなる。



「このクソガキッ!! ただじゃおかねえっ!!」


「最初からそのつもりだったでしょうが」



 ギルド内では、騒ぎを起こすつもりはなかったんだけどな~。


 こうなっちゃったら、仕方ないわよね~。


 周りの冒険者たちで、止めに入る者はいない。


 ギルド職員も遠巻きに、これから始まるであろう騒動を予感し、見守るだけで止めようとはしない。


 ギルド職員は止めに入れよと思うが、顔を真っ赤にして血管を浮き上がらせている巨漢の冒険者を前にしては酷な話かな。


 それじゃ、軽く相手してあげますか。


 私はニヤリと笑い、その口元から牙を覗かせる。


 それを合図に、ブライアンが腕を振り上げた。


 拳は握っていない、流石に女子供を殴ろうとは思っていないようだが、その大きな掌で叩くつもりのようだ。


 私は、向かってくる、その平手打ちを躱し・・・。



「・・・やめろ、ブライアン」



 ブライアンが、その腕を振り下ろす前の絶妙なタイミングで声が飛んできた。


 ブライアンは腕を振り上げたまま、声のした方を振り向き、私も視線をそちらに向ける。


 ザッと人垣が割れ、その先には、椅子に座りテーブルで酒を飲む、一人の男の後姿があった。



「アクセル止めないでくれ、今このメスガキに分からせてやる所なんだ」


「・・・聞こえなかったのかブライアン、俺はやめろと言ったんだ」


「うっ・・・」



 高圧的ではない、しかし、決して反論を許さない雰囲気を漂わせている。


 見るからに暴れん坊のブライアンを、言葉だけで制した事からも、この男の実力の程が垣間見える。


 その男、アクセルが空になったグラスをテーブルに置くと、席を立ちゆっくりとこちらに歩いてくる。


 肩には、トゲ付きのショルダーパッド。


 腰には、左右にショートソードを下げている。


 双剣使いか。


 そして、何と言っても目を引いたのは、頭の左右を剃ったモヒカン頭だ。


 へえ、こいつは中々、雰囲気のある奴が出てきたわね。


 少なくとも、この三下ウドの大木より、格は数段上だ。



「あっ!? あの人は!?」


「知ってるのかい?」


「Bランク冒険者のアクセルさんです、ここの冒険者の顔役ですよ」



 私の獣の耳がリバティとジムの小声を拾う。


 Bランクか、なるほど、貫禄がある訳だ。



「あんたがここのボスって訳ね」


「・・・別に、お山の大将を気取ってる訳じゃないがな」



 見た目に反し、落ち着き払った紳士的な態度で接してきた。



「・・・俺の名はアクセル、俺の仲間が失礼な事を言ってしまい申し訳ない、あいつにはよく言って聞かせるんで、ここは俺の顔に免じて許してやってくれないか?」



 アクセルはそう言うと、私に深々と頭を下げた。



「ちょっ、何であんたが、こんなガキに頭を下げるんだよ」


「・・・ブライアン、いつも言っているだろう、相手を見た目で判断するなと、お前は、そんなんだからいつまで経ってもDランクなんだ」


「で、でもよぉ・・・」


「・・・ブライアン、お前、俺の顔に泥を塗る気か」


「いや、そんなつもりは・・・」


「・・・このお嬢さん、強いぞ、それに、その連れのお兄さんもな」



 そう言って私と、リバティに視線を向ける。


 流石、Bランクともなると、危機察知能力が高い。


 相手の強さを判断できるくらいの眼力を持っている。


 私は、チラリとリバティを横目で見ると、頷くのが見えた。



「分かったわよ、あんたの顔を立てて、この事は、これでお終い」


「・・・そう言ってもらえると、助かる」



 ブライアンは、納得していない様子だが、格上のアクセルの手前か渋々私に頭を下げる。


 まぁ、ギルド内でこれ以上暴れる訳にもいかないしね。



 パチッ! パチッ! パチッ! パチッ!



 不意に、周囲に集まっていたギャラリーの中から一人、手を叩きながら私たちの前に進み出る者が居た。



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