第十九話 容疑者
「ふぁ~~~、何でこんな事になるのかしらね~」
私は欠伸をしながら、不衛生とまでは言えないボロベットの上で寝ころびながら愚痴をこぼす。
今、私とリバティは、コアダンジョン崩壊後、街の詰所の牢屋にふたりで入っている。
「仕方あるまい、彼らも仕事だ」
リバティは、壁に背を預け、腕組みをしながら呟く。
リバティの言う彼らとは、私たちを捕らえた衛兵たちの事だ。
ダンジョンの近くには、管理と監視用に冒険者ギルドと街の衛兵の派出所がある。
轟音を聞きつけ、ギルド職員と衛兵が駆けつけた所、崩壊したコアダンジョンと、その入り口に居た私とリバティを発見。
衛兵たちは、私たちがコアダンジョンを崩壊させたと勘違いし、私たちを拘束した。
この時、衛兵だけであれば暴れて逃げても良かったのだが、ギルド職員たちもいたので、私たちはおとなしく衛兵に拘束されることにしたのである。
ギルド職員に冒険者である事を告げ、ギルドカードを渡し、ギルドマスターに連絡するお願いもしておいた。
こうして私とリバティは、コアダンジョン崩壊の容疑者として、衛兵に捕まり街まで連れて行かれ、詰所の牢屋に入れられたのである。
「腹減ったな~、飯くらい出して欲しいわよね」
私がボロベットの上でゴロゴロしていると、扉の開く音が聞こえた。
続いて床を複数人歩く音が近づいてくると、私たちの牢の前で止まる。
「君たちか、まったく昨日の今日だぞ」
ボロベットから身を起こして見れば、そこには、鉄格子越しに衛兵とギルド職員、そして髭を生やした中年のおっさんが立っていた。
ギルドマスターのリチャードだ。
「ギルマスが直々に来てくれるとはね」
「ギルドが管理しているコアダンジョンが崩壊して、拘束した犯人と思しき者が冒険者と言われれば来ない訳にはいかないだろう。
近隣の森の魔獣調査を始めたばかりだと言うのに、問題を増やしてくれたね~」
「それは誤解よ、でなきゃ私たちがおとなしく衛兵ごときに捕まると思う?」
リチャードは、やれやれと言った顔で顎髭を撫でる。
「一体、コアダンジョンで何があったんだい?」
私は、リチャードに、まずは、ダンジョン内でのダンジョンモンスターの異常を報告する。
本来は、スケルトン系のダンジョンモンスターしか出ないFランクのコアダンジョンで、ゴブリンやオーク、オーガに上級悪魔までいた事を話す。
「う~む、にわかには信じがたいが・・・」
最初は、半信半疑であったが、倒したダンジョンモンスターの魔石を拾ってある事を告げると、リチャードは衛兵から私たちの持ち物の中で一際デカい魔石を見せられる。
それはあの時、私は気が付かなかったがコアダンジョンが崩壊する際、リバティが拾っておいた上級悪魔の魔石であった。
「これは・・・確かにFランクのコアダンジョンでは、到底手に入るはずの無い魔石」
さすがに普段から魔石の買取をしているだけあり、その魔石の希少性は、私の話を信じるに足りる証拠となった。
そして、コアダンジョンの最下層で謎の三人組に出会った事を話す。
「魔道士の子供に、護衛の女剣士と虎の女獣人か・・・」
私はこの時、あえて彼らの名は伝えず、彼らの容姿だけを伝えた。
それは、虎族の闘士フウへの配慮だった。
同じ獣人と言う事もあったが、互いに名乗り合い、死合いを繰り広げた強者をお尋ね者にしたくなかった。
こう言うのを人の世界では何と言うのかな、殴り合ったらマブダチってやつ?
クリスの名を伝えなかったのは、単にお尋ね者として他の者に捕まるより、私自身が見つけてぶちのめしたいと言う個人的な感情からだ。
ノインは、まぁオマケだ。
そして、彼らがコアルームへの封印を解き、ダンジョンコアを盗み出し。
その後、次元収納と言う魔法で物を仕舞った事と、空間転移と言う魔法で消えた事を伝えると、ギルマスは顔をしかめる。
「コアルームへの封印を解き、魔導士でも使い手の少ない次元収納を使い、更に空間転移だって?」
そして、魔獣の活性化が起こっている事。
原因として、魔素だか魔力の濃度が上がている事。
その為、村や町だけではなく、都市や国などの広範囲で被害が出る可能性の事。
その影響で、コアダンジョンに異変が生じた可能性の事を説明する。
とは言え、私は、魔力や魔法に関しては素人である為、魔導士の子供がそう言っていたと付け加えた。
「空間転移をも使う魔導士が、そう言っていたのか」
リチャードは、額に手をやり考え込む。
「・・・実は、近隣の森を調査している調査団の、魔導師協会の魔導士たちから似たような報告が上がってきているんだ」
リチャードによれば、近隣の森の中の魔力の濃度が上がっており、魔素溜まりの様なモノが何カ所か確認されているとの事。
その影響からか、ゴブリンやオークの集落がいくつか確認され、その討伐準備を進めているとの事であった。
「しかし、その子供の話が本当であれば、早急に王国にある冒険者ギルド本部に連絡を取り、各村や町に国の騎士団を派遣してもらう事を進言してもらわねばなるまい」
普通、こんな話をしても信じてはもらえないだろうが、かりにもCランク冒険者である私の話である事と、コアダンジョンの異変の証明でもある大きな魔石。
そして、魔術の素人である私が聞いたと言う子供の魔導士の話と、調査団の魔導士の話の一致から、リチャードは、この話が真実であると信じたようだった。
「そう言う訳で、私たちはむしろ被害者よ、全部喋ったんだからここから出してくれない?」
私がそう言うと、リチャードは少し困った顔になる。
えっ、なによ、まさか牢屋から出せないとか言わないわよね。
そうなったら、暴れちゃうわよ私。
「悪いが、君たちを今すぐ牢から出す訳にはいかない」
はい、暴れるわよ。
こんな鉄格子ごときで、私を閉じ込めておけるとは思わない事ね。
私が指をポキポキと鳴らしながら鉄格子に近づくと。
「まてまてまて、頼むから暴れないでくれよ」
リチャードが慌てて制止を求める。
「私としては、君たちの話した内容は事実だと思っている、ただ事は魔獣の活性化に、ダンジョンコアの盗難、コアダンジョンの崩壊と、問題が一ギルド支部の範疇を超えている」
まぁ、確かに、ここの街が大きいとは言え、所詮は地方都市。
ギルマスも、地方都市の冒険者ギルド支部の支部長ってだけだからね。
「君たちを解放する手続きに衛兵隊長への説明、領主様への報告、冒険者ギルド本部への報告をする為に、一晩で良い待ってくれないか」
「・・・・・・ご飯」
「えっ?」
「お腹ペコペコなのよ、お腹が膨れたら寝てるわよ」
そう言って、私は鉄格子から離れる。
このギルマスは話の分かる人だし、一晩くらいおとなしくしていてあげても良いでしょ。
それにこの後、徹夜をして今回の件に関して、駆け回る事になるであろうリチャードに、流石に同情したくなる。
「助かるよ、夕食はギルド職員に届けさせる」
リチャードはそう言うと、一緒に来ていた衛兵とギルド職員に指示を出す。
おそらく衛兵隊長との話し合いと、私たちの夜食の手配だろう。
指示を受けた衛兵とギルド職員がその場を離れていく。
「明日には釈放できるよう手配しよう」
「お願いね」
「あと、その最下層に居た三人組だが、他に何か言ってなかったかね?」
ギルマスは、確認的に聞いたのだろうが、私はその時、クリスが言っていたある事を思い出した。
「あぁ、そう言えば、彼ら組織で動いてるみたいな事を言っていたわ」
「組織だって、それは貴重な情報だ、他には?」
「秘密結社『青薔薇団』って言ってたわ」
組織名を言った瞬間、リチャードの顔色が変わった。




