第十八話 崩壊
「やめましょう、やはり、獣人をこの手にかけるのは、僕のポリシーに反しますからね」
クリスはそう言うと、倒れているノインに歩み寄る。
「ノイン、起きてください」
「う、くぅぅ・・・」
クリスの掛け声に、気を失っていたノインが、意識を取り戻したようだ。
「う、くっ、クリス様!?」
ノインはクリスを見ると、ヨロヨロと立ち上がる。
「・・・かなり強く壁に叩きつけたんだがな・・・やはり間接的な攻撃では威力不足だったか・・・」
リバティの呟きを、私の獣の耳が拾う。
おいおい、壁にどデカいへこみ作る程の間接的な攻撃って、どんな攻撃したんだよ、気になる~。
それに、そんな攻撃を食らっても立ち上がるとか、タフだなこの女、これもキメラだからか?
「ノイン、フウと斬魔刀を回収してください、帰りますよ」
「は、はい、かしこまりました」
クリスの命令にノインは、斬魔刀と呼んだ馬鹿デカい剣を壁から引き抜き、床に倒れて気を失っているフウを担ぎ上げる。
その動きは、リバティから受けたダメージがまだ残っているのか、ノロノロとした動きであったが、私はその様子をただジッと窺っていた。
私の獣としての本能が、警報を鳴らしていた。
魔力の放出を止めたとは言え、下手に動いた瞬間、クリスに叩き伏せられる気がした。
「クリス様、フウと斬魔刀の回収が終わりました」
「ご苦労さま、斬魔刀は邪魔ですから、仕舞っちゃいましょう」
そう言うと、クリスはノインの持っている斬魔刀に触れる。
次の瞬間、超ド級の大剣である斬魔刀が消えた。
な、何っ!? あの馬鹿デカい剣が消えちゃった。
「・・・アイテムボックスか」
リバティの呟きを、私の獣の耳が拾う。
「アイテムボックス?」
「師匠から聞いた事がある、スキルと言う特殊能力を持つ者が使う術のようなモノで、道具などを何も無い空間に仕舞えるらしい」
なるほど、それを使って、このダンジョンにあんな馬鹿デカい剣を持ち込んだのね。
「ふんっ、流石に良く知っているみたいですね」
リバティの説明に、敵意剥き出しの不機嫌な声でクリスが答える。
ホントこいつ、リバティの事が嫌いみたいだな。
「ですが、生憎と今のは『アイテムボックス』ではありません、似ていますが今のは『次元収納』と言う立派な魔術です」
私には、どちらも見た事が無いのでどう言う原理なのかは分からないが、物が仕舞えると言う事は分かった。
そう言えば、魔道具で『収納袋』とか言うモノがあった・・・はず。
拳大くらいの大きさの袋に、剣だの鎧だのを仕舞える、超便利な魔道具だ。
その代わり、数が極端に少なく、お値段も目ん玉が飛び出るくらい高いと聞いた事がある。
「さてと、そろそろ名残惜しいですが、シャオさんとは、ここでお別れしなくてはなりませんね」
「こんな状況で、はいそうですかって、私が簡単に帰すと思ってるの?」
「もちろん」
そう言うと、クリスがサッと腕を振り上げる。
すると、何も無い空間に黒い穴の様なモノが現れた。
なっ!? 何だぁ!?
見た事の無いモノに対して、私は構えをとる。
「そう警戒しなくても、大丈夫ですよ、シャオさんに危害を加えるモノではありません、『空間転移』と言う魔術でして、ただの帰り道ですから」
クリスがそう言っている間に、フウを担いだノインが、黒い穴のようなモノに入って行き、姿を消した。
きっ、消えたぁぁーーー!!??
二人が消えちまったぞ!?
私が唖然としていると、クリスも続いてその黒い穴に入ろうとして足を止めると、振り返る。
「そうそう、シャオさん、コレ、何だか分かります?」
クリスは、掌の上ある黒い球体のようなモノを私に見せた。
なんだありゃ? 見た事無いぞ?
だが、クリスが自慢げに私に見せたのだ、何か重要なモノの筈。
ボール? 水晶? 宝石? 宝玉?
「ヒント、ここは何処でしょう」
ボスルーム・・・ダンジョン・・・えっ、まさか・・・!!!?
「ダンジョンコアッ!?」
「正解です」
ダンジョンコアなんて始めて見たわ。
こいつが、コアルームに入ったのは、ダンジョンコアそのモノが目的だったのか。
・・・んっ、ちょっと待て、ダンジョンコアがここにあるって事は・・・。
「それでは、シャオさん、生きていたら、またお会いしましょう」
「ま、待てッ!」
私が止める間もなく、クリスが黒い穴の中に入ると、クリスと共に黒い穴も消えてしまった。
慌ててその場に駆け寄るが、もはや影も形も無い。
部屋の中を見渡しても、彼らの気配も感じられない。
「気配が完全に消えた・・・逃げられたか?」
もしくは、見逃されたのか・・・。
正直な話、今の私が、クリスと闘ってどうなるかは、全く予想できなかった。
あれほどの魔力を放つ者と、人の国で出会ったのは初めてだ。
『生きていたら、またお会いしましょう』・・・か。
っと、その時。
ズゥゥンッ!
っと言う、大きな音と共に。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
っと、部屋が揺れ始めた。
うおぉ!? 何だ何だ!?
「・・・地震か?」
リバティの呟きに、私はハッとなった。
「リバティ! 今すぐダンジョンの入り口まで戻るわよ!」
私はリバティに叫ぶと同時に駆け出した。
部屋を出て、通路を駆ける。
「シャオ、何が起きてるんだ?」
「クリスがダンジョンコアを持ち出したから、ダンジョンが崩壊を始めたんだ! このままだと生き埋めになるぞ!」
リバティの疑問に、走りながら答える。
ちっきしょう、生きてたらって、そう言う意味かよ!
通路を駆け抜け、階段を駆け上がり、各フロアの来た道を逆走する。
幸い、道は覚えているし、なんなら来た時の匂いを辿れば、入り口まで迷わずに辿り着ける。
ダンジョンコアが無くなったからか、ダンジョンモンスターも消滅したようで、道中出会う事も無かった。
地下三階層、地下二階層、そして、地下一階層に辿り着く。
揺れはさらに大きくなり、たった今登ってきた階段が崩れて埋まった。
ヤバイ! ヤバイ!! ヤバイ!!!
ゴブリンを倒し、ポーションを手に入れた部屋の前を駆け抜けると、すぐ後ろで天井が崩落する音が迫ってくる。
地上へと続く、階段を駆け上がり、ダンジョンの入り口が見える。
間に合えぇぇっっ!!!!
私は、階段を駆け上がると、ダンジョンの入り口から外へ飛んだ。
既に日は傾き、鮮やかな夕日が大地を照らしている。
地面を転がり、大の字になって倒れ込む。
次の瞬間。
ズシンッ! ゴジャンッ!! スドドドドドドッ!!!
轟音と共に、ダンジョンは、完全に崩壊した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
地面に倒れながら、大きく肩を上下させつつ乱れた呼吸を整える。
や、ヤバかった、あとほんの少しでも遅かったら、生き埋めにされていたわ。
「はぁ、はぁ、はぁ、り、リバティ、無事? 生きてる?」
「あぁ、間一髪ってやつだな」
私は、自分とリバティが生きている事にホッと胸で撫でおろす。
そして、フツフツと怒りが込み上げて来る。
やってくれたわね、クリスゥゥゥ・・・。
この借りは、倍にして返してやるわよ。
私は、倒れたまま拳を振り上げ、そう強く誓った。




