第十七話 魔導士クリス
はぁ、久々に充実した死合いだった。
虎族の闘士フウに勝利した私は、その場にへたり込む。
腕が痺れてあがりゃしない。
私が座り込んでいると不意に、頬にヒヤリとした冷たい物が押し当てられた。
「ヒャウン!?」
やっべ、突然の不意打ちに変な声が出たわ。
振り返ると、リバティが指先に透明な水晶で出来た小瓶を持って屈んでいた。
「良い闘いだった」
そう言って、小瓶を私に手渡す。
これは、ダンジョンの最初の宝箱から見つけたポーション。
私は、痺れる腕で小瓶の蓋を取ると、中に入っている青い液体を飲む。
くぅぅ、染み込んでくる、身体に・・・。
「どうだった、彼女と闘った感想は」
「ん? う~ん、強かったよ」
虎族の闘士フウ、正直な所、私が負けていてもおかしくない位に強かった。
口が悪かったが、スピード・パワー・テクニック、全てが、間違いなく獣人の中でも超一流の分類に入る。
それに、獣気に関しては、正直驚かされた。
まさか、獣気を飛び道具の様に飛ばす技があるとは、思わなかったわ。
あの後、もしフウの意識が一瞬逸れていなければ、勝負はどうなっていたか。
もっとも、闘いに『もし』はないけどね。
でも、この闘いで分かった事がある。
それは、私は、まだまだ強くなれると言う事だ。
獣気を飛ばす技。
虎族に出来て、狼族の私に出来ないはずはない。
更に修行を積めば、私も同じ域に至る事ができるはず。
「そうか、強かったか」
リバティは、それだけ言うと微笑む。
その笑顔を見ただけで、私の疲れた身体が軽くなった気がした。
まぁ、実際には、ポーションの効果が出ただけだろうけど。
私は、小瓶に残っていた青い液体を飲み干すと、立ち上がる。
腕の痺れもポーションの効果でとれた。
さて、これからどうしようかな?
フウを締め上げて、知ってる情報を聞き出すか、それとも飼い主のクリスの後を追うか。
そう言えば、あのノインって女剣士は何処に行った?
「リバティ、あの馬鹿デカい剣を持った女剣士は?」
私の問いに、リバティが親指を立てて、クイッっと指差す。
その方向に視線を向ければ、壁にドデカいへこみが作られ、その下に褐色の女剣士ノインが倒れていた。
うへぇ!? 何だよあれ、生きてんのか? どうやったらあんな状態になるんだよ。
フウとの闘いに手一杯で気が付かなったが、どんな戦いをしていたんだ。
うわー、観たかったなー、リバティの戦ってる所。
っと、私が悔しがっていると、奥のコアルームへと続く扉が開いた。
「これは!?」
扉の奥から現れたフードで顔を隠した子供が、驚きの声を上げる。
フウの飼い主である、クリスだ。
「あら? お早いお戻りで」
「シャオさん・・・フウを倒したのですか?」
「残念だったわね、あんたの自慢のペットは、遊び疲れてお寝んね中よ」
「驚きましたね、まさかフウを倒すとは・・・」
床に大の字で倒れているフウと、私を交互に見比べる。
「これは、ますますシャオさん、あなたを欲しくなりましたよ」
「負けたペットには、もう興味が無いって?」
「フウは、後で僕が慰めてあげましょう」
なんだ、頭でも撫でてやるのか?
虎女のフウが、子供のクリスに頭を撫でられるのを想像して、私は吹き出しそうになる。
「なんなら、シャオさんも仲間になれば、僕が可愛がってあげますよ」
「お生憎さま、誰かに飼われるのは性に合わないの」
「いいですね、僕シャオさんみたいな気の強い獣人は大好きですよ」
「随分と余裕じゃない、おとなしくあなたの目的と組織とやらの情報を吐けば、私を襲わせた事は水に流してあげても良いわよ?」
「僕の目的ですか・・・そうですね、フウを倒したシャオさんには、特別に教えてあげましょう」
クリスは、胸の前に両手をかざし、高らかに宣言する。
「僕の目的・・・それは、獣人のハーレムを作る事です!!!」
・・・はぁ?
いや、そんな事力説されても困るわ。
「なに、あんたの所属してる組織ってのは、私みたいな可憐でキュートで美しい獣人を攫う奴隷商人ってやつ?」
「いえ、獣人ハーレム化計画は、僕個人の野望でして、組織は関係ありません」
「あっそ」
呆れてモノも言えん。
何か壮大な、世界征服でも企む悪人かと思ってたけど、拍子抜けだわ。
「僕は、趣味と実益を兼ねて獣人の研究をしていましてね、もっとも、その研究の過程で、ノインの様なモノを作ったのですから、ちゃんと組織に貢献しているんですよ」
・・・!?
すると、今まで黙っていたリバティが口を開いた。
「彼女は、俺の蹴りを受けても平然としていた、その際『クリス様より授かった力』と言っていたが、彼女に何をしたんだ?」
だが、その問いに、クリスはプイッと顔を背ける。
リバティの事、嫌ってるな~。
「あの女剣士に、あんた何したのよ」
「彼女は、僕の作った作品なんですよ」
あっ、私の問いには、素直に答えるのね。
って、作品?
・・・? 何言ってんだコイツ?
ピンッと来ていない私に、クリスが更に説明する。
「分かりやすく言えば、キメラと言う奴です、知ってますキメラ?」
キメラ!?
聞いた事はある、確か、獣同士がくっ付いた魔獣だったはず・・・。
そこまで考えた時、私はゾッとした。
確かこいつは、獣人の研究をしてるって言ってたわよね。
獣人ハーレム化計画って、まさか・・・。
「あんたまさか、人と魔獣をくっ付けたの!?」
「融合と言ってください」
「それって、やったらダメなやつじゃないの」
「まぁ、魔導士の世界でも、禁忌と呼ばれる呪法ですね」
こいつ、ただの獣人好きのケモナーだと思ってたけど、とんでもない。
このガキ、とんだ鬼畜サイコ野郎だわ。
「ノインには、強大な力と強靭な肉体を、オーガの最上位種『ギガオーガ』から、溢れ出る魔力は、上位悪魔にも匹敵する『ダークエルフ』から、それぞれの力を融合して与えたんですよ」
魔法の事は分からないけど、あのノインって女剣士が、あの馬鹿デカい剣を片手で振り回していたのは、その力のお陰か。
「あなたにキメラを作らせる組織って、一体何なのよ」
取り敢えず、こいつと、こいつが所属する組織ってのがまともじゃ無い事は分かる。
少しでも、その組織の情報を聞き出しておいた方が良さそうね。
別に私には関係ないけど、冒険者ギルドのギルドマスター辺りに話しといた方が良さそう。
「・・・秘密結社『青薔薇団』」
ブルーローズ? それが組織の名なの?
「秘密結社なのに、組織名を言っちゃったけど良いの?」
「ふふっ、構いませんよ、そもそも存在しないんですから」
・・・? こいつの言ってる事は、わけわからん。
なんだ? 揶揄ってるのか?
「おっと、喋り過ぎましたね、ここから先は、僕の仲間になったら話してあげても良いですよ、もしくはシャオさんの尻尾・・・」
「仲間にもならないし、モフモフも無しよ」
うわ、モフモフ無しって言った瞬間、フードで顔は見えないけど、もの凄くショック受けてるのが分かるわ。
「う~ん、困りましたね~、こんなに秘密を喋ってしまったのに仲間にならないなんて、僕はシャオさんを」
部屋の空気が一瞬にして重くなる。
そして、身体までもが急激に重くなった。
クリスから発せられる魔力の重圧が、身体にのしかかる。
「殺したくないんですよね」
くっ、これが魔力の圧力か。
なるほどね、圧倒されるわ。
並みの奴なら、これだけで動けなくなり膝を付くでしょうね。
だけど。
私は両足を開き、両腕を下げたままの自然体に構える。
「はあぁっ!」
短い気合と共に、獣気が私の小さな身体を駆け巡る。
私の練り上げた獣気が、魔力の重圧を跳ね除けると、身体が軽くなる。
「その程度の脅しに、私が怯むとでも思ってるの?」
私が逆に獣気の圧力をクリスに向けて、睨み付ける。
「アッハッハッ、やっぱりシャオさんは素晴らしい、僕の威圧に屈するどころか逆に圧を掛けて来るとは・・・惜しいな~」
っと、その時、フッとクリスは、魔力の放出を止めた。
それにつられ、私も獣気の放出を止める。




