リクとクレア
屋敷で発覚した殺人。
そしてその被疑者達4名。
ここはどの国にも属さない土地であるため、国の司法というものが及んでいない。ただこの屋敷のレイラこそが、検察官であり裁判官である。
そして呼び出され、あの牽制。
4人には少なからずプレッシャーがあった。
「久しぶりね。アン」
気が滅入っている時に、メイドの一人が話しかけてきた。
「ごめんなさい。どちら様?」
「あら。旧友を忘れる何て、ひどいものね。デリラ。この名前に覚えはない?」
「デリラ!」
「ああやっと思い出した」
「ええ。あなたもここにいたなんて」
「私は知っていたわ」
「話しかけてくれたらよかったのに」
「そうしようかと思ったけどね。しかしまさかこんなことになるなんてね」
「ええ」
「民主派は随分過激なこと。自分たちの大義のためなら殺人も厭わないのかしら?ねえ。アン?」
「何が言いたいの。あなたも民主派じゃない」
「忘れたいから思い出させないで」
「なぜ!」
「なぜ?人は変わるものよ」
「昔あれだけ…」
「民主派は正義なんて嘘よ。自分たちはそう思っているのだろうけどね」
「…」
「今回の件だってそう。あなたにとっては、そうは思わないのだろうけど」
「何を言っているの?」
「今回の事件、あなたじゃないの?犯人」
「何でそう思うのかしら?」
「今回の騒動。他国にとってはあまりメリットがない」
「私たちの国もそうじゃない」
「そうね。民主派以外は」
「…」
「民主派は、独裁を心から憎む。他国の協力。まるでプライドもなく、他人を頼りながら、しかし、自分達は正しいと思い込みながら、事をなそうとする。あなたも。かつての私も」
「それが何よ。それがどうして私が犯人となるのかしら」
「その考えこそ。まさにあなたが犯人である証拠よ。グラディウスにとって都合の悪い殺人。あまりに都合の悪すぎる殺人。外部からの圧力が強まる。それを狙った反抗。あなた以外いない」
「随分杜撰ね。小説家を目指すならもう少し話を捻りなさい」
「事実なんてものは、大半はつまらない出来事よ。全てが感動的なストーリーではない。ただただつまらない殺人。でも無視はできない」
「私ではない。なぜこうも目の敵にするの?あなたもかつては…」
「忘れたい。そう言ったはずよ。人の嫌なところを抉るなんて嫌な人」
「何があったの。そこまで嫌悪するなんて」
「…あなたは、あなたなのね。アン」
「どういうこと?」
「別に。ただ貴方にとっては、くだらないことよ」
デリラはそう吐き捨てその場をさる。
――――――
「寒」
リクは、一人夜遅くに、あまり手入れのなされていない建物の中にいた。
なぜか。
それは、ほんの数時間前の話―――
「おまえさん。そろそろ本格的に体を動かしたいと思わないかい?」
「今でも動かしていますよ」
「あんなの準備運動さ」
「準備運動のハードルを上げるのは良くないですね」
「軽口を言える程度なのだから、準備運動さ」
「それで、具体的に何を?」
「おまえさんは、前にも同じような場所に行ったと聞いている」
「あの祠みたいところです?」
「その通り」
「あれは何なんですか?」
「…」
「俺はそこで力を一つ手に入れました」
「ああ。『アウレア・アニマス』だね」
「それは何なのです」
「捲し立てるように質問はよしな。一つづつだ。一つ一つ落ち着いて考えよう。…まずはおまえさんが入った場所は、言うなれば墓場なのさ」
「墓?誰の?」
「誰のでもない。ただ死者の魔力がゆったりと特定の場所に集まり、そこで一つになり始める場所なのさ」
「死者の魔力が?」
「魔力は、死後も生き続ける。永遠ではないが、人の生よりも長生きなのさ」
「具体的には」
「今、世界の平均寿命はかなり向上し、60歳。先進国にいたっては、75歳にもなる」
「貴方は、100歳超えて随分お元気で―――」
リクが最後まで喋らなかったのはコーラからの右ストレートを腹筋に食らったためである。
(この世界の平均寿命は俺が生きた時代よりは低い。しかし、科学技術の見るとおそらく、俺たちの世界を基準とすると第二次世界大戦以前ぐらいの水準。その時は、60歳まで平均寿命はなかったはずだ、先進国ではいけたろうが、しかし75歳は不可能であったはずだ。やはり魔法か?才能がある者が、医療に関する能力を身につけたとしたらそれも頷ける。それに戦争が起きた時、医療が重要であることは疑いがない。先進国であるならば、当然育成に力を入れているはずだ。そしてもし、それにより何ら物資を要することなく、負傷者を治癒することができたのなら、それだけで恐らく有利に運ぶはずだ。下手に攻撃に特化した者より遥かに)
そのことに気がつくと、リクは少し恐ろしくなった。
それは予感があるからだ。
(この世界に来て、魔法が存在するとしても、人は変わらない。それに加えて帝国主義。…世界大戦が起きないと言えるだろうか?)
それはあまりに楽観的だと結論づける。
(起きると見とくべきだ。この世界の情勢をあまり理解はしていないけど、起きないと見て考えておくには俺たちの立場は低い場所にいない。俺たちは各国を巡らざるを得ない、その時に戦争が起きたなんてたまったものじゃない。どうするべきか考えておくべきだ。それに―――)
リクの懸念はそれだけではない。
(ウォリエタースの協力を得て、今行動をしようとしている。今はそれでいい。その程度の関係なら問題はない。しかし、あまりに近づきすぎたら?俺たちは中立的な立ち位置。そう中立。難しい立ち位置だ。どんなことが起きようとも、その立場に揺れがあってはならない。それが崩れたとき、俺たちはどうなる?…レイラさん。貴方はどう考えているのです?)
「おい」
「えっ?」
「えっ?じゃないわ!質問しといて上の空かい?質問者は答えを聞く義務があるのさ。わかるかい小僧?質問を受けて、それに対して恵みを与えるかのようにその要求に応えるのが、回答者。ならそれを受け入れることが質問者。要求に対して承諾したことにより、質問を答える義務が生まれ、おまえさんはその答えを聞く義務がある。わかるかい?それを今放棄したのだよ?」
「すみません」
「たく。もう一度説明するとだね。死者の魔力はおよそ、数百年生きると言われている」
「言われているということは、確定されていないのですね」
「ああ。魔力生存に関する研究はまだ発展途上、今の世界の状況からすると、軍事に直結しやすい、魔導兵器や人材育成に力を入れていて、後手に回っていると言っていい」
「なるほど。しかし、今の話から察するに、『アウレア・アニムス』はその死者の関わりがあるのでしょう?」
「その通り。端的に言うなれば死者の魔力が集まり、それが次第に個を無くし、一つの巨大な集合体となり、全く別の自意識を持ったものだ」
「自分が使えるからわかりますが、あれはかなり強力です。ただ放つだけで大きな威力になりうる」
「その通り。しかし、使えぬよ」
「使えない?」
「ああ。その通り、アウレア・アニムスを支える人間なんてほとんどいない。基本的には、使えない代物さ。ただし例外がいる。それがお前さんたちだ」
「俺やエレノア。レイラさんやクレアも?」
「クレアはまだ使えないが、その通り」
「何か条件があるのですか?」
「わからないが。おそらくは、優れた魔力とアウレア・アニムスとの適正」
「デスアモルたちも使ってましたが。そちらは?」
「おそらくは同じ類のはずだが、確定はできない」
「しかし、適性があるものなら、俺ら以外にもいるはずでしょう。まさか我々だけしか使えないのはあまりに都合が良すぎる」
「そうだね。それは都合がいい。その通り、他にも適正がある者は複数いるだろうさ。しかし、ここでもう一つ厄介なことがある」
「それは?」
「そもそもアウレア・アニムスはほとんど存在しない。お前さんが入ったような昔作られた墓のような中に、ゆったりと作られていくのだが、そのためには死者の魔力が膨大に必要とされるうえ、時間も数年では聞かない。だから適性があろうとも使う機会がないことも多い」
「なるほど。それならば、軍事的利用はかなり難しいというわけですね」
「その通り。さらにいうと、昔どさくさに紛れて、アウレア・アニムスが生まれるような墓は全て我々の管理下に置いてしまっている。だからなおさら手に入れる機会がない」
「それはまぁ。強かなことです」
「他国も他所に取られるぐらいならマシだと思っているのさ」
「それで、クレアはいつ使えるように?」
「そんな話はしていないと思うがね」
「まだっと言ったではありませんか」
「確かに。人の話は聞かない子だと思ったが、違ったようだ。その質問に答えるならば、お前さん次第だ」
「?」
「さっきも言った通り、以前と同様に祠に向かってもらう。そこでアウレア・アニムスを手に入れてもらう。しかし、手に入れるのはクレア。すなわち今回は、クレアと共に行動するのさ」
「クレアがアウレア・アニムスを手に入れ手伝いをするということですね」
「端的にいうとそうだね」
「それで修行になるのです?」
「ああなるさ。実戦こそ最も良い練習さ。今お前さんは知識を手に入れた。そして、それを使いこなさざるを得ない状況になれば、自然と使えるようになる。さあ。おしゃべりここまで。早速向かおう」
―――コーラからそう促され、リクはここにやってきたが、今回の主役クレアは見当たらない。
「お待たせしました」
「ああ」
「そこはもう少し優しい言葉をかけてほしいですね」
「悪かったな」
「そこももう少し心を込めましょうよ」
「それより、これからこの中に入るが準備は?」
「できてますよ。リクさんもできてますか?」
「ああ」
「これはリクさんの修行の一環でもありますからね」
「どちらかというとクレアの方じゃないのか?」
「その意味合いもありますが、リクさんの修行も含まれています」
「それがわからない。前は俺一人で向かったのに、なぜ今回は?」
「それはババァに言わないとわかりません。ですが何か考えがあるのでしょう。とりあえず考えられるのは、二人で挑まなければならない場所なのかもしれません」
「とりあえず、こんなことを考えても仕方ないか…」
「そうですね。行きましょう」
「ああ」




