メイドのアン
新キャラが登場して、ここからは主人公側で魔法について話しながら、その他のメンバーで話を進めていこうかなと思ってます。(主人公を一時的に島流的な形になってしまいますが…)
「…クソ」
「それだけ悪態がつけるなら大したものさ。だが、今日はここまでだ。料理が冷めてしまう」
結局全て倒しきれず、時間切れとなったしまった。
「グッドタイミング。ちょうど準備が整ったところだ」
ベアテルは振り返ることなくそう教えてくれる。
見ると確かに豪勢な料理が目の前に並べられていた。
「美味そうだね。誰が?」
「アンよ」
「ほう。素晴らしい。いい人材を見つけたということかい」
「?」
「この屋敷に来た新しいメイドよ。ほんの最近きたの」
「なるほど」
「ほら彼女よ」
自己の疑問についてエレノアは答えてくれ、その人物を指差す。
「初めましてリク様」
こちらの視線に気がついたのか、アンと呼ばれるメイドは丁寧に挨拶する。
「ああ」
「想像よりお若いのですね」
「君も。変わらないのでは?」
「ふふ。まだ17ですからね」
なんと自分よりも少しばかり年上のようだ。
「お話はそこまでにして、いただきましょう」
食事は素晴らしかった。コーンスープは濃厚で、市販でしか食べたことのない庶民派のリクはその味に驚くながらもゆったりと味わっていた。無論それだけでなく、肉料理、サラダ全てにおいて満足がいくものであった。
「コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
アンは食後のコーヒーをリクに差し出す。そのタイミングもまた絶妙である。
おかげで先ほどの苛立ちを忘れてコーヒーの味を味わう。酸味が抑えられており、その代わりにコクが深く非常に香りが良い。この酸味の少なさはブラジルやコロンビア産のコーヒー豆を思い出させる。もっともブラジル産であるならば苦味があるから、似ているかと言われると少し違う。
しかし、苦味が好きなリクにとっては大いに歓迎できるものだ。
(この男が救世主ね…あまり強そうには見えないわね)
アンは満面の笑みの裏側でそのような感想を持つ。
(でも、親しくなっておいた方がいいわね。私には私の目的があるのだから)
アンはこの屋敷に来る前のことを思い出す。
祖国グラディウスでのやりとりを思い出していた。
―――
「アン。君のことは聞いている。体術、魔法の能力は素晴らしい。学術の面においても申し分ない」
「…過分な評価を」
「しかし、親には恵まれなかったようだ。身分はそれなり、経済面においてはむしろ素晴らしいにも関わらず、反独裁派に所属して、活動をしていた。わざわざ自分達の老後と子供の未来に脅威を及ぼしてまでやることとは思えん。少なくとも、リスクとデメリットを考える力があればとてもその選択はできない」
その言葉は、両親のことを誇りに思っているアンにとって耐え難い侮辱であった。しかしここで怒りに身を任せてしまうのは、自分達の立場をより悪くする行為。その事実もまた、アンはよく理解していた。
「……」
「…感情のコントロールも申し分ないか。結構なことだ。君の親はカッとなっていたが、君はよく耐えた。素晴らしい。子が親を変えることは親自身本望なことだ。私も見習わなければな…」
目の前にある男は、嬉しそうに呟いている。
「さて。これからの話をしよう。私と君の今後だ」
「……」
「君には二つの選択肢がある。一応選ばないであろうものも含めるならば、三つだがな」
「それで選択肢は?」
「一つは、潜入。スパイだな。あるところにおいて調べて欲しいものがあるのだ。しかしこれはそれ相応の武力がいる。しかしそれに見合う実力者がほぼいない。我が国の人間の軟弱性を悲しむべきか、あるいはその程度でしかないこの国そのものを悲しむべきか悩むところだがな」
男は幼児でももう少しうまくできる悲しみの表現を披露してみせた。
「そして、もう一つ。アン、私と一緒にならないか?」
「…どういうことですか?」
「言わないとわからないのかな?アン、君はそんなウブな少女であったとは記憶していないがな」
「言葉の意味は理解しています。その真意を聞いているのです」
「裏を読むことは大事だが、時にはそのまま受けたことも大事だ。…まぁ。私のせいかもしれないがな。それでどうだ?」
「前者で」
後者を選択することはアンにとってなかった。目の前にいる男の真意がまるでわからないし、何よりこちらのプライド、誇りをひどく傷つけられるものだ。
「…残念。いや、わかった。ならば前者で話を進めよう。アン、君に潜入してもらいたいの場所はアルビオン。聞いたことは」
「どの国にも属さない土地。私人が、所有権という権限を超えた管理権を有しているただ一つの土地」
「その通り。所有権とは、結局国により憲法、あるいは法律により認められたものだ。民主主義国家では基本的人権としての代表例の一つでもあるな。無論私たちの国でも認めているがな。合理的必要性に基づいて制限されるものでもあるが」
「この国ではそうなのでしょう」
「勉強不足ではないかな?民主主義国家であろうとも例外ではない。憲法で保障されようとも絶対不可侵ではないのさ、内心の自由とは違うのだよ」
「…そうですね。しかし、なぜアルビオンに?」
「国同士のパワーバランスの問題さ。我らグラディウスを含めた五大国は、それぞれ『護石』を有している。人類にとって脅威であるデスアモルの母である、デストヒュヌスを封印した石だ。この石により一定程度五つの国は対等な関係となったいるが…現状完全にそうなっていない。ウァリエタースが、今覇権を握り、我々は奴らの顔色を窺わなければならない。軍事力、経済力ともに奴らが上だ」
「魔道兵器生産のための、魔導石はこの国がほぼ独占。現在もそのことを理由にウァリエタースとの力関係はそこまで危惧するほどではないのでは?」
「魔導石は確かに軍事力的経済的側面において大切だろう。しかし、それだけでは足りない。共和国においても、魔導石の発掘製造に力を入れ、かつては数%であったのが、15%にまでのぼっている。我々の生産効率が上がっており、輸出を増やしていたにもかかわらずだ。これが厄介だ。正直我々グラディウスが派遣を握りたいというのが本心だが、現実問題まずは共和国の連中とのいざこざをなんとかしなければならない。その為には、ウァリエタースとの協力…いやそれができなくとも妨害を避けたい。しかし、民主主義のウァリエタースと共和国アルボス。全く助けないということは現状あり得ない。むしろ積極的な介入をしてくるはずだ。たとえそれにより我々と険悪な仲になろうと」
「それと今回の潜入になんの因果関係が?」
「交渉材料の調達さ。それもとびっきりのものをな」
「デスアモルまたはデストヒュヌスに関することですか」
「そうだ。あの土地は、先ほど君が言った通りどの国にも所属していない。その土地を我々が管理する」
「本気ですか?」
「ああ。その通り」
「そんな事態こそ他の国は黙ってない」
「無論だ。国通しでそのような話になれば即争いだ。だからこそ、中から攻める」
「説得で同行できるとは到底思えません」
「そうだろうな。だから管理が不十分であると、他国の協力があるという状況に持っていく」
「…既にお考えがあるようですね」
「護石はな、一定程度操作できるのだ」
「操作ですか?」
「護石にも寿命がある、その寿命を少しでも伸ばせるよう一定程度魔力量を調整できるのだ。本来、この調整はなんら意味を持たないものだった。しかしここにきて話が変わってきた」
「というと?」
「護石による封印が次第に脆弱となり、極めて不安定な状態にある現在。護石の調整次第では…」
「まさか!封印を解くおつもりですか!国の利益のために、世界を巻き込むつもりですか!」
「まさか。それにそんなことはできないだろう。いくら弱まったとはいえ、流石に完全に封印を解くことはできない。ほんの一部、アルビオン以外被害が及ばない程度の部分的開放だ」
「部分的開放。しかし…」
「君は前者を選んだはずだ。人間が自由権を持っていることは否定しないが、社会的な立ち位置に応じて制約されていくものでもあると私は思っているが、君は違うのか?」
「失礼しました」
「ならば、すぐに行け。準備はこちらで整える。途中選考があるが、切り抜けろ」
「承知しました。…父と母は」
「今は会わすことはできないが、できるよう整えよう。また、非人道的な行為は一切ない。貴族と比べれば質素だが、不自由はない」
「……」
「余計なことは不要だ。すぐに向かいたまえ」
―――
これはほんの一ヶ月ほど前であった。
アンはその後すぐにこの屋敷に潜り込むことができた。
(やってみせる。私は私のために)
更新がかなり遅れてますが、少しずつ更新しています。




