ベアテル
だいぶ更新が遅れてしまいまして申し訳ありません。
現在かなり忙しいので頻度は上げられそうにないです
それからレイラ一行は、すぐさま目的地アルキュミアに向かっていた。
しかしその場所は予想外に遠く、未だ到着しなさそうである。
最も巨大な大陸『ユースティティア』。この大陸は、経済大国ウァリエタースの他に共和国アルビオン、独裁国家グラディウス。さらに複数の小国が存在し、その数はおよそ30。以前はそれよりも多かったのだが、グラディウスに併合されたりとして今の数に落ち着いたという実情がある。
その巨大大陸の中央に、どの国にも所属することのない領土がある。その場所に目的地アルキュミアがある。
「レイラ様たちが、管理している土地面積は約1,5㎢よ」
「それはなかなか。国として見るのであれば、小さな国という感想でしかないが、一個人が所有しているとなるととんでもない広さだな」
「それだけ、重要視されていたのよ。少なくとも過去はね」
「しかし。アルキュミアにいくのは久しぶりですね。大丈夫ですかね?埃かぶってたら嫌ですよ」
「大丈夫よ。一応任せて出たのだから」
「その任せた人間を信頼してないんですけどね。タバコ好きとババァですよ?」
「……クレア。ババァはよしなさい。怒られるわ」
「そんなに怖いのですか?」
「ええ。うっかりその言葉を吐いたら問答無用でぶん殴られたわ」
「そもそも目上の人に対して失礼だけどね」
エレノアはと負い目をしながらそう答えるのに対してレイラは冷静なツッコミを入れる。
「それでどれだけかかります?もうずっと森の中を走っているように思えて、迷子になっていないか不安なまであるのですが……」
「大丈夫よ。クレアはよく通っていたこともあるから。もう時期着くわ。ね?クレア」
「……道間違えました」
「おい!」
「仕方ないじゃないですか!久しぶりなんですよ!でもご安心を!間違えたのはついさっき。追加で30分いただければ着きます!」
そう言ってクレアは、進路を変え正しい方へと向かっていく。
森の中の木々は想定以上の高さを誇り、建物が見えなかったが、それでも目的地に近づくとその建物の存在に嫌でも気付かされた。
建物は、いわゆる大聖堂。ゴシック建築が最も近しいだろう。もちろんこの世界とリクの世界では文化も異なるため、完全に一致しているとは言えないが、それでも大きな建物を支えるために周囲にいくつもの柱のように建てられている構造はゴシックと言える。
だが、特筆する点はその高さである。
その高さは300m?いや、そんな物ではない400mはある。
リクがいた世界ではそれよりも高いビルは存在する。アラブ首長国連邦のブルジュ・ハリファや中国の上海タワーなどはいい例であろう。
だが、それはあくまでビルの高さである。リクが目にしているのはビルではない。ゴシック建築の建物、教会に近しい物。アルキュミアといっており、おそらく何かしらの宗教を目的とした物ではないにしろ、そのような建物で400m以上を誇る建物は聞いたことがない。
リクが知っている物でも、ドイツにあるウルム大聖堂がせいぜい160mほどであったはず、それに比べても2倍上はある。
この世界は、少なくとも科学力においては数段劣っているのは間違いない。もちろん特定の分野ではこちらの方が進んでいるかもしれないが、この世界の建築を素人ながら見ても進歩しているような様子はなかった。
であるならば、あの高さはおかしい。
(魔法か?)
あるとしたらリクの世界になく、この世界にある技術。すなわち魔法。これが原因であろうとリクは推察する。
それが最も納得のいく物であるというのも理由だ。
「建物建築において、魔法が使用されるというのはあるのか?」
「?。もちろんあるわ。と言っても建築の際に事故が起きた際の防御や、簡単な取り壊し、など建物建築の上での細々とした作業においてよ、滅多にないわ。そもそも魔法を使いこなせる人間が少数。使いこなせたら使いこなせたらで、軍事や研究などにいくが多数であり、わざわざ建築に進む人はほとんどいないのだから」
「それもそうか」
そうすると魔法という線も消えるように思える。だとしたらいよいよあの建物はどうやって作られたのか?ますます疑問に思える。
「つきました」
だが、考えても出てこない問いに関して思考する時間は終わりのようだ。ついにその目的地に到着した。
「でかいな」
遠目で見ても高かった建物はいざ目の前にすると想像以上だ。その荘厳な建物を一目見ただけで少し感動を覚えてしまう。
「遅い到着ですね。予定では後1時間ほど早く着いたでしょう?」
いつの間にか目の前に一人の男がいた。
その男は懐中時計を使い現在時刻を確認しながら、おそらくクレアに問いかけていた。
身長は同じぐらいだろう。だが、顔立ち等を見るとおそらく年上、筋肉の発達もいい。スーツをピシッと決めており、好青年の印象を与える。
「少し道に迷ったの」
「……ふん。まぁいいでしょう。レイラ様お久しぶりです」
「ベアテル。久しぶりね。悪いけど、着いたばかりなの。少し荷物などを運びたいからいいかしら」
「もちろんでございます。彼女たちに手伝わせましょう。レイラ様はお疲れでしょう。部屋で休まれてはいかかですか。クレアたちも休んでくれていい」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えて、ほらレイラ様行きますよ」
「ちょっ。押さないで。クレア」
二人はそう言って建物中へと消えていく。エレノアもそれを見て少しため息をつきながら後を追っていく。リクもついていくべきであろうと足を動かし始めると、その前にベアテルという男が立ち塞がる。
「初めまして」
これほど歓迎されていないような挨拶は久しぶりだ。
これが最初に受けた感想である。
「初めまして」
それを分かった上で、おなじように笑顔をもって挨拶に答える。
そのあいさつを見てベアテルは口角を少しあげながら、タバコを取り出す。
「あんたが噂に聞く。救世主様かい?なんとも頼りなさそうだ」
「それはそれは。初対面でなんともな」
「祭り上げられるには祭り上げられるだけのことがなくてはならない。そうだろう?」
「で?それで俺はどうしたら?俺にどうさせたいんだ?」
ベアテルは咥えたタバコに火をつけ、一服しながら答える。
「一つ俺と勝負しよう。この俺。レイラ様に使える執事兼デスアモルの討伐部隊の人間たるベアテルとだ」
「タバコを消してくれ。副流煙がうざい。分煙という概念はないのか?」
「しらんな。タバコを吸うのになぜお前の許可がいるのだ」
「残念」
「さて勝負の内容だが、簡単だ俺を一発ぶん殴れたらそれでよし。ただそれだけ。シンプルな内容だろう?」
「そのムカつく顔を殴れるなら嬉しい以外何者でもないが、どうせただで倒させてくれんのだろう?」
「無論だ」
ベアテルの右手に粒子が、光の粒子が集まる。それが一個の物体の形。そう日本人であれば見たことある、そう日本刀のような形になれば、それが具現化される。
「俺はお前を近づけないように牽制する。それを掻い潜り殴るのだ。俺はこの場を動かない。だからお前から近づきなぐるのだ。俺とお前の距離は、せいぜい2mあるかないか。ちょっと踏み込めばすぐに俺の顔に近づける。近づけたらだがな?」
ベアテルは、刀を鞘から抜き、突く。この一連の動作の間、リクは動くことができなかった。
気がついた時にはすでに右頬が切れるかきれないかのの距離に刃がいた。
「今のように俺はお前に対して牽制する。無論多少は当てるつもりもある。それを掻い潜りながら俺を殴ってみせろ」
この一瞬のやりとりでリクは瞬時で理解したことは、自分と相手の力量差である。無論相手の方が格上である。それは今までの戦いでの経験が教えてくれた。己よりも強い相手を何人も見ていたリクにとってそれは容易なことである。
だが同時にそれは腹立たしいことでもあった。
己よりも強く、有能な人物がいる。いや、それはいいのだ。己と役割が重なるより自分のより有能な人間がいることに腹が立っていた。
「いいだろう」
だが、その感情を姑息な手段を使わせる方向へ向けるわけにはいかない。そのようなことを行うほど恥ずべき人間ではないと自負があった。
それゆえこの勝負。堂々と戦う。
リクは一歩前に出る。そのタイミングに合わせたようにベアテルは突く。それも一度ではなくこの一瞬に3、いや4回もだ。
そのおかげでリクの腕や足に切り傷が生まれる。無論この程度すぐに回復するが、それでも一歩近づいた距離がまた降り出しに戻った。
だが、これぐらいならば耐えられると踏んで、強引に進もうとすると、刀の柄で、リクの腹を攻撃し、後退させてくる。それが何度もやっても同様であった。
「なんだ。それで終わりか?その程度か?この俺に近づけずに終わるほどのざまか?だとしたらやはりお前はこの場にいるべき人間ではない。すぐに立ち去るべきだ」
「……いや。まだだ」
「まだ?どの口が?どの根拠で?すでに何度挑戦しても近づけていないお前が、まだ俺を殴れるとでも?」
「そうだ」
ベアテルの挑発にたいして、リクははっきりと答える。
「お前の態度はムカつく。そんな奴に言われっぱなしというわけにはいかない。何がなんでも一発殴ってやるさ」
「心意気はいいが、行動が伴っていないから救えん」
「いいな。すぐに判断を下すその頭。最高にいいよ。その態度を崩して驚いている表情を見て、鼻で笑うのは最高に気分がいいだろうな」
リクはベアテルに対して、心の底から嘲る。
「……そうかい。そうかよ!」
ベアテルは、力を込めて突く。狙いはリクの肩。
ベアテルは今まで大怪我になるような攻撃は一度もしなかった。しかし、今の長髪には流石に頭がきた。だから、死なない程度に大怪我を負わせることにした。
だが、それはリクにとっても好都合であった。ベアテルの攻撃は確かに速い。しかしすでに何度も見ていた。残念ながらそれでも交わせるほどの技量を持ち合わせていなかったが、ガードすることは可能であった。
そう自分の左手にベアテルの刀をわざと突き刺させることで。
そしてそれにより刀を封じることに成功した。
「……こ。こいつ!」
「ああ。その顔が見たかった」
直後リクの拳がベアテルの顔面にめり込む。いっさい加減のない右ストレート。しかも不意の一撃に近い形を持ってだ。
これには流石のベアテルもダウンは避けられなかった。
「うごぁ!」
(……なんら躊躇うことなく左手を犠牲にしやがった。俺の聞く話では、今まで戦いとは無縁の世界にいた人間と聞く。だから俺は、どの程度覚悟が決まっているのかを確かめるためもあった。だが、結果はどうだ?通常、己が傷つく可能性を自覚すると体が硬直したりする。そのために思っていいた行動が取れない。なのにこの男は、自ら進んで怪我を負い、そして俺に一発くらわせることに成功している。なるほど。これはなかなかやる。だが、なんだ?妙に、嫌な予感がする)
「……まさか殴られるとはな。それもこれほど華麗なパンチ。文句も言えないな」
「終わったかしら」
ベアテルが立ち上がるのとほぼ同時にエレノアが現れる。エレノアはチラリとリクとベアテルを見る。隠しているが勝ち誇った表情のリクと、不覚を取ったことに対する苛立ちと目の前の男を認めなければならないという感情を持ち合わせたベアテルを見てため息をつく。
「勝手に喧嘩をやるのはやめてくれない?レイラ様も気になさるでしょ?バレてないけど」
「喧嘩ではない。これは試験だ」
「その結果見事に痛い目にあったんだ」
「……そうだな」
「それで?その試験結果は?」
「合格だ。俺が貸した課題に対してお前は見事答えて見せた。ならば仮にここで腹立たしいと思ったとしてもその結論に変わりはない。それは言って終えば互いの暗黙の合意に対する裏切りであり、品位を貶める行為だからだ」
「それはどうも」
「エレノア。あんたは公証人として聞いておいてもらいたい」
「公証人って。私弁護士資格持ってないわよ」
「いいから。とにかく俺は、あんたを認め、そしてできる限りの協力をすることを約束する。それを誓うが、残念ながら俺とあんたの間では信頼関係がない。だからエレノアの前で宣誓させてもらった」
「わかった。その誠意しかと受け取った」
「改めて自己紹介をさせてくれ、俺の名は、ベアテル。レイラ様に使える執事だ」
「リクだ」
先程の握手と変わらず力強い物であるが、敵意が消え、互いに暗黙の了解を確かめ合う物であった。




