強者
「さて説明していただけますか?」
レイラは冷たくチェスターに問いかける。チェスターは冷や汗でいっぱいであった。
「なぜ。悪意のかけらがここに!アレは破壊しなければならいもの。私たちはこれ以上奴らが生まれぬよう破壊してきた。それなのにあなたは!」
「破壊!そんなことは知っている。だが、それでは非効率!私は失礼を承知して言わせていただく。レイラ様。いやあなた方はデスアモルと戦い続けた者。しかし、これはあなただけに任せて良い問題ではない!我らもまた向き合わなければならぬ代物」
「デスアモルを舐めないことです。私たちは奴らと何年もの間戦ってきた。今や下位レベルのデスアモルであればあなた方でも倒すことが可能でしょう。しかし上位となれば話が別。事実先ほど多数の犠牲が生まれてしまったではありませんか。奴らは私たちがやるべきことです」
「だからこそです。だからこそ私が、我らは必要なのです。悪意のかけらが!調べなければ、調べ尽くさなければ。奴らをと倒せない。我らは我らが生きるために必要なのです。あなた方だけに任せて我々はただ待てと?それはできない
我わは我らなりに人々を守らなければならぬのです」
チェスターは怒りながらレイラに述べる。
「人々を守る?しかし悪意のかけらのせいで関係のない人々が死んでいるのではないでしょうか?なぜこの街がこうも守りが薄く、その上繁華街はさらに手薄であるのか?それは自作自演であるがゆえではないでしょうか?襲わせる場所を指定してそこでデスアモルを暴れさせ、それをこの街の軍が倒す。それにより国から補助金をもらう。なんたること。ただの詐欺。何が人々を守らなければならないか!それを語る資格がない!あなたには!」
レイラは怒りを表す。そのせいか口調が強まる。
「詐欺?詐欺だと。どこが詐欺か!我らは国に貢献しているそれゆえ金をもらっているただそれだけのこと。金を懐に入れているとの疑問がおありか?とんでもない。それらは工場労働者の設備等に投資している。我が街は!経済を回しに回している。工場労働者の平均所得をお知りか!350万だ!少なくとも月々20万はある!失業率だってかなり低い!皆金がないといい柄も温かいベットで寝て休みの日には酒を飲み、娯楽を楽しむ間がある!それを作り出すために金を使っている何が問題だ!」
「だが、命を落としている人もいる!それは人道にそれたこと!」
「その時の補償は万全だ!家族は食っていける。食っていけるようにしている。問題ない!」
「飢えなければ良いという話ではないでしょう!」
「そうかもしれん。しかしこれは必要な犠牲!この犠牲がなければこの生活はあり得ない。それに無駄に死ぬわけではない。これはデスアモルに対抗するために必要なことだ」
「なぜ街でやる?ここは周辺に街があるというわけではない。外でやれば良いではないか?どうせデスアモルで実践経験を積ませる意図があるのでしょう?」
リクがたまらず横から入る。
「そういうわけにもいかない。それはできない。デスアモルを倒すのは実践経験を積ませること。確かにそれはその通り。彼らは経験を積みその後さらに国の護衛に回るのですから重要なことです。だがそれだけではダメだ。目に見えぬ危険は、市民は認識しない。認識しても目を逸らす。そして不平不満をいう。軍に対し街に対し。必要なものを不要と断定し、金を寄越せという。これほど補助をしているのにも関わらず、酒を飲みうじうじと。ならばどうする?簡単なこと危険を突きつけるしかない。奴らの頭を掴み目をこじ開け見せる他ない」
「それが人道からそれたことだとしてもですか?」
「人道からそれるのはそれほどいかんことかね?お嬢さん?」
後ろから声が聞こえる。
「あなたは……」
リクにはその人物に身に覚えがあった。繁華街が襲われた時にいた老母であった。リクがわけもわからぬ青年に絡まれた時に助けてくれた老母であった。
「若いの。また会ったな」
老婆は再会を嬉しそうにする。
「あなたは?」
「ババァじゃよ。そこにいるこの街のお偉いさんのババァじゃ。のう?チェスター」
「婆さん。なぜここに?」
「説教じゃよ。変わらぬこと。家族間で行われる何も変わらぬ行い。どの時代にも普遍に存在する行いじゃよ」
「説教。説教か。それでは私の行いは間違いだと断じにきたというわけか?」
「そうじゃが。そうじゃない」
老母はニヤリと笑う。
「若いの。我が孫は人道にそれたことをした。なるほどそれは本来非難されるべき行為であろう。それを踏まえた上でどう思う?」
「……人道。そのような理とは時に変化しうるもの。大きな時代の力などによって。人道は守るべきであるが、覚悟がある。つまりそれに対する非難を受け入れるというならば、人道に背むき、行動しても良いのではないでしょうか」
リク。彼は率直な意見を言う。自分の考える中で正しいと思える意見を。
老婆はそれを聞くと歯を見せ大きな笑顔を見せた。
「素晴らしい。あの時に嗅いだ匂いアレは間違いない。強者の匂い。素晴らしい。若いの。やはり良いものを持っている」
老婆は嬉しさにたまらず笑いが止まらなかった。それを止める者もいない。
「チェスター。聞いたかい?今の言葉」
「えっ!あ。あぁ」
「これだよ。これが必要。これが重要。強者と弱者の違い。これを知らずには何もできぬ。お前は、おまえさんのやったことはなるほど人道からそれたもの。だが、そんなことはどうだって良い。そんなことは良いのじゃ。人道にそれた行動をとっているものが弱者か?強者か?それが問題なのじゃよ。それに比べればお嬢さん。あなたが問題にしているものなど取るに足りない」
「!」
レイラは言葉を詰まらせる。何か言いたいことはあったのだろうが、それは許されなかった。
「まさに若いの。お主の言う通り。時に人道など無視せねばならぬ時がある。だが弱者はいけない。それはいけない。弱者は決められた世のルールの範囲内でのみ我儘をいうことができる。逸脱は許されない。なぜなら責任を持たないからじゃ。何も持たずただ赤子のように我儘を言う。赤子に、子供に銃を持ちたいと駄々をこねられて渡すかい?それはいけない。そんなことをしてはえらいこと。だが大人は己の責任で保つこともできる。それと同じこと。赤子は、弱者は自由にただ我儘を言うことができる。だがそれが許されるのは世が認めたルールの範囲内。範囲外のわがままを通そうと言うならばそれすなわち強者になる他ない。己の責任でその我儘を通す他ない。チェスター。説教にきた内容とはまさにこれじゃ。これ以外にない。チェスター。未だ弱者のような立ち位置でそれでその様で何故強者の振る舞いをする。それが許されぬこと」
「じゃあ!どうしろと。俺にどうしろと言うんだい?」
「強者になることそれ以外にない。そう言うことだろう?」
リクが再び入る。ゆったりと老婆に近寄り、老婆が求めている回答を、答えようとしていた回答を代わりに答えたのだ。
「その通り。人道からそれた行為を責められ、それをウダウダと言い訳しよって!責められて当然!それだけの行為!それを受け入れた上で貴様はその我儘を通したいと言うなればやらねばならぬことがある」
「次の一手。今現状、悪意のかけらがこの街に存在しその結果奴らが襲い掛かってきた。おそらく裏では俺たちが以前あったハロルドという男がいる。今度も確実に襲い掛かり、悪意のかけらを奪いにくる。俺やレイラさんはその前になんとしてでも悪意のかけらを破壊したい。だが、あなたはそうではないのでしょう?ならばどうする?あなたは、あなたのその我儘を通すために何をなす?何をしてくれるのです?」
リクはチェスターに問いかける。チェスターは今にも倒れそうな雰囲気だ。しかし倒れることはできない。パニックになり冷静さを失った頭で、必死に思考し始める。
リクのいう通り、チェスターは悪意のかけらを手放す気はなかった。それをもとにさまざまな研究をし、軍を強くし、それをもとに武器を製造していた。手放したくない。
だが現状そうも言ってもられない。このままでは奪われてしまう。それは最悪である。
破壊してしまった方が被害も少ない。
「……悪意のかけらを運び出す」
「ほう?」
老婆はチェスターの一言に反応する。
「奴らがくる前に先にこの街から悪意のかけらを出す。大統領に伝えた上で緊急で悪意のかけらを渡す」
「渡したところで、奴らは襲ってくる。襲われる場所が変わるに過ぎません」
「そうでもない。いや、そうかもしれないがこの国は腐っても巨大な国だ。土地も経済力も人口も。首都から多少離れた先に軍事基地が一つ。それも魔導兵器を使う特殊部隊がいる場所。そこに保管してもらう。そこであればそう簡単に手出しできまい」
「でもそれでは結局アルボスはそれを使うことはできないぞ?」
「そうでもない。我々は大量にデータを保有している。それに首都近くで大規模に実験などできん。それは国民がうるさいからな。多少距離ができようとも引き続きこちらでそれを利用する」
チェスターはニヤリと笑う。
「ですが。運び出す途中に奴らは気がつかれ襲われたらどうするのです?それこそ終わり」
「そこであなた方に手を貸してほしい。レイラ様。あなたはデスアモルと戦いを続けてきた。その力をお貸ししてもらいたい」
「都合の良い話。それで手を貸すとでも?人道からそれた行為に加担しろと?デスアモルは倒します。しかしあなたの手を貸す気はないです」
「いや。待ってくださいレイラさん」
レイラがチェスターの願いを下げるのに待ったをかけたのはリクだ。
「……リク。まさか彼を助けようと思っているのです?」
「ええ。俺はそう思います。タダではないですがね。それはもちろんあなたも理解しているはずだ」
「要求は?」
「簡単ですよ。大統領に伝えることができる。それも早急にできる。それはつまりアルボスが重要である証。そしてなぜ重要なのか?それは当然デスアモルに関することです。国もそれを知っている。大統領もそれを知っている。ならば裏の事情も当然知っている。それをダシに俺たちを。いやレイラさんを大統領に合わせてもらいたい。それも早急に。できますよね」
リクの問いかけにチェスターは笑う。馬鹿にしてではない。お互いに利害関係が一致したことを認識したからだ。
「もちろんだ。任せたまえ。大統領とて私を無視できまい。それは約束する。私のわがままを通すのだ。そのためならば、その要求喜んで飲もう」
「破った瞬間。破壊します」
「構わん。だが覚えておけ、運ぶのにしくじったら約束はなしだ」
二人は力強い握手をした。
「よい。実に良い光景。やはりこれだ。ウィル・フォルティスはこうでなくてはならん」




