弱者
その音に不快感を表すのと同時になぜその音の正体を探り始めた。リクが真っ先に思い浮かんだのは警報だ。
―――火事か?
真っ先にそう考えるリクは、日本での暮らしが染み付いているからだろう。それに実際火事で後少しで死にかける目にあっていたのも大きい。
だが真実は異なった。
クレア、エレノアはすぐに外に出る。その上で周囲を確認する。
「あんたも早くきなさい」
「!わかった」
つられてリクもエレノアたちに着いていく。
「何があった?」
「デスアモルよ。この街はそういう事件が他に比べて多いことは知っているでしょう?」
そう言われてようやく何が起こっているのか把握した。確かにこの街はデスアモルによる事件が多い。ならばそれに備えて市民に伝える手段があって当然であった。しかし、それならば同時にそれに対処する軍隊もすぐに派遣できるはず。自分達がいく必要があるのかという疑問があった。
「私たちはデスアモルの親玉を倒そうとしている。ならば、ここで見て見ぬ振りは許されないでしょう?」
その言葉に素直にリクは納得した。
「あっちよ!」
エレノアが指を差す。その方向には確かにリクたちが倒さねばならない相手。デスアモルがいた。
そして逃げ惑う人々。しかしその人々を助ける者はいなかった。
「助け―――」
紳士がこちらを見て声を出す最中、その紳士は首をパクリと食われた。助けてくれといいたかったのだろう。しかしリクたちが駆け寄るよりも前にその紳士はデスアモルの餌食となった。紳士だけではない。デートの最中であった老夫婦。婦人。子供。少なくとも十数人が犠牲となっていた。思わず顔を顰めてしまう。しかしその気持ち悪さはグッと堪える。今そのような感情を出すべきではない。今やるべきことは化け物たちの駆除である。
どういうわけか知らないが。この街を護衛する者がいない以上やらなければならない。
リクは内ポケットから黒い物体を引き抜く。
―――魔導兵器ウォルンタース
膨大に有するリクの魔力を最大限生かす武器である。それを構え、ゆったり冷静に引き金を引いていく。
今目の前にいるデスアモルは、いって仕舞えば雑魚に分類される。
以前戦ったセバスチャンに比べれば取るに足りない存在。魔力を超えた弾丸が命中すればそれだけで、絶命まで行かずとも行動不能にまで持っていくことは容易であった。
しかし数は問題だ。リクは攻撃を受けても自動で回復する能力がある。しかし一般人はそのような力はない。
彼らを逃すには一人では力不足であった。
だが。その心配を持つ必要はない。何せリクには、頼もしいメイドが二人もいるのだから。
子供に鋭利な刃を向けながら突撃するデスアモルが一匹。
子供は怯えて何もできない。自分に振りかかる災いに対して目を瞑ることしかできない。
その災いをクレアは振り払って見せた。
己の腕を噛ませたのである。だが傷ひとつその腕にはない。自分の腕の身を魔法で固めたことで、岩以上に強固なものとなっているためである。牙如きで同行できるものではない。
そのままクレアは右の拳を固め、正拳突きをお見舞いする。それだけでデスアモルの顔が凹み、そして破壊される。
(馬鹿力だな)
「しばきますよ?」
いらぬことを考えていたリクに対して笑顔で恐ろしいことをいうクレア。後の対応が面倒なことになってしまったことに後悔するが今それどころでない。デスアモルの数が減り一塊なった瞬間。その下から竜巻が襲い掛かる。それを生み出したのはエレノアだった。
すごい。そう思ったリクはエレノアの方を見る。そのエレノアはリクに対して睨みつける。
「!」
それがどういう意味か瞬時に悟ったリクは行動に移る。ウォルンタースに込められた特殊装弾プレケスをその竜巻に打ち込む。プレケスには炎の魔法術式が組み込まれている。そのおかげで竜巻は炎を纏い。その中に閉じ込められたデスアモルたちを焼き殺していく。そして絶滅させたと判断したのかエレノアは魔法を解除した。
これにて戦闘終了。
犠牲者は駆けつける前以外はいなかったのは喜ぶべきことだろう。
「なんとか終わったわ」
エレノアは一息をつく。クレアは先ほど襲われそうになった子供を優しくあやしていた。
この後どうすれば良いのかいまいちわかっていないリクは周囲をみる。
互いの無事を確認し合い安堵するものもいる一方で、視線をずらすと犠牲になった者に駆け寄理ながら涙する者もいた。だが自分にはどうすることもできない。だから視線を逸らした。
「おい!軍人ならもっと早く来い!」
怒号がリクに向けられた。そちらの方を見ると一人の青年が立っていた。リクは思わず眉を顰めるが、青年の勘違いを正すことを決める。
「軍人ではない。ただ通りかがったから助けにきたんだ」
「ふざけるな!」
何に対して?という疑問が生じたが、おそらくこの青年は感情的になっているのだろう。だから論理的話はできない。だから今出た言葉に意味はないと判断し、仕方なく浴びせられる怒号を聞き流していた。
(それよりも軍はどうした?)
青年の怒号を無視しながら考えていたのはそれであった。さすがに向かってきているのであろうが遅い。確かにここは少々あの要塞のような建物から距離はある。それにしたって遅い。
「聞いているのか!」
胸ぐらを掴みながらさらに大きな声で騒ぎ立てる。正直ここまでされる理由はない。少し強引にでも引き離すかとかんがえていたら、その青年の手を老婆が杖で強く叩く。
「……ッ!」
青年はそちらの方へ睨みつけるが、老婆はそれに負けずに睨みつける。
「おやめなさい。助けてもらった分際でなんてざま。情けない。彼は軍人ではないとおっしゃているじゃないか。それにきている身なりからしてもそれはわかる。それなのにその態度はなんだい?それなりに良い格好をしているのにも関わらず中身は情けない」
静かにその老婆は青年に言葉を放つ。哀れみを感じながらだ。
「わかっている。わかっているが……」
悔しそうに青年は呟く。
「わかっていないね。わかっているならば彼に当たらないさ。この街を守る役目がある軍人に対して冷静にものをいうさ。その権利はあるのだからね。しかし彼にいう権利はない。感謝するということ以外許されないはずさ。その道理もわからず何をわかったというんだい?」
ついに青年は黙った。それを見て老婆は杖でさっさと去るよう促した。礼儀もない動作である侮辱的な行為でもあるが、青年は何も言い返さずにさっていく。
「さて少年。命を助けていただきありがとう。ババァも後少し。寿命が伸びた」
「いえ」
「強いものよ」
「それほどではないですよ。それなら向こうのメイドの方が強いです」
「いや。そういうことではない」
「?」
言葉の意味がわからなかった。
「強者の匂いがしたのじゃよ。先ほど彼は弱者の匂いがしたのに対してじゃ」
「匂いですか……」
「そう匂い。長年の感かもしれんが。今はまだ未熟かもしれないが強者たる資質があるように思える。何かを成す上で必要な要素をもっているということ」
リクより二回りは小さい老婆は見上げながらリクに言葉をかける。
「ただし。傲慢さも窺える。気をつけた方が良い」
「……心に留めておきます」
褒められたのは悪い気はしない。しかしいきなり強者の臭いと言われても困る。リクはひとまずそう声をかけておいた。
「そうこうしているうちに、この街を守る軍人が来たようじゃ。随分遅刻じゃがまぁ仕方がない。文句は言うがな?それに対して今ぐちぐち文句を言うのは弱者の特権なのだから」
そう言って老婆は何処かへと消えていった。
「後は彼らに任せ持て大丈夫そうね」
エレノアはそういう。
「私たちも一度帰りましょう」
「……そうだな」
リクは、エレノアたちについていくが、頭の中は老婆の言葉がずっと残っていた。それは取るに足らない言葉として忘れ去るには危険な香りがしたのだ。
強者や弱者もこの物語の重要なテーマの一つとなります。そのため、こう言うのは入れていく必要がありました。




