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fortis et infirma  作者: MASANBO
強者の条件
29/63

混浴

「あぁ〜〜〜〜」


 低い声が思わず出る。誰からに聞かれたら少し恥ずかしいだろうが、今は一人。存分に声が出せるのだ。

 上を見上げると星空が見えた。日本では、いや正確にはリクが住む街はあまり星空というものと縁がなかったため、この光景に少し感動する。


 まだこの世界に来て一週間程度。にもかかわらず濃密な日々をすごした。

 いきなり世界を救えと言われ、そのあとすぐに死にかける。その後も死にかける。その後もさらに死にかける。


(俺、どんだけ死にかけてるんだよ……)


 思わず苦笑いする。

 だがリクは、生きている。それは自己回復魔法のおかげだ。正直自分自身なんでこんな力があるのだ?と疑問に思う。だが、そのおかげで助かっている。


「死にかけるのはもうごめんだぞ……」


 だが、それは難しいだろう。そんな気がする。

 どの世の中でも、何もかも自分の思い通りうまいこと行くわけがない。たとえ初めが順調でもどこかで壁にぶち当たる。それが世の理だ。リクが、これからのことを考え、少しばかりしかめ面をしていると、後ろから扉が開かれる音が聞こえた。どうやら他に客が入ってきたようだ。


「いい眺めね。とても気持ちよさそう」


 綺麗な声が聞こえる。男にしては、声が高いような気がする。そのことにリクは気になり、チラリと入ってきた人物をみる。



 ―――その人物は、レイラであった。



 そしてリクがそちらを見たことで、レイラと目があった。


「…………」

「…………」


 お互いに沈黙する。お互いにお互いこの状況は予想外だったようだ。

 レイラは、幸いなことにタオルで体を隠しているために、裸体をみられることはなかった。だが、それでも彼女が、綺麗で、美しい体だということはわかった。体型を気にしているのであろうが、どちらかというと健康体であることを意識しているように感じられた。だが、それが最も綺麗に見えるのだ。

 リクは、ふとそんなことを思ったが、すぐに現実に引き戻される。


「…………なぜいるのです?」

「…………それはこちらのセリフです」


(レイラさんの目がすごい冷たい。だが、俺に悪意も過失も一切ない。善意無過失である!)

 不名誉な評価を受けている様な気がしたため、リクはすぐに自身の正当性を主張し始める。


「俺は、案内通りこの浴場にきただけです。女性専用に入ったとかいう間抜けな失敗はしておりませんよ」

「私も、こちらに案内されたのですよ?」

「「…………………………………………」」


 二人とも間違えたということではないようだ。だがここであることに気がつく。


(女性風呂ともなかったが、男性風呂とも書かれていない)


 そしてクレアとの話を思い出す。


「ち・な・み・に。混浴があるのですが?そしてここに混浴のための鍵があります。私たちだけで入ることが可能ですけどどうです?」


 クレアが、入浴前に話した時の会話である。


(……もしかしてここ混浴?)


 リクは、その可能性に気がついた。


(いやいや待て待て。クレアの話を聞く限り、混浴には鍵が必要のはずだ。それならば混浴に入れるのはおかしい。鍵を持っていないのだから。持っているのはクレア―――………おや?)


 そこでリクは気がつく。


 なぜかレイラさんと一緒の風呂→だがリクがまちがえたわけでない→レイラさんが間違えたわけでもない→ではなぜ混浴に二人とも入った?→しかも混浴は鍵がかかっている→クレアがその鍵を持っていた→クレアの性格は?→以上のことから、この様な状況ができたのは誰が原因?=クレアですね^ ^はいありがとうございます。


(あいつか!)


「おそらくクレアですよ。この状況の原因」

「……またあの子なのね」


 レイラは、呆れた表情を見せる。この顔も何度目だろうか。


「とりあえず。私は、彼女たちのいるところへ移動します。クレアに説教しなければいけないですしね」


 レイラは、そう言って再び脱衣所へと向かう。

 これでようやく、ゆったりとできる。リクはそう考えた。

 だが、後ろの脱衣所からガチャガチャという音が聞こえる。



 ―――嫌な予感がする。


「…………」


 後ろを振り返ると脱衣所に帰っていったはずのレイラが無言でいた。


「……………………一応聞きますが。なぜ戻ってきたのです?」

「鍵が閉まっており、出られないからです」

「……………………そうですか」


 これはクレアの用意周到さを褒めるべきなのか悩むほどだ。


「ですから。その…………諦めて私も入らせてもらいます。一応混浴なので」

「……………………あ。はい」


 どうしてこうなった?と問いかけたいが、そんなことを考えても無駄であるというのは経験上わかっている。


「…………風呂気持ちいいな」


 だからリクは、とりあえず現実から目を逸らすことに決めた。


最後まで読んでいただきありがとうございます

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