エレノア その2
夜が明けた。エレノアとは、特に会話することがなく夜が明けた。
いつもの様に食堂に行く。その食堂は、あいも変わらず広くそして品性がある。しかしチラリと視線をずらすとそこには大きな風穴があった。もちろんリクが破壊したせいである。そのせいで、そこから風が入り込む。すごくポジティブに考えれば、少し暑くなった日頃においては、その風は心地よいと思えなくもない。
だがエレノアの顔を見るとその様なポジティブ思考も吹き飛ばされる。何せよくもやってくれたなという視線がすごい刺さってくる。
しかしその様な目はまるで問題ない。リクは、自身の振る舞いから色々冷たい目で見られることがあったが、その目で自分の行動が、振る舞いが変わったこともなければ、精神的にダメージをきたしたこともない。だからどうした。という毅然とした態度を崩したことはない。
そのため、リクは、エレノアの視線を気にすることなく自分の席に座る。
そして、視線をテーブルに置かれた食事に向ける。 いつもの様に洋食の定番といったメニュー。今日も美味そうだ。早速手を動かす。目の前にあるメニューを口に運び楽しむために。
「今日も美味しいですね。しかしいつもよりオムレツがより美味しい様に感じます」
「……そう」
リクの言葉に、エレノアがそっぽむく。どうやら彼女が作った様だ。
褒められて嬉しかったのと同時に、恥ずかし胃という感情が襲いかかったのだろう。
「……何よ」
どうやら笑っていたのだろう。リク自身気がついていなかった。
「いや。本当にうまいからな」
「っ!……そ。そんなこと言ってもあんたのこと認めないからね!」
「おお」
ビシッとエレノアはリクに伝える。素晴らしいツンデレというものだ。思わずリクも感嘆の声をあげてしまう。
だが、エレノアはそんな陸の反応なんてお構いなしに、目の前にある自分の分をさっさと平げ、どこかへと行ってしまった。
「相変わらずですね。エレノアは」
「いつもあんな感じなのか?」
「まぁ。私たちには違いますけどね?でもいい子ですよ」
「それは少しづつ理解できそうだよ」
「それにからかい甲斐もあります。レイラ様を揶揄ことができない時は、エレノアで揶揄ことにしてますし」
「それは、彼女も災難だ」
クレアのいやらしい笑みと言葉に、少しばかり同情したリクだ。
エレノアが、この屋敷に帰ってきて二日目の夜を迎えた。もうすぐ日付を跨ごうとする時間。既に、レイラやリクは就寝している。その中、エレノアは一人、自分で入れたお茶を飲みながら夜空を見ていた。
「あまり夜更かしは良くないよエレノア」
「そういうあなただって、夜更かししているじゃない」
お茶を飲んでいるところにやってきたのは、クレアだ。
クレアは、エレノアの言葉を受け流しながら自分もまたお茶を入れる。
「彼は、本当に役に立つの?」
「おや?エレノアから、リクさんの話題を出すなんて。意外と気になってる?」
クレアは、意地悪な顔をするが、エレノアは気にしない。
「そうね。悪い方向でね。少なくとも無関心は無理でしょ」
「確かに。存在感はすごいですからね」
「それでどうなの?私は現状、力はそれなりにあるけど、それだけの嫌なやつという評価なのだけど」
「相当屋敷を破壊されたことを根に持っているのね」
クレアは、少しだけ苦笑いをするが、その笑顔はすぐに消す。
「そうね。エレノアの問いに対する答えは、YES。頼りになるわ。彼は、デスアモルの中でも、上位に入る部類の敵を倒したのだから」
「まぐれかもしれないわよ?さっきも言ったけど潜在的な力があるのは認めるは。だけどそれだけでは私は認める気なんてないの」
「知ってる。知った上で、私は、リクさんのことを頼りになると評価しているの」
クレアは、エレノアの疑惑をあっさりと否定する。その言葉は強いものであった。
「どうして断言できるの?」
「私は、リクさんと共に戦っている。その時に色々とリクさんのことを理解したわ。リクさんは、自分にプライドがある人。それが態度にも表れていて、人間性に問題があるのは確か」
「そこも断言するのね……」
クレアは、バッサリとリクの人間性を切る。それにエレノアは、呆れるているのだ。
「でも、だからこそ。リクさんは、己のことを信じているの。自分ならば、危機を乗り越えられると信じている。そして危機を乗り越えるために、自分が下した判断。それを信じ、そしてそれを実行することができる。これこそ、私が、リクさんが頼りになるということ。人間というのは、ある判断を下しても、それが絶対に『正しい』とは思えない。だから二の足を踏む。たとえすぐに決断をしなければならないという場合においても。でもリクさんは違う。その場で判断を迫られた時、最良の判断を下し、その判断を下した自分は正しいと仮定し、真っ直ぐ前に進むことができる。リクさんの潜在的な力も確かにすごいです。でもそんなものは、『副産物』。私が、リクさんを評価するとこは、そんな未だ引き出されていない力ではなく、本来彼が持っているものよ」
「……軟弱者ではないということね。でもそんなのはいいの。私も軟弱者とはおもはない。そんなことはどうでもいい。それよりなぜ彼は私たちの願いを聞いたの?世界平和?悪い奴を許せない?そんなのじゃない。そんな光り輝く正義の味方のようなことをいうとは思えない。では何?金?名誉?それも違うように思える。それを欲するなら他の方法がより簡単だもの」
「……さあ?それはわかりません。でもそれは私が評価した人間性。リクさんの人間性の中にあるのかも知れません」
「怖いのよそれが。そんな奴が怖いの」
「ですがレイラ様が決めたこと。ならば私たちは黙ってついていくまで」
「……わかってる。でも私はきっとレイラ様は、レイラ様で想定していた重荷以上のものを持たねばならないような気がしているの。私はそんな気がしてならない」
エレノアは、自分の食器を片付けながら去っていった。
「人生で降りかかる重荷がどれほどの重さかなんてその時になるまでわからないものですよエレノア。人は背負う必要のないものまで背負わなければならないと考え背負う生き物なんですから」
クレアは、もはや誰も聞いていない中一言呟き、お茶で喉を潤した。




