セバスチャン その2
「さてそろそろやろうか?再び俺のウェーニー・ウィーディー・ウィーキーを、そして我が雷にしびれろ」
セバスチャンは、ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーを召喚する。
リクは、それも見てどこか嬉しそうな顔をする。
「?随分嬉しそうな顔をするじゃないか。何がそんなに嬉しいのだ?」
「いや。そいつを使ってくれるのが嬉しいのだ。何せ、これは俺の初勝利をおさめる戦いだ。しょぼい攻撃では俺の勝利までもがしょぼくなるからな」
「はっ!何を言い出すかと思えば。その未熟な腕で勝利を収めようとは随分傲慢な男だ」
「おうよ。よく言われる。だが、一つ言うとすれば、一つの技術が凄いことにより勝利が齎されるのではなく、時に技術、時に戦術、時に精神により勝利が齎す。常にその時求められているもの的確に行える人間が勝つんだよ」
セバスチャンは思わず吹き出す。滑稽に思えたのだろう。そして次の瞬間、リクの左右に投剣が突き刺さっていく。
「私は、君にウェーニー・ウィーディー・ウィーキーをぶつけ、同時に左右から高圧電流が君を襲う。それで君は終わりだ」
「ご丁寧にどうも。それなら俺は、俺のアストラ・インクリナント・ノン・オブリガントで相殺。そしてこの俺の銃での、一撃……たった一撃であんたは沈むと宣言しとくよ」
「机上の空論。この言葉がふさわしいだろう。君の考えはまさにそれだ。それを今、証明してやろう!」
ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーが、轟叫ぶ。主人が正しいことを己が証明して見せると言っている様であった。
それに対抗するために、リクもまた、アストラ・インクリナント・ノン・オブリガントを召喚する。
「いくぞ!」
ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーが、襲う。それをリクのアストラ・インクリナント・ノン・オブリガントが守る。ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーの強力な破壊力に真正面からアストラ・インクリナント・ノン・オブリガントは、咆哮しながら噛み付く。
二匹の強力な生き物の衝突。その衝突は先程同様凄まじい衝撃を持って周囲を襲う。
その衝突の中心は近づけばきっとその身を焦げ付き灰になるであろう。
「クレア!頼む!」
リクが叫ぶ。
「どうなっても知りませんよ!歯を食いしばってください」
「あぁ。俺なら大丈夫だ」
クレアは、己の大剣握りしめ、大地を踏みしめる。遠心力を利用し、力がさらに加算される。
その力を全て、リクの背中にぶつける。
通常ならば、それほどの力。背中にくらえば、そのまま真っ二つに切り裂かれる。だが、リクは背中に硬化魔法を使用し、それを防ぐ。そして、その力を利用し、リクは、ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーとアストラ・インクリナント・ノン・オブリガント間の衝撃の渦に飛び込んでいく。
「ぐっ……」
手足の指先が焦げついていく感覚がある。
それだけでない。衝撃波のせいか、体がその衝撃に耐えきれず、肉や骨がボロボロになっていく様に感じる。
(俺なら問題ない!)
傲慢に、リクは己に言い聞かせる。
そしてついに、その嵐を突破し、晴れやかな空が見える。そして、その先にいるターゲット。セバスチャンの姿もだ。
「なにぃ!」
驚きを隠せない表情。それもそのはず、あの嵐の中に入れば、生きているはずがない。セバスチャンは、そう考えていた。だがどうだ。リクはその中を突破してきた。
セバスチャンは、すぐさま右手に投剣をもって、反撃を試みる。だが、それはあまりにも遅すぎた。
リクはその手を掴み、反撃の手段を奪う。そしてセバスチャンの口に、己の銃。ウォルンタースを突っ込む。
「残念だったな。この距離で、この状況でお前はどう対処する?」
「ふが…。ふざけるな!この私が……」
「嫌であろうとも、運命を受け入れなければならない時がある。それが今なんだよ」
口元を歪ませながら、リクは引き金を引く。
その瞬間、撃ち抜かれる。セバスチャンは、何か叫んだ様な気がしたが、リクは気にしなかった。敗者の最後の叫びなど聞いても仕方がないからだ。
セバスチャンは、そのまま地面に倒れる。だが、地面に叩きつけられることはなかった。それよりも早く、セバスチャンの体が、砂の様に崩れ、その場には、もはや人の形をしたものはなかった。きっとその後に、誰かが来てもこの場にもう一人いたとは思わないだろう。
「デスアモルは、その生命が終わる時、骨一つ残らないのです。ただ塵の様にこの世を漂うことになるのです」
「なるほどな」
「もっとも。生命の最後なんて所詮そんなものかもしれませんね」
クレアは、すこし遠くを見つめながら呟いた。
「人間も、墓があるとはいえ、結局のところ土に埋められたらそれまで。骨も残らん。そう言う意味では、大差ないかもな」
「ですね」
束の間、静寂が訪れる。諸行無常の世を感じ、少し感傷的になってしまったのだ。
その雰囲気を壊したのはクレアだ。
「それにしても見事です。まさかあんな強力な力を手にし、いきなり実戦でものにするとは」
「まぁ。協力してくれたからできたことだがな」
「それでも立派です。私は助けられました。その力は紛れもなく本物。誰かに与えられたのではなく、自ら手にしたもの。体を痛めつけられながらも、這いずり回りながら手にしたもの。だからこそ、この戦いに勝てたと私は思っていますよ?」
クレアの微笑みに、少し照れ臭くなったのかリクは頬をかく。
「素晴らしい!素晴らしいぞ!あのセバスチャンを倒すとは!やはり君は、救世主ということか!」
大きな声で歓喜を表現する男がいた。
その男とは、ハロルドだ。
リクは、すぐにハロルドに向かって銃を向けて、なんと引き金を引いた。
ハロルドにウォルンタースによる攻撃が襲う。だが、それを軽々しく、弾いた。
「いきなりの攻撃。何ら躊躇いがない。なるほど。世界を救うための高貴な良い子ちゃんとは違う様だ」
「誰だ?」
「ハロルド。つい先程塵と化したセバスチャンの上司に当たる。まぁつまるところ君達の敵に当たるな」
その言葉を聞いてクレアは、構える。いつでも襲いかかる準備は既にできていた。
「そんな顔しないでくれないか?私は君たちに危害を加えるつもりはないぞ?今日のところはな」
「ならば何の様だ?」
「挨拶さ。コミュニケーションの基本だろ。まず互いの距離を一歩近づく上で大切なステップだ」
敵意はない。そして、敵意こそないもののハロルドという男は間違いなく、セバスチャンより上であることが理解できた。敵意がない以上、今は刺激するのは得策ではないと判断して、リクは銃をおろす。
「懸命だ。もっとも、手の速さは、少し直した方が良い。それさえなければ君は、これからの戦。乗り越えていけるだろう」
「それはどうも。もっとも戦なんてものは、基本避けたいがな」
「それは無理だ。ないならないで、私が戦を仕掛けるのだから」
ハロルドは嬉しそうに笑う。リクはそれを不快な目で見る。
「そんな顔をしないでくれ。これから君は、我ら生みの母デストヒュヌスを倒すのだろ?ならば子供に反撃されても仕方ない道理ではないか。それに―――」
ハロルドは少し間を置き、話を続ける。
「我々デスアモル。破壊の衝動に駆られた、生物として重大な欠陥を抱えた生き物だ。そんな生き物が、のんびりと日向ぼっこしながら生きていると思うのかい?心の赴くまま破壊し尽くしてやる」
「悪党が」
クレアは、吐き捨てる。それをハロルドは、理解できない表情だ。
「悪だの善だの。君は一体何を言っているのだ?我々はただ己の本能の赴くまま行動しているだけにすぎない。善か悪かなど人間が作り出したフィクションに分類するのではない。トラに道徳を解くのか?猿に生き方について教えるのか?そんな人間はいない。なぜなら彼らは彼らの本能のままに動く生き物だからだ。理性なき生き物だからだ。善悪は人間の理性、感情から生まれてきたものだ。それ以外の生き物にはまるで理解することもできない代物だ。ただ自然に生まれた時から備わっている本能。ただそれに従い生き死ぬ生き物だ。君たち人間と一緒にするな。我々はもうとっくに人間ではない。ただ本能に生きる人間以外の生き物。善?悪?そんな理由をつらつら垂れ流されても困る」
「確かにその通りだ」
ハロルドの主張にリクは同意する。
「確かにお前たちに善悪は通用しないかもしれない。だが、お前たちを討ち滅ぼす。善悪というものではない。俺は。俺たちは、人類生存のために、安定した世界のために、お前たちを討ち滅ぼす。お前たちはその生命に従って行動するのならば、俺たちもその生命に従い、お前たちを滅ぼす。これは、人間同士で生まれたものではない。言うなれば食うか食われるか。元来ありとあらゆる生命に与えられた権利だ。俺はその権利を行使し、お前たちを滅ぼすよ」
「クハハハハ!なるほど。そう返すか。人類生存のため、なるほど正論だ。そして潔い。いいね。素晴らしい。これは楽しみだ。皆が想像している救世主とはまるで異なる。だが、それでこそ、それだからこそ、困難を乗り越えていく。甘ったるい、みんなの耳に心地の良い言葉を投げかける人間とは異なる。やはり、君は素晴らしい好敵手になる!これから楽しみだ」
ハロルドは、心底嬉しそうな表情で、うっすらとその姿を消していった。
「消えたのか?」
「そのようですね」
二人は、ハロルドが姿を消した後ようやく落ち着くことができた。先ほどまでは、生か死かの張り詰めた緊張の中にいたせいか急に疲れが出てくる。
「リクさん。屋敷に戻りましょう。向こうも襲われているかもしれません」
「そうだな」




