ファンファーレ
一方その頃屋敷に残ったレイラはカーティスが入れたコーヒーを楽しんでいた。もっとも一人、のんびりしていたわけではない。
「それでカーティス、調査の結果はどうだったの?」
レイラはコーヒーを一口味わうと、真剣な眼差しで問いかける。
「……あの夜私は数多くのデスアモルに襲われました。奴らは連携し、私を確実に追い詰めるために行動していました。まるで何者かから操られているように」
「ですが。デスアモルとは破壊の衝動にかられた生き物。自分たちよりも多くの獲物がいようとも、その本能に従い、自分勝手に動きそういう生き物のはず。最悪同類同士で殺し合うことだってある存在」
「ですがあの夜は間違いなく連携をとって襲いかかってきました」
嫌な汗が流れていることにレイラは気がついた。とてつもない強大な存在が背後から感じたのだ。実際にはレイラの後ろには誰もいない。本能が教えてくれたのか、わからないが、レイラはその嫌な予感が現実に起こることをどこか確信していた。
「レイラ様。どうやら我々のたどる道には多くの障害、そして多くの敵がいるようです。リク様にも言われたように、デストヒュヌスという人類にとって巨大な敵を前にして足並みも揃わぬ状況。そのような状況で我々に歯向かう連中が出ないと考えるのはあまりにも虫が良すぎます」
「そうね。だからこそ、リクには力を持ってもらわないといけない。私たちがこれからの方針はまず力をつけるところからなのだから」
「確かにその通りでございます。リク様の底力は計り知れない。全て解放した暁には我々など到底及ばぬほどになられましょう。まずはリク様が無事戻られるのをお待ちしましょう」
――――
「素晴らしい天気だ。太陽が私を見守っている。私の戦を!まるでこれから勢いよく外へ行く子供を見守る母のように太陽は私を見送ってくれている。実〜〜〜〜〜〜〜に良い!最高だ!こんな天気では、あぁ!私の高貴な姿がより一層輝いてしまう!」
「ははは。あいも変わらず、元気な男だ。君は変わらない。それが私を安心させてくれてとても嬉しいよ。セバスチャン」
なんとも奇妙なポーズをとりながら今日の天気に満足げな表情を浮かべる男セバスチャン。茶色いコートにハット。年は30代後半だろうか所々皺があった。だがそれはセバスチャンの焼けた肌にとてもよく似合っていた。背丈も高く、ダンディな男であった。その様子を楽しげな表情で見る男がいた。
「しかしハロルド。あなた自ら赴くとはどういうことです」
ハロルドという男はセバスチャンの問いかけに対しいやらしく口元を歪ませる。ハロルドという男、年齢は40〜50代、真紅の軍服が特徴の男だ。髪の色は、金色。身長は高いとは言えず、165㎝。むしろ小さいと言える。だが、不思議と小さいという印象がなかった。それどころか、ハロルドに近づいたらどこか大きな巌のような印象を与える。それほどオーラがあった。
「当然だ。これから挨拶に向かうのだ。向こうのトップと挨拶をしようというのに、こちらのトップが赴かないというのは相手に舐めていると思われてしまう。それは無礼というものだ。それはいけない。私の信条に反するのだ」
「なるほど。それは確かに。ハロルドあなたのいう通りだ。礼儀を弁えて、堂々と!優雅に!振る舞うことこそトップたるための、条件だ!」
セバスチャンは、オーバーな表情で一々大きな態度をとる。ハロルドはそれを気に留めることもない。
「……しかし、挨拶にしてはなかなかに物騒な手土産をお持ちのようだ」
チラリとセバスチャンが視線を動かす。その先には、何十匹もの獣たちがいた。ただの獣ではない、その獣一匹一匹、猛獣の目で、今にも獲物を借りたいという衝動に駆られているような危険な生き物だ。
「ははは。数十匹のデスアモルを放たれたら一体どうなるやら。今から楽しみですな!さぞ顔色が悪くなってしまうでしょう。私もこんな大量にデスアモルに襲われたら溜まったものじゃない」
「何を言っているのだ。セバスチャン。君も私もデスアモルではないか」
ハロルドはおかしなことを言うセバスチャンを少しからかう。
「確かに。それはそうだ。私たちはデスアモル。それゆえ、デスアモルであるが故、巨大な力をもって、生命を破壊してやりたい衝動に駆られて仕方がない」
セバスチャンの体は震えていた。恐怖ではない、抑えようとも、抑えきれぬ己の衝動が体を震えさせていたのだ。
「結構!実に結構!ならばセバスチャン。君は救世主とやらのところへ向かうと良い。遠慮はいらない。存分に挨拶をしてきたまえ」
「よろしいのですかな?私の挨拶は、雷光のように光り輝き、そして一瞬にして焼き尽くすほど過激ですよ?」
「それで良い。そうでなくてはつまらないだろう?」
「承知した」
セバスチャンは一言だけ告げて、広大な森の中へと飛び込んでいった。
「さぁ。いよいよはじまる。戦の音楽が。演奏者はそろった。そして指揮者はすでに指揮棒を手に取った。もう今更、やめるなどとは言えない。それは観客に失礼となるからね」
ハロルドはにやけながらゆったりと歩み始めた。




