祠
あれから数十分経った。クレアとリクはカーティスの言われた通り、祠へと向かっていた。
移動手段は車である。それもリクから言えば何世代も前のオープンカーであった。
運転手はクレアであった。
「どうです。これ便利でしょ」
「はぁ」
言葉の通り生きてきた世界が違うクレアとリクであることから、クレアはどうやらリクが車を知らないと思っているようだ。だが、残念ながらリクにとって馴染み深いもの以外何者でもなかった。
(座り心地イマイチだな)
正直な感想はそれであったが、素直に口に出せばおそらく落ち込むだろうと考え黙っていた。
「しかしクレア。すごい武器だな」
リクはクレアが持ってきた武器を見ながら言う。その視線の先にあるのは大剣。100㎝はあるだろう大きな剣だ。刃も分厚く、頑丈な鎧を叩き割ってしまいそうだ。だが当然ながらその大きさ。安易持てるわけでない。だがそれをメインの武器にしているあたりクレアは相当な力の持ち主であると考えられる。
「これでも私はレイラ様を守るための実力を持ち合わせているのですよ」
自慢げな表情だ。おそらくその自信は間違いなく自惚れではないだろう。
「……時にリクさん。車の運転わかったりします?」
「正直なところ車は俺の世界でもなじみがあるからな。ある程度どうすれば良いかはわかる。だが、なぜそれを聞く?」
「いえ、ある程度理解できるならそれでいいのです。それは大変都合が良いです。それじゃあチョ〜っとハンドル握ってもらえません?」
「嫌だよ?俺運転したことないからね?免許ないからね?もしかして車の免許とかいらない感じか?」
「?私有地ですし」
「なるほど。それは納得いく答えだ。少なくともしっかり法整備されていることに安心した」
「ぐちぐちと聞いているだけ無断な言葉っぽいですし、流しますが、とりあえずさっさと握ってください」
クレアはそういってリクに無理矢理ハンドルを渡す。もちろん今も前へ進んでいる。いきなり交代されても困るが、クレアは気にした様子はない。
「クレア。強引なやつとか言われなかったか?」
「聞き飽きました」
一瞬で答えが返ってきたことから、もう何いっても無駄だと悟ったリクはハンドルを強く握る。運転に集中した方がこの場の最良であることが理解できたからだ。
「先に言っときますけど、別にリクさんを困らせるためではないのですよ?それはこれから先その機会がたっぷりあるのですから」
「ちょっと聞き逃せないよ?それ」
軽い調子で述べた言葉にリクはツッコミを入れるが、クレアは気にすることなく、自分の剣を手に取った。
「敵がきます。この森の中は獣が多くいます。それもかなり凶暴な。そいつらが今この車を追いかけてきているのですよ」
「っ!」
それを言われリクは周囲を確認する。
確かに車は囲まれていた。獣は獲物を見つけたような目で見ている。つい最近同じような目で見られた身としては間違えようがなかった。
ライオンのような獣が大きく飛びかかってきた。下手にぶつかれば破壊されないにしても車は大きなダメージを負う。
「はぁ!」
だがそれを阻止するのはクレアであった。自分の大剣を大きく横に薙ぎ払う。
その刃は獣の胴体を的確に捉え、綺麗に二等分する。
「すげぇ」
思わずつぶやいてしまった。それだけ非日常的な光景であった。
クレアが右手をかざす。すると地面にヒビが割れ、小さな瓦礫が宙に舞う。その瓦礫が弾丸のように獣たちに襲いかかる。
獣たちの肉が抉られていく。体が小さい獣は致命傷になりやすい。そのため、瓦礫が一つ二つぶつかるだけで絶命する。
それからもクレアは小型の獣は瓦礫で、大型の獣は大剣で斬り殺していく。
「なんで俺を呼んだ?正直クレアたちがデストヒュヌスを倒せば良くない?」
正直な感想がでた。少なくともリクには同じようなことをやれと言われてできる気がしない。
「そんなことないです。私はまだまだですよ」
「正直周りが強すぎて、若干やる気が喪失しているのだが」
クレアもそうだが、カーティスやレイラも間違いなく強者であった。それに対してリクは未だ大した活躍を見せていない。経験が少ない以上やむを得ないのかもしれないが、それでも少し情けなく思えてしまうのだ。
「これから力なんてすぐ身に付きますよ。ほらほらそんなことより前をしっかり見て運転!あと横から敵いますから迎撃よろしく」
「マジか!」
それを言われてリクは懐から武器を取り出し、引き金を引く。一発一発相手の急所を狙う。だが、慣れない運転をしながらでは実践経験の少ないリクには高度な技術であった。狙いが逸れていく。だが、そもそもウォルンタースの威力が高いおかげで、掠るだけで致命傷を与えていく。まさに武器のおかげで事を得ている状態だ。
(情けない!)
つい苛立ちを覚えてしまう。自分のプライドを汚されたように感じるのだ。
だがクレアはそんなことは関係ないとばかりに敵を薙ぎ倒していく。それが余計に彼の苛立ちを増す行為であるが、同時にそんなことに怒りを覚えている自分がなんとも無様に思えてならなかった。
「ふぅ。逃げていきましたね。私たちを狩ることはできない。そう考えたのでしょうね。運転ありがとうございます。ここからは私が変わりますよ」
「あぁ」
クレアはそういってリクからハンドルを受け取り、運転を再開する。
「……リクさん」
いつもより低い口調でクレアは語りかける。
「リクさんは少しプライドが高いようです。だから今も苛立ってしまっている」
心臓が突きされたような錯覚に陥った。自分の心理がまだあって間もない人物に言い当てられて驚いたせいだ。
「ですが、その苛立ちもすぐにたち消えるでしょう。たち消えるだけのことをリクさんはなすでしょう。これから向かう場所で、直面する困難に、己の力だけで切り抜けた先に、リクさんは力を手に入れる」
「……クレアは今向かっている場所について知っているのか?」
「少しだけですけどね。世界を救う者が現れたとき、その者は力を身につけるために試練を乗り越える。私は小さい頃そう教えられていました。そして今向かうところこそその試練がある場所なのです。ただ私も中には入ったことがないので詳しくは分かりません」
少し申し訳なさそうな表情をする。
「それだけわかれば良い。とりあえず俺は一人で困難に立ち向かえということだな。やってやるさ。名ばかりで、実力が伴わないなんていうのは情けないからな。俺はいつだって、自分を信じている。その信頼に応えてやるとも」
「驚くほど自己肯定感が高い人ですね。さぞ自己中心的な行動が目立って人から若干距離を取られたでしょう」
「エスパーか何かか?なんで俺の若干の黒歴史を知っている?」
「自分のような人が現れて、あなたは友達になりたいと思うのですか?」
「確かに。全力でお断りするな」
「そういうことです」
クレアの言葉にまるで言い返せなかったリクは潔く引き下がり黙った。正直ここで潔く認めるのはどうかと思うが、リクという人格上この回答はある意味当然であった。
「着きました」
そういってクレアが車を止めた。その先に見えたのは石で作られた建造物。だが、ずいぶん時間が経ってしまっているのか、あたりは草やコケで覆われていた。歴史を感じさせる建造物であった。
クレアはその建物に近づき、胸元から何かを取り出す。
取り出したものはペンダント。青白い石でできたペンダントであった。
閉ざされた扉の真ん中には小さなくぼみがあった。クレアはその小さな窪みに自分のペンダントをはめ込むと。あたりは動き出した。石が地面と擦り切れる音が響き渡りながら、閉ざされた扉は開かれた。その中は暗い。とても中の細部まで確認することができなかった。
「私の案内はここまでです。どうかご無事で」
「……あぁ。行ってくる」
正直なところ不安はあった。だが、リクはその不安を抑え込む。自分の中にあるどうしようもないプライド。自分だけが役立たずであるという状況が許せないというプライドをあえて表にだし、己の足に力を入れる。
(乗り越えてみせる)
決意を固め、リクは中へと入っていった。




