デスアモル
それから程なくして全員レイラが作った食事を食べ終わり、食後のコーヒーを堪能し始める。
「リク。あなたにこれからのことを話さなければいけません」
「そうですね。それは俺からもおねがいします。まず聞きたいのは俺を襲った男と、カーティスさんを襲ったデスアモル?とかいうものについて教えてもらいたいです」
「わかりました」
レイラはリクの願いを聞き、説明を始める。
「まずあなたを襲いかかってきたウィリアムという男でしたか、その男はカルニフォックスのメンバーの中でも尤も手だれの男です」
「カルニフォックス?」
「この世界はにはどうしようもない悪がいて、その悪を根絶やしにしない限りこの世界の秩序を守れないという思想を持った人間の集まりです。彼らは彼らの基準で悪と断定し、その者を一切容赦することなく殺される。それどころかその子供や親まで手にかけることも多いのです」
「つまりあれです?いかれた思想を持った殺人鬼という感じ?」
「だいたいあってます」
その言葉を聞いてリクは嫌な顔をする。
「なんでそんな狂った輩に俺がねらわれたの?俺が悪党でも言いたかったのか?」
些か不服そうな表情を浮かべるリクに対して、レイラは首を横にふる。
「悪党とは思われていないでしょう。先程行った通り、悪を絶滅することを目的として団体。悪党だと判断されたらその時点で殺しにかかっていたでしょう。今回はその目的というよりリクがどういった人間なのかを見にきたという方が正しいでしょう」
「それにしては対応が酷くない?俺死にかけたよ?」
誠に信じられない表情を見せるリク。そこにクレアが割り込んできた。
「彼らにそんな丁寧な扱いを期待するだけ無駄です。我々の一般的な道義から逸れた連中。話も基本的に通じませんよ」
「話が通じないね……。どの世界でも言語が同じでも話ができない人間がいるということか。それで、そのカルニフォックスは敵か味方かそれとも第三者か?」
リクは問いかけた。これから動き出す上で障害になるかもしれない存在は把握する必要があるからだ。把握できなければ対応することもできない。敵、味方、そのどちらでもないという3つに正しく分類しなければそれはこれから足枷になることをよく理解しているのだ。
レイラは少し考える素振りを見せながらよくわからないと言う表情を見せる。
「残念ながら今はまだわかりません。明らかに敵であるとはいえないと言いますが、明らかな見方ともいえません。そして傍観する第三者かと言われればそうでもない。おそらく彼らは私たちが動く場所で彼らにとってよろしくない存在を見つけたらすぐに介入してくるでしょう。敵側にそのような存在がいれば味方にもなってくれるでしょうし、逆に―――」
「敵となり襲いかかってくるかもしれないと言うことか……とんでもないぐらい厄介な存在だな」
心の底から勘弁して欲しかった。まだ敵であると断定できれば迷うことなく戦うという意志を持つことができる。だが時と場合によって立場が変わるとなると厄介。下手に攻撃を仕掛けることにより余計な損害を被ることだってある。それゆえ、彼らの動きを常々見極めなければならないと言うことだ。それはなかなかに労力が伴う。
「それに奴には聞かなければならないことがある」
「聞かなければいけないこと?」
クレアはどうもピンときていない様子であった。だが仕方がない。彼女はリクが襲われた現場には遅く到達したのだ。状況が飲み込めないのは当然である。
「ウィリアムという男は、独り言をつぶやいていた。俺が救世主であり、『あの男』は違う。そのことが実に面白いとな」
「……『あの男』ですか。とても興味深いですね。そしてリク。貴方の状況を理解してその発言を考慮すると―――」
「あの男とはすなわち俺の友達であるカズキであると考えている。その可能性が高い。襲われた時は頭が回らなかったが、今ならその可能性を肯定することができる」
ウィリアムはリクとあの男との違いに興味を持っていた。そこにヒントがある。人が違いに着目する時、少なからずその対象となるものは類似点がある。鳶と大鷲は同じ鳥類であり、同じ鷹科である。だがその姿形、生態などは異なるようにだ。
リクとあの男の違いはウィリアムが既に答えている。救世主か否か。リクは前者、あの男は後者だ。では類似点はなんなのだろうか?魔法が使える?いやそれならばレイラやクレアだって使うことができる。力が強い?リクはアスリートではない。レスラーなどに力勝負すればひとたまりもない。頭脳?残念ながらこの世の中には頭の良さに関していえば勝負にならぬほど素晴らしい頭脳を持っている人間がいる。残念ながらリクはそのような頭脳を持ち合わせていない。そして何よりこれらはどれもリクとあの男だけにしかない特徴とはいえないものだ。
二人にしかいえない特徴的なものとは?それを考えた時に自分の過去を振り返ると明らかに他の者が経験などしたことがないものがある。
―――違う世界に連れられたこと
こればかりはそういる者ではないだろう。レイラなどの話を聞いてまず間違いないとリクは思っている。さらに具体的にいえば、後ろに突如として穴が出現しその中から無数の手がリクを引き摺り込んだ。
これと同じ経験をしている人間がいる。それこそリクの友人であるカズキだ。カズキもまた同じように無数の手によって穴の中へ引き摺り込まれている。そしておそらくリクがいるこの世界のどこかにいる。
つまるところリクが考えるリクとあの男の類似点とは、異世界に連れられたという経験だ。そしてウィリアムがリクの事情を知っていることを踏まえた上での発言を考えるとあの男とはカズキであろう。
「レイラさんに協力するのはもちろんですが、カズキを探すのも大切だ。だからウィリアム。奴はもう一度会わなければならない。そうすると―――」
「カルニフォックスの連中と接触するのは避けられませんね。なかなか厄介なことです」
クレアは少し勘弁願いたい表情で呟く。その顔からクレアにとってもカルニフォックスは避けたい存在なのだろう。
「ですがやむを得ないことです。どのみち彼らは神出鬼没。私たちが避けたところでどこかで衝突するでしょう」
レイラの言葉にはこの場にいた全員が同意であった。
「さて次にデスアモルというものについて教えてくれませんか?」
コーヒーを一口味わいながら少しばかり一息をついた後、リクは問いかけた。
「デスアモル。カーティスが戦った生き物がそれです。あの生き物は言うなれば、私たちが倒さねばならない生き物デストヒュヌスの子供にあたる生き物です」
「子供?」
「えぇ。デストヒュヌスは体内から時折、彼の力の塊を解き放つことがあるのです。私たちはそれを『悪意のかけら』と呼んでいます」
「その悪意のかけらに汚染された生き物こそデスアモルと呼ばれているのですよ」
レイラの説明にクレアが補足する。
「そして、デスアモルはある特性を持っています」
「その特性とは?」
「破壊の欲求です。デスアモルは生命の破壊をすることに快楽を、生きがいを見出している生命。時に身内ですら殺してしまう。殺して殺して殺し尽くさなければ、彼らは生きていけない。気が狂いそうになる。生命を存続させるという機能を有していない、欠陥がある生命」
確かにそれは欠陥がある生き物だとリクも納得した。元来生き物は生きるために行動する。それは人間だろうとなんだろうと変わりがない。そのためにその生き物が可能な範囲内において合理的な行動を取る。確実に他の生き物を喰らうために鋭利な牙を有する虎。肉食動物から逃げるために広い視野を持つ草食動物。皆生きることに必死だ。他の生命を奪うことも生きるためという説明がつく。だが、それにも限度が必要だ。食っても食っても満たされないことになると、いつか資源が枯渇してしまう。そのような事態になれば結局共倒れ、つまり詰んでいる。欠陥があると言われても仕方がない。
「デスアモルになってしまった生き物は、他の生命を滅ぼします。したがってデスアモルもまた倒さなければいけません。そしてデスアモルを生み出す源『悪意のかけら』これも破壊する必要があります」
「なんとなく理解したけど、実際どうやって悪意のかけらを破壊するのです?武器で殴れば良いのか?」
「リク。あなたに限れば問題ないでしょう。何せその銃があるのですから」
「これが?」
リクはそう言って自身の武器ウォルンタースを取り出す。
「その武器は魔力を弾として放つ武器。それこそ悪意のかけらを破壊することができます。悪意のかけらは物理的な攻撃では破壊できません。我々のような魔力による衝撃により破壊することが可能なのです。その銃。ウォルンタースならば容易に破壊することができるでしょう。魔法を行使して破壊することも可能ですが」
確かにそれならば問題ない。リクはいまだレイラのような魔法を行使することはできない。氷の刃を生み出し攻撃したりする芸当は、それなりの練度が必要である。だがウォルンタースはそのような芸当は必要ない。ただ無象にあるリクの魔力によって攻撃できるのだ。しかもその威力は魔法による攻撃と遜色ない。下手をすればそれ以上だ。そのようなことを踏まえると、レイラの説明は納得いくものであった。
「悪意のかけらは生き物であれば、とりつきデスアモルに成り下がってしまう。尤も生命力が弱ければ忽ち死んでしまいますが。どちらにせよ破壊しなければならないのです」
「それでこれからどうするのです?何か計画があるはずです」
「それについては私めが説明致しましょう」
落ち着いた声が響き渡った。レイラでもクレアでもない。男の声。レイラの執事カーティスの声であった。
「朝早くから姿を見なかったけど、用事は済んだのかしら?」
「もちろんでございます。レイラ様。ただその話は後にしましょう。それよりも今はリク様たちのこれからの話でしょう」
そういってカーティスはリクの方へ視線を向ける。
「デストヒュヌスは現在、一応は封印されております。しかしいつ封印が解けてもおかしくないというのが現状。というのも奴を封印するために使われている護石を我らの国ウァリエタースを含む五大国にて各国で保管管理を行なっているのですが、年々力を弱まり、時折、奴の体の一部が封印から抜け出すことがあるのです。さらに護石を保護している他国の不景気、戦争等護石の力維持もままならぬ状況なのです」
「なんとも悲惨な。一応この国ではデストヒュヌスは驚異的な存在という統一的見解を持っているはず。それにもかかわらず足並みが揃っていないことがなんとも」
その言葉には日頃感情を顔に出さないカーティスも流石に苦笑いであった。なんとも情けない。そういって己を責めているような様子であった。レイラもクレアも同じような表情だ。
もちろん彼らのせいではないことは理解している。だがそれでも落胆せずにはいられない。こうも「悪い」予想が幾度と当たれば、ため息ひとつつきたくなるのだ。
(どうやら俺たちの行動はかなり厳しいことになりそうだ。デストヒュヌスを封印している重要な護石とやらを守っている他国の不経済。デストヒュヌスが驚異的な存在であるならば、それ以外の国が支援するはず。最低でも封印するに必要な程度の支援をするはずだ。仮にその国の国民が貧困で苦しもうとも、デストヒュヌスを解き放たない程度の支援をだ。俺だって他国の経済状況など投資や難民などで自国に流れるなどない限りどうでもいい。しかしメリットを享受するための必要な支援をする。だが話を聞く限りそれが行なっていない。ということはつまり、デストヒュヌスが解放されて『喜ぶ』奴がいるということだ。間違いなくそいつは俺たちの敵になる。そしてそういう奴は間違いなく国の中でも力を持った人間だろう。……正直勘弁してほしい)
だが、リクはやると決めた。ならばこの先に困難が待ち構えていようとも、乗り越えるだけだ。
「リク様あなたにはこれからこの屋敷から少しばかり離れた場所にある祠に向かってもらいます」
「?」
なぜ唐突にそのような場所が上がったのか?という問いかけをリクは目でする。それを察したのかカーティスが答える。
「申し訳ございませんが、私もあまり詳しいことは知らされておりませんが、どうやらそこにリク様の力になるものがあるとのこと。これは古くから伝わってきた話でございます。行ってみる価値はございましょう」
確かにカーティスのいう通りだ。これから色々と厄介ごとに見舞われる。力をつけておく必要はあるだろう。
「目的地まではこの私が案内します」
前に出たのはクレアであった。
「私がその祠へ入る鍵を管理しておりますので」
「ええ。頼みますよクレア。レイラ様私達はこの屋敷に残り準備を始めましょう。リク様が向かっている間に報告も済ませておきましょう」
「わかったわ。それじゃあリク、クレア。お願い」
レイラは二人に声を変えながら、カーティスと共に部屋を出て行った。
「それじゃあリクさん。出かける支度をしましょう」
にこやかにクレアは告げた。




