第17話 妖精の声
「あたしが話してみる」
そう言って、ユノーナが前に出ていく。真剣な眼差しでウッドゴーレムを見つめている。
「話せるのか? 意思があるようには思えないが……」
御影さんが、セイランに耳打ちをしていた。そして、ウッドゴーレムはゆっくりと私たちの方向に近づいてきている。その間も、ユノーナはずっと私には理解できない言葉、たぶんエルフ語で話しかけている。
「あれ……?」
ユノーナが戸惑いの声を上げた。私はウッドゴーレムの頭部、目の部分が赤黒く染まっているのに気付いた。色からすると、誰かの血だろうけど……。神官長は自分の血ではないと言っていたと思う。
「言葉が通じない?」
彼女は泣きそうな声で振り向いて言った。先頭にいるユノーナの前まで来たゴーレムは、腕らしきものを振り上げる! ユノーナは、再びゴーレムの方を向き話しかけていた。しかし、ゴーレムは意思を持たぬ物体のように無視し続けている。
「ユノーナ!」
私が叫ぶ同時に、ゴーレムは腕を振り下ろした!
ガキッッ。
セイランの長刀が、すんでのところでゴーレムの腕を受け止める。彼は素早く移動し、ゴーレムとユノーナの間に割り込んだのだ。
ぐぐぐと力比べのようにゴーレムの腕の先とセイランの長刀が重なり、拮抗しているようで、震えつつも動かなくなった。
ゴーレムは別の腕をも振り下ろそうとしていたので、今度は私が受け止めるために前に出た。
「なんで……?」
ユノーナが叫ぶ。予想通り、振り下ろしてきた腕を、今度は私の剣が止める。私は、後ろにいるユノーナに振り向かず、声をかける。
「これは話が通じる相手じゃない!」
「ううん……本当は、簡単な会話ができると思うのに……。しょうが……ない!」
さっきまで泣き声だったユノーナの声が変わった。
「ユノーナ、狙うなら足だ!」
「うん」
御影さんの声と、魔法を詠唱するユノーナの声が聞こえた。
「炎の矢!」
私は背後に熱風を感じる。そして、次々に眼の前のゴーレムの足に炎を纏った矢が刺さっていく。六本くらいだろうか? 刺さったところから炎が生え、それは次第に腕を伸ばし、表面を燃やし始めている。
煙が周囲を覆っていき、目にしみる。焦げ臭い匂いも鼻を突いた。
私はゴーレムの腕を剣で受け止めていたが、次第に相手の力が弱まっていくのを感じた。ある程度のところで、えいっと押し返す。すると、セイランも合わせてくれたようだ。
ゴーレムは、バランスを崩し、後ろに後ずさった。
足を包んでいた炎は、腰の辺りまで燃え広がっていたが、次第に弱くなってきている。このままだと消えてしまいそうだ。足の部分は黒くなっているが、燃え尽きる前に炎は消えていた。
私は剣を構え警戒していたのだけど、足がうまく動かせないようだ。やがて、どーん、と大きな音を立てて、ゴーレムは後ろに倒れてしまった。
しばらくは立ち上がろうとしていたようだけど、ゴーレムの表面を炎が全て焼き付くしていく。皆は一言も発しず、警戒しつつも、ただじっとその様子を見つめていた。そして……ゴーレムは、完全に動きを止めた。
安全になったことを確認すると、私は呆然としていたユノーナに声をかけた。
「動かなくなったね」
「うん……このゴーレム……変」
彼女は、頭部の赤黒く染まった部分を見つめていた。頭部は表面も燃えずに残っていた。この地のようなものがなければ、ユノーナの言葉に反応し、攻撃を止めてくれたのだろうか?
「神官長、この血はいったい?」
御影さんが、怯えていた神官長に質問する。
「これは、あの、私と一緒にいた聖魔教の者の血です。彼は、この下の階の、祭壇のようなものに魔方陣を描いていました。そして呪文を唱えると、何かの呪文が発動したみたいでした。その直後に、このゴーレムが襲ってきたのです」
「ふむ。警備のシステムが動いたのは、その呪文のためか……?」
「分かりません。彼はゴーレムに殴られ、出血していたのですが、その時の返り血がこの頭部のものじゃないかと」
神官長は、ぶるりと体を震わせた。冷や汗もかいている。とても怖い思いをしたのかも知れない。
「それで、そいつはどうなった?」
「はい。それが、彼を殴った直後、ゴーレムの動きが止まったのです。そして彼が私を指差すと、急にゴーレムが私に向かってきて……」
「それで、ここまで逃げてきたと」
「はい」
御影さんは腕を組み、考えをまとめながら、話し始めた。
「恐らく、警備システムを乗っ取ったのだろう」
「クラック?」
「ハッキングという人もいるが……あの警報といい、襲いかかってきたゴーレムといい、多分……」
「どうすればいい?」
セイランが質問した。
「恐らく、祭壇に施した呪文をなんとかすれば良さそうだが……操られたゴーレムがまた来るかも知れない。下手したら、大量に」
「それは困るな。一体でも押さえるのにやっとだった」
セアラさんも、私が加わっても状況はあまり変わらないだろうとセイランの意見に同意した。
「でも、その祭壇まで辿り着き、その魔方陣を消すなどしてを解除するしかないかも」
「やはりそうなるか……」
御影さんとセイランは二人して腕を組んで、うーんうーんと悩み始めてしまった。御影さんの言っていることは分かりそうで分からないところもあるけどセイランは分かっているのだろうか?
すると……
「すごいわね。だいたいあっているなんて」
不意に、甲高い……小さな女の子のような声が聞こえた。ユノーナの声とも違う。
「誰だ!?」
皆が警戒する。しかし……声の方向を見ても誰もいないように見えた。
「透明化か?」
セイランが目を光らせる。しかし……何も見えないようで、目を細めあちこちを見渡していた。
「失礼しちゃうわね! いくら小さいからって……!」
声の方向に、少し上に視線を向けると、ひらひらと、蝶のように羽ばたいている4枚の羽が見えた。その中央には……小さな女の子。声の主は、彼女のようだった。小さな花が頭にたくさん添えられていて、とても可愛らしい。着ている服は緑色で、植物の葉で作られているようだ。
「ピクシー?」
ユノーナがそう、つぶやいたのが聞こえた。




