第13話 小さな女子会
「実は、私は孤児なんです……十年前に、王都の東側の大地に大きな亀裂ができて……その亀裂に飲み込まれた街に住んでいたんです」
「亀裂?」
突然大地が裂け、多くの人がその亀裂に飲み込まれていったということだ。街ごと……。想像が出来ないけど、多くの人が亡くなったみたいだ。
「地面が揺れる中、父がギリギリのところで突き飛ばしてくれて……私は助かりました」
「そんな……」
彼女は目を伏せた。そのことを思い出す度に、胸が痛むのだろうか。ふと、夢で見たお母さんの姿を思い出す。
「レェナさん……私のために泣いてくれるんですね」
「えっ?」
いつの間にか、涙がこぼれていた。私がした思いを、彼女もしていて共感したからなのか……それとも……。
ロラさんは、私が手で涙を拭うのを見て、ハンカチを差し出してくれた。
「これ、お使いください」
「ありがとう」
受け取って、涙を拭った。ハンカチはふんわりと、心地よい花の香りがする。
「あっ。ごめんなさい。これ洗って返します」
「ううん、大丈夫。よかったら、このまま使ってもらって大丈夫ですよ」
「いいんですか?」
「うん。是非持ってて」
「ありがとう……」
伯母さんやお母さんみたいな優しさに甘えてしまう。いいのかな、とも思うけど、そう言ってもらえるなら甘えてしまおうかな。
「ラルフさんの娘さんだもの。彼は急にいなくなっちゃって、お礼もできなかったし。ちゃんとしたお礼はまたしたいな」
「お礼?」
「うん、私ね、ずっと一人だった。大神殿の図書室なんて殆ど人が来なくってね。私一人で本と過ごしてた。そんな中、彼が通ってくれるうちに話をするようになって……」
新しい本を求める人は、図書館の方に行くみたいだ。古い歴史書などを探す父は、神殿の方に多く通っていたということだった。
「一緒に、食事をお誘いしたら、来て下さって、レェナさんの話とか、レェナさんのお母さんのことを話して下さったんです」
「私のこと……」
「はい、笑顔がとても素敵で帰るといつも駆け寄ってきてくれるって」
「なっ」
とても恥ずかしかった。でも、そう思ってもらえていたという嬉しさもある。
「ふふっ。とても可愛らしい。聞いていたとおり……。レェナさん、私とお友達になってくれませんか?」
「はい、是非」
断る理由など何一つない。二つ返事で答えた。
「ありがとう。将来はお友達じゃなく……娘というか」
「はい?」
「いやいや、えっとね、実は、ラルフさんと一緒に住んでたんですよ」
「えっ? えぇーー!」
どう受け取ればいいのか……そこまでの仲だったとは。一年前知り合ったというのなら、せめて手紙でも教えてもらってたら、挨拶に来られたのに。
もうお母さんのことなんて忘れちゃっているのかな……だとしたら残念という気持ちもある。でも……十年以上一人というのも寂しいのかもしれないし。
「あっ。ごめんなさい、そんなレェナさんが悩むような仲じゃなくて……単に空いた部屋に寝泊まりしてもらっていただけで」
「いや、その、父がお世話になっていたのなら……何も知らなくて」
「好きでお願いしてたことなので、気にしないでください。ラルフさんは、ずっとレアさんのことを思っていらっしゃって……そういう人だから私も好きになったのかなって」
その言葉に、少し安心する自分がいた。人を想うってやっぱり素敵なことだと思う。そんな人に巡り会えたら……。
「ひとりぼっちの私に、相談したり、話を聞いたりする人ができて嬉しくて。次第に好きになっていってしまって」
「あの、ロラさんの気持ちは父は知っているのですか?」
「ううん……結局言う前に姿を消してしまったから。それで良かった気もするし、言っておけばという気もしていて分からなかった」
「……そうですか」
もしかしたら、父はロラさんの気持ちを感じていたのではないか、一瞬そんな考えが頭をよぎった。
「でもね、今度会えたら、きっと想いを伝えたいと思います。貴方に会えて、そう思いました」
「私?」
「うん。結果はどうあろうと、多分関係も気持ちも……変わらない。だったら、伝えて知っておいてもらいたい。何故かは分からないけど、貴方を見ていたらそんな気がしたの」
「きっと父なら……真剣に考えてくれると思います」
「はい!」
ロラさんは、まるで悩みが吹っ切れたような、ぱぁっと明るい笑顔になった。
「それでね、レェナさん、もしよかったら、今日私の家に泊まって行きませんか?」
「あっ」
ふと、今朝御影さんが「夜話そう」言ってくれたことを思いだした。バタバタしててゆっくり話す時間が最近なかったから、話したいな。
「あの……ごめんなさい、ちょっと用事があって」
「じゃあまた明日でも、あさってでも、遊びに来てもらえたら嬉しい」
「はい! 是非」
「ありがとう。昼間なら大神殿にいると思うから、いつでも訪ねてきてね。それで、今夜は好きな人と約束なの?」
「あっ……いや、そういう関係じゃ……」
あれ? 今度は私の話?




