↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/70

第12話 一(イチ)

「レェナさんは、一(イチ)という英雄をご存じですか?」


 一(イチ)。そうだ。すっかり忘れていたのだけど、少し前に見た夢でお母さんが語っていた。世界を救い、カーラ村を作った始祖。私のご先祖様になる。


「はい。おとぎ話で聞いたことがあります」

「そうですね。歴史書でもしっかり記載されていて、伝説でもありますが、事実でもあると考えられています」

「事実……」

「彼は、白く美しい馬を駆り、戦場を駆け巡ったと。話によっては、それがペガサスやケンタウロスなど、伝説上の生き物になっていることがあります。そして最後彼はどうなったか?」


 沢山の女性と共にカーラ村を作った……。その中にエルフもいたとお母さんは話していた。


「村を作った?」

「そこは最後はいくつか説があり曖昧になっていますが、一つだけ共通していることがあります」

「共通?」

「はい。彼は最後に、元の世界(異世界)に帰って行ったとされています」

「!」


 お母さんが言っていなかったことだと思う。つまり、彼は異世界から呼び出された人間だったということだ。

 私は、御影さんのことが頭に浮かんだ。あれ? だとすると……召喚者は?


「ラルフさん……レェナさんのお父さんは、一(イチ)のことを調べていたようです。特に、彼を呼び出した者……召喚者の最後を」

「……召喚者の最後?」

「はい。おとぎ話でも殆ど出て来ていない上、歴史書にも記載されていません。ただ、一(イチ)が元の世界(異世界)に帰ったということは、召喚者がいたはずだ、彼はそう言っていました」

「そうなのですね。確かにおとぎ話でも召喚者の話は聞いたことが無くて……」

「はい。ラルフさんは、いろいろな国を回ってそのことを調べていたそうです。召喚者のことは確信していらしたみたいですが」


 召喚する方法は早い時点で分かったから、あの儀式の部屋があったんだろう。


「それで、碧の湖に向かったのは?」

「はい。結局召喚者の最後は掴めなかったようで……ここが駄目だったら、最後の希望としてそこに行こうと考えていると仰っていました」

「最後の希望?」

「その時の決意に満ちたラルフさんの顔は、本当に凜々しくて雄々しくて……」


 あれ? この人、今、何か変なことを言ったような……。

 ロラさんは、両方の手のひらを合わせ、頬を染め、キラキラした目で……あさっての方向を見ていた。


「あ、あの? ロラさん?」

「……あっ。失礼しました……」


 我に返った彼女は、俯いてさらに赤くなってしまった。

 ……いったい、父と何があったのだろう。……すごく気になる。ロラさんと付き合ってたりした? もしそうならちょっと複雑な気分だけど……お母さんなら許すのかな……。

 また、二人になったときに後で聞いてみよう。私は固く決心をした。


「確かにラルフ殿は、なかなか精悍な顔つきで、頼りがいがありそうでしたな」


 少し私が考え事をしていると、フォゼオさんが何か言い出した。


「そうでしょう? 貴方も分かりますか?」

「あ、ああ……」


 あれ、さっきまで冷たい態度だったのに……少しフォゼオさんに柔らかく接するようになったように見えた。


「ごめんなさい、話が逸れました。ラルフさんは、図書室とは別に他にも調べ物をしていたみたいです」

「別なところですか。どこなのでしょう?」

「それは、話して下さらなかったのです。恐らく、言いにくいところだったのでしょう。例えば、一般人が入ってはいけないところとか……そこで、その最後の希望の手がかりを得たのではと」

「そうですか……」


 いずれにしても、次の目的地が決まった。父が訪れたのが一年前だとすると、まだ碧の湖の近くにいるのかもしれない。行ってみる価値はあると思う。 

 でもそこまでの道のりや費用とか、調べないといけないことが多い。かなりの距離だと思うので、ちゃんと準備しないといけない。


「あの、レェナさん、この後お暇でしたら、二人で甘い物食べに行きませんか? いいお店があるんで」

「特に予定は無いけど……ユノーナが……」


 そう言ってユノーナを見ると、うとうととしていた。相変わらずだと思う。


「じゃあ、俺がこの子と一緒に迎賓館に戻ろう」

「いいですか?」

「うむ。あんなこともあったばかりだが……レェナさんは……一人でも大丈夫そうだな」

「はい? どういうことですか?」

「まあ、気にしなくていい」

「はあ」


 そう言うと、ユノーナを起こそうとする。起きたものの、彼女は、とても眠そう。なので、だっこして返るみたいだ。その様は、まるで親子みたいだった。


「うちの娘よりだいぶ小さいな。昔を思い出すよ。じゃあ、レェナさんにロラさん、これで失礼する」


 そう言って、彼とユノーナは帰っていった。


「じゃあ、レェナさん、あたし達も行きましょう」

「はい」


 そう言って、私たちも店を出た。



 ******



 王都の街中を歩いて行く。

 街道には、たくさんのお店が並んでいる。食べ物を売っているお店。食べ物を売っているお店、食べ物を……


「ふふっ。レェナさん、王都は初めてですか?」

「えっ。いえ、小さい頃に両親に連れられて来たことがあるみたいですけど……」

「そうなんですね! ここは飲食店がいっぱいあるんですよ。ラルフさんと時々ご一緒することがありました」

「父と……あの……父とは……?」

「あ、ここです!」


 ロラさんと私は、おしゃれな喫茶店に入った。私浮いてないだろうか? カーラ村にはもちろん、こんな可愛らしいお店はないし。ルセの街にもなかったと思う。

 さすがに王都だと思う。


「ここの紅茶がとても美味しいんですよ。あとケーキも! これお勧めです。」


 ロラさんの言われた通りに注文する。すると、ロラさんが少しだけ頬を上気させて言った。


「あぁ夢みたいです。ラルフさんの娘さんと一緒にこうやって……」

「はぁ……」

「いつか、三人でこのお店に来られたら……」


 うっとりしつつも、やっぱり、あさっての方向を見ているような気がした。大丈夫かなこの人。

 興奮すると、人が変わったみたいになるけど、普段はとても大人しいというか、静かに話す人だとは思うのに……。

 そうしていると、ケーキと紅茶がやってきた。見た目もかわいいし、期待に胸が弾む。


「美味しい……!」


 赤い小さな果実が添えられ、白いクリームに縁取られたスポンジケーキ。早速食べると、控えめな甘さがしっとりと口に広がった。果実の甘さの対比とで、いくらでも食べたくなる誘惑に負けそうになる。

 紅茶もとても上品で、こちらもふわっと広がる香りがとてもいい。


「でしょう」


 ロラさんが嬉しそうにしながら私を見ていた。歳は私より少し上くらいなはずなのに、お母さんのような目をしている。

 うーん、この感じ……もしかして……。おもいきって聞いてみることにした。


「あの、ロラさん……貴方は父のことを……」

「うん……好き……ううん、愛していると言っていいと思います……」


 きっぱりと、はっきり、迷いなく言って彼女は目を伏せた。普段は静かそうな人なのに、それだけは譲れないと、そんな迫力さえ感じる。


「父のどこがよかったのですか……?」

「あたしはね……」


 ロラさんは、頬を少し赤らめながら、彼女自身のことを話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=oncont_access.php?citi_cont_id=122268010&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。