第14話 脅迫
「レェナさん、気付いてないみたいだけど、今乙女の顔しましたよ。そういう関係って……」
「自分でもよく分からなくて……」
顔が熱くなるのを感じる。
「可愛い……。あのね、一つだけ言っておくわ。私みたいに後で悩まないように、言えるときに気持ちを告げること。多分、貴方が好きになるような人なら、きっと受け止めてくれると思います」
「そういうものでしょうか?」
「うん。きっとね。もしその人が貴方を傷付けたら、私がぶん殴りに行きます!」
「ふふっ……はい、お願いします!」
「はい、お願いされました」
くすくすと二人で笑う。ロラさんが人を殴る所なんて想像できなくて、それが余計に面白かった。
「そろそろ夕方ですね。帰りましょうか」
「はい」
楽しい時間はあっという間だった。またロラさんと話をしたいな。出発するときまで絶対に泊まりに行こうと、心の中で思った。
「じゃあまたね。レェナさんは、お迎えが……?」
お店の外に出ると、一台の馬車が止まっているのが見えた。見覚えがある。昨日、連れて行かれた馬車……王家のものだ。その中から、メイド風の服装をした侍女さんがやってきて、私に告げた。
「レェナ殿、お待ちしていました」
「あの?」
「申し訳ありません、密かに護衛をさせて頂いております。そろそろ日も暮れますので戻りましょう」
「はい……分かりました」
多分、アルだな。何も教えてくれないのは少し気になるけど、楽しい時間を過ごせたし、感謝しようと思う。
ロラさんに挨拶をしようと振り返ると、彼女の首に巻かれている包帯に血が滲んでいるのに気付いた。
「……失礼します」
首に軽く手を触れ、念じる。すると触れたところが一瞬わずかに光った。包帯で見えないけど、多分傷口は閉じたのだと思う。
私には刺されたように見えなかったけど……あの後何かあったのかな……。
「この優しい光……ありがとう。痛みが水のように溶けていきます」
「これくらいなら、いつでもしますよ」
「ほんとうに、貴方は……」
「じゃあ私はこれで……また会いに行きます!」
「うん、またね。レェナさんならいつでも歓迎します」
私は、ロラさんに手を振り馬車に乗り込んだ。夕焼けの暖かな光がロラさんを包んででいるように見える。
どれだけ、彼女の支えになったのか分からないけど、父が感謝されている姿を見ると嬉しくなった。
*****
しばらく馬車に揺られ、迎賓館に戻った。
食事の時間になったけど、御影さんも、ユーユ達の姿も見えない。ユーユ達は何か用事があり、街の宿屋で一泊するという連絡があったみたいだ。
御影さんは、セアラと外泊をするという連絡があったらしい。もう……約束したのに。そんななら、私もロラさんのところに泊まれば良かった。だいたい、あの人と仲良くなっていたりするのだろうか。外泊って同じ部屋だったりするのだろうか?
ユノーナと、セイランと黙々と目の前の食べ物を片付けていく。
「レェナ殿……気分でも悪いのか?」
「ううん、そうでも無いけど……【殿】はやめて」
「そうか」
セイランが気遣ってくれた。なのに、自分の言い方がキツくなってしまった……。
ごめん……とも思ったけど、それは指導者に対する心配なのかもしれない。そういえば、何か酷いことでもされていないだろうか?
「ごめんね……セイランは、何か乱暴なことされなかった?」
「いいや、気にしないでいい……一番うざったかったのは、宗教がらみのことをひたすら聞かれたことだ」
「宗教って? 精霊教、それとも聖霊教?」
「ああ。……聖魔教と言っていたと思う。何のことか分からなかったからそう答えたが。レェナど……さん……は、何か知ってるのか? 今日襲撃をしたのは、その宗教の関係者だと言っていた」
「ううん。初めて聞いた」
そうか、あの集団は聖魔教と言うんだ。人数はどれ位なのだろう……面倒なことに……なるんだろうなきっと。
「レェナァ……今日一緒に寝ていい?」
「うん、いいよ。寂しい?」
「うん……」
あーかわいい。少しイライラしてたけど、彼女のかわいさに癒やされる。そのまま、私はユノーナと一緒に自室に戻った。セイランにも自室が用意されているみたいだ。
部屋に戻ってくつろぐ。お風呂に入って、寝る準備をして、ベッドにユノーナと一緒に横になる。彼女はあっという間に眠りに落ちた。
今日は色々なことが分かった。エルフのこと、父が召喚者の秘密を探っていたこと。そして父とロラさんの関係。今は、父の後を追うしかない。そう、心に決める。
色々考え事をしていたら、眠れなくなってしまった。……そうだ、あの庭園に行ってみよう。なんとなく行きたくなった。ユノーナを起こさないように部屋を出た。
昨日御影さんと会った庭園には、誰もいなかった。花は静かに咲き誇っていたのだけど、何か足りない。私はたまらず、外側の手すりまで歩き、空を見上げた。月は昇っておらず、夜風がやや冷たい。ここは、星の輝きと壁に灯される照明によって照らされているだけだ。昨日と比べ随分暗い。
何かを期待してここにきたわけではないのだけど、寂しくてしょうがなかった。
御影さん……今頃何をしているのだろう? セアラと楽しく過ごしているのだろうか。ずきりと胸が締め付けられるような感覚があった。この感覚は……。
空を見上げると、奇怪な形をした鳥のようなものが飛んでいた。何、あれ?
こん。
すると、近くに何か落下したものがあった。それは、丸められた羊皮紙だった。紐を解き、中身を読んで見ると……。
「指導者殿。大神殿の神官長を預かっている。無事に返して欲しいなら、一人で白き塔の元まで来られよ。なお、王家や騎士など、他人に伝えた場合は彼の命は保証しないものと思って欲しい」
文章の最後には、記号が描かれている。聖霊教だけにある、聖魔の精霊の記号だ。これが、聖魔教を示すものなのだろう。
……ああ。やっぱり面倒なことになった……。
私のせいで……神官長が……。自分の足下が震えだし、まるで世界が崩れていくような、そんな感覚に陥っていった。




