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第4話 カーラ村の防衛機構

 ぼんやりと目を開けると、白い、見慣れた天井が見えた。どうやらここは、伯母さんの家のベッドの上のようだ。

 目をつむると、ぼんやりと御影さんの顔が浮かんでくる。そして狼たち。うーん、あれは夢だったのかな?


「あ、レェナ、起きた?」


 顔を横に向けると、椅子に座っているリーサが見えた。


「えっと……リーサ、おはよう」

「ふふっ。おはよう。でももう夕方だよ」


 二つ上の幼なじみで、この村で一番の友達。足下まで伸びた髪がよく似合う、おしゃれ好きな女の子だ。彼女は、私が目を覚ましたのを見ると、にこっと笑った。


「話を聞いてびっくりしたよお」

「話?」

「うん、あのおじさん、異世界人なんだって?」


 リーサが興味津々! という顔で聞いてくる。あれは夢だったことにしようと思ってたけど、やはり、現実だったようだ。私は苦笑いをしながら頷いた。

 狼に襲撃されたのはお昼過ぎだったから、4〜5時間くらい寝ていたことになるのかな。あの後、何があったか、リーサから話を聞いた。


 狼を撃退した直後に、伯母さんと、私に剣術を教えてくれる先生が、家に尋ねてきてくれたのだ。伯母さんが、逃げ出した狼をたまたま見て、心配になったらしい。

 伯母さんと先生は、私の家で御影(みかげ)さんに会い、初めは不審者だと思い攻撃しかけたらしい。でも()()()()御影さんの謝り方を見て、剣を収めたのだという。


「それで、御影さんは?」

「御影さんっていうんだ。隣の部屋で、事情聴取中だよ」


 そういえば、隣の部屋から話し声が聞こえる。耳を澄ましていると、それを端から見ていたリーサが、ニヤニヤしながら、話しかけてくる。


「おじさんだけど、まあまあ、悪くないね」

「リーサって、あーいうのがタイプなんだ」

「ちょっと歳上過ぎるのが、残念かなあ。それに結婚してるでしょ」


 彼女は、何かと妄想するのが好きな性格で、今も、その()()を爆発させていた。


「どうだろ? 聞いていないな」

「で、何かされなかった?」

「狼が来たとき、助けようとしてくれた」

「それだけ? ウチが男だったら絶対レェナに惚れて手を出しちゃうけど」


 彼女は、私に早く彼氏作れとか、好きな人はいないのとか、しょっちゅう言ってくる。こんな話が大好きだ。仕方なく、会ってからのことを順に話す。


「え? なんでもしますって言っちゃったの?」

「うん、つい、申し訳ない気持ちになって」


 もちろん、御影さんには何もされてないと念押ししておく。


「ウチは心配だよ」

「何に、心配してるの。大変だったんだから」

「ふうん、助けてくれたんだし、あの御影さんって人でもウチは許すよ。でも不倫はダメ」

「だ、か、ら、何の話よ?」


 毎回こんな調子なのだ。気にしてくれるのは嬉しいけど、いつも一言余計な気がする。


「御影さん、その感じだといい人みたいだね。レェナを子供としか見てないかもだけど」

「そりゃリーサみたいなスタイルじゃないけど……もう今日から大人だよ」

「もう、二、三年したら負けそうだけどね。遅れたけど誕生日おめでとう。そろそろ立てそう?」

「ありがとう。うん、大丈夫」


 私は、起き上がり、身なりを整えると、リーサと一緒に話し声が聞こえる隣の部屋に移動した。


 隣の部屋には、伯母さんと剣の先生、それに御影さんがいた。彼は伯母さんが作ったと思われる料理を食べながら、先生と話をしている。


「おー、レェナ、気付いたか」

「レェナも食べな」


 先生と伯母さんが声をかけてくれた。

 御影さんは、私の顔を見ると安心したようだ。


「倒れたときはびっくりしたけど、顔色、いいみたいだね」

「うん、さっきはありがとう」


 リーサは家の用事があるからと、帰っていった。

 私は伯母さんが用意してくれた料理を食べながら、三人の話を聞く。やたらお腹が減っていた。さっきも美味しかったけど、今も格別に美味しい。

 すっかり安心して食事をする私をよそに、御影さんと先生の話は少し深刻そうだった。


「あの狼はレェナさんを狙っていた可能性があります。それと偵察を兼ねていたかもしれません」

「偵察? それに狼が人を襲うことは、ありえない」

「しかし、窓まで割って入ってきて、ちょっとおかしくないですか? それに、まだまだ攻撃できただろうに、あっさり逃げたのが気になって」


 御影さんが質問を続ける。


「狼にそこまでの知能は無いよ。ただ、レェナを狙ったとしたのなら気になるな」

「先生、あの狼、なんか変だった気がします」

「変ってどういう?」

「目が真っ黒だったし、前見た狼より牙が大きかったような」


 私の話を聞き、先生は深く考え込んでから言った。


「御影さん、分かった。しばらく警戒をしよう。村長に相談して、村全体で防衛線を張り、次の襲撃に対する備えをしようと思う。レェナは、しばらくここにいなさい」


 先生はそう言って席を立った。かなり御影さんを信用しているようだ。御影さんは先生の言葉に同意していたけど、少し驚いた顔もしたように見えた。


「それとレェナ、部屋を見たが、初めての戦闘にしてはよくやった。頑張ったな」

「ありがとうございます! でも、とても怖かった」

「……そればっかりは経験だな」


 褒められたのが、とても嬉しくて、笑顔で答えた。先生は、私の顔を見つめると、表情が緩んで私の顔を見つめていた。

 その間が少し長くて、不思議に思い始めたとき、彼は、はっとした顔をして、すぐに視線をそらした気がした。


「……で、では私はこれで失礼します。レェナをよろしく」

「何顔を赤くしてるの。まあ、わかったよ」


 あきれ顔をした伯母さんに挨拶すると、先生は足早に出て行った。すると、御影さんが口を開く。


「防衛線を張るって、ちょっと大げさな気がするし、そんなにすぐできる物なんですか?」

「ああ、このカーラ村ならではの方法があるんだよ。暗くなったら、外を見てごらん」

「外ですか? ……はぁ」


 御影さんは不思議そうな顔をして私を見た。けど、私もその辺の話は分からない。なんでも、魔法で防衛線を張るということだけど、説明するより見た方が早いとのことだった。


 その防衛戦は、防衛機構(ジャダ・マナラ)と言うらしい。随分久しぶり、十年ぶりくらいに起動したみたいだ。私は前回の起動は記憶にない。

 外壁の隙間といい、御影さんは不思議そうに「平和なんだな」とつぶやいていた。


 村の外壁には、ところどころ隙間がある。以前は閉じられていたが、壁外の畑に向かう農家たちが壁に穴を開けたと聞いている。

 最近、少なくとも私が生まれてからは、魔物や野党に襲撃されることもなく、この村は平和だった。しかし、その警戒心のなさが仇となって、狼たちは壁の隙間から侵入してきたこと


 その後も御影さんは、伯母さんに色々質問をしていた。村の規模や、周囲の地形、産業など。

 なぜ、そんなことに興味があるのが不思議だけど、丁寧に答える姿を見るかぎり、伯母さんも御影さんを悪く思っていないようだ。


 しばらくして日が暮れ、夜になった。


「そろそろ見えると思うから、外を見てごらん」

「はーい」


 伯母さんが、言ったので御影さんと一緒に見ることにして、窓際に寄った。そこには——


「すごい……」

「おおおお!」


 思わず二人して声を上げた。巨大な美しい魔方陣が、幾重にも重なり、村全体を覆うように、空に広がっていた。外に見える村人も空を眺めて、幻想的な光景を見つめていた。

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