第5話 魔物の来襲
空に浮かぶ巨大な魔方陣。村をすっぽり包み、その外側は直線が一本遠くまで伸びて、回転している。何層にも重なる円形のそれは、とても綺麗だ。
異世界人召喚の時、床に書かれていたものと共通してる部分があるような気がした。
村の中央に光の柱が見える。そこが、起点になっているみたいだ。
「この世界は、こんなのが当たり前にあるの?」
「滅多に無いよ。私だって初めて見た……」
隣で目を丸くしている御影さんが、問いかけてくる。
私は魔方陣の端がどうなっているのか気になり体を傾けた。すると、バランスを崩し御影さんの胸の辺りに肩が触れる。
「わっ。ごめんなさい!」
勢いはなかったけど、ぶつかったことを謝った。すると、御影さんが驚いた顔をして私を見てくる。何故か彼は、一瞬すごく険しい顔をした。その後、私の視線から逃れるように、空の魔方陣に目を向けた。
「ううん、大丈夫」
彼は、そう言って、私の肩に手を触れて、優しく押し返してきた。さっきの険しい顔は何だろうと思ったけど、平気という言葉に安心する。私は、そのまま空を見上げた。魔方陣は色と形を少しずつ変え、見ていて飽きない。
すると、御影さんが口を開いた。
「綺麗だね」
「うん。……手、温かいね」
「よく言われる。暑苦しいって言う人もいる」
「そうかな?」
こうやって、男の人と二人というのは、慣れない事ではあるけど、それを不快だとは思わなかったし、とても新鮮に感じた。同年代の男の子とも、父とも違う雰囲気。
「そういえば……この村のみんなの髪の毛、みんな黒いんだね」
「うん? この村以外だと、いろんな色の人がいるけど……どうして?」
「異世界の人って、もっとカラフルだと思ってた」
そんな他愛のない会話をしていたのだけど……この状況は、長く続かなかった。
「——魔物の集団が接近しているようだ」
先生が、やってきて声をかけてきた。
他の人の家にも、伝令役の人が走っているのが見える。このカーラ村の人口は数十人程度。狭い範囲に密集しているので口づてでも、すぐに広がる。
「レェナと御影さんも、出来れば戦線を構築するのに協力して欲しい」
「私は役に立つのか不明ですが……。しかも、レェナさんは、狙われている可能性があるのでは?」
「その可能性はある。しかし実戦経験の乏しいレェナには戦いを見せておきたい。後方でいいので御影さんはしっかり守って欲しい。レェナもいいね?」
先生が有無を言わせない口調で言う。普段はとても優しいけど、剣を教えてくれるときは、角が生えた巨人になっていると思う。今も悪魔のように見える。だいたい、これは、私を守るための防衛線だったはず。
御影さんも疑問に感じたのか、質問を始めた。
「そこまで仰るということは、危なくはないということでしょうか?」
「はい。カーラ村の誇る戦士隊と、魔術師隊で十分でしょう。さらに、護衛も付けます。一番の戦力の近くにいた方が、レェナを守りやすいですし、もし仮に敵がレェナを狙っているのなら、前線に近い方が、敵の動きを読みやすい」
最後の言葉に、御影さんは、少し考えていたみたいだけど、結局首を縦に振った。
「分かりました。危なくなったら早めに、二人……護衛の人と逃げようと思いますがいいですか?」
「はい、お願いします。感謝します。万が一危なそうなら、逃げるタイミングは、早めに判断をお願いします」
いやーー……私の意見はっ? 御影さんはなぜ、断らなかったの?
戦える人は、みんな出るのだろう。冷静に考えると剣を習っている私が、出ないわけにはいかない。
結局行くのだけど、意見くらい聞いてよと思う。それにしても、先生はなぜ御影さんを、そこまで信頼しているのだろう?
動きやすい服装に着替え、父の剣を準備した。御影さんも着替え、先生の手配で渡された革の鎧、木製の盾と短剣も装備した。
「椅子よりいいね」
「うん、椅子より、よっぽどいいよ。あれは重かった!」
そう言って、彼は笑った。つられて私も笑う。
気付けば、伯母さんが、マントを羽織り、スクロールを選別している。
「伯母さんも行くの?」
「もちろん。レェナの護衛も兼ねてね」
生活魔法はすごく上手に扱うのを知っている。攻撃や防御の魔法も、うまく扱えるのだろうか? だとしたら、初めて見ることになる。
「さあ、行こうか」
伯母さんが言う。彼女は、心なしか、喜んでいるような気がした。今、目が怪しく光ったような……。
そういえば、聞いたことがある。白いマントを羽織り、微笑みながら、破壊的な攻撃魔法を無慈悲に放つ。白き破滅を司る魔女、と呼ばれていたことがあったとか、なかったとか。
伝聞でしかなかったけど、今の様子を見たあとだと、噂の信憑性が一気に跳ね上がった。
私自身、緊張はしているけど、手は震えなかった。今までに経験したことのない、不思議な感覚に包まれながら、魔物が迫る戦地へと赴いた——




