↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/70

閑話 隣で眠らせて 2

「御影だけど、入っていい?」

「うん」


 ドアをノックしたのは、御影さんだった。

 私は半身を起こし、部屋の入り口を見た。彼の顔が少し赤い。お酒のせい、なのかな?

 御影さんは、部屋に入って私の顔を見ると、開口一番に不安そうな声を上げた。


「何かあった?」

「ううん、大丈夫」

「大丈夫って?」


 御影さんの顔が、さらに曇った。彼に、そんな顔をさせてしまうほど、酷い表情をしていたのかな、私は。

 急いで笑顔を取り繕い、答える。


「ちょっと寝付けなくて」

「……寝れないのって辛いよな」

「うん」


 本当は夢のことがあるのだろうけど……うまく説明ができないので黙っておくことにした。

 何か察してくれたのか、御影さんが話題を変えてくれる。


「俺も着替えて寝る準備しようかな。その後、まだ眠れそうにないなら、何か話をしよう」

「うん。体今から拭く?」

「あー、お風呂は入ってきた」

「そうなんだ」


 私は、すぐ着替えると思ったので、また寝っ転がって横になったまま、ごろごろと回転して御影さんと反対側を向いた。

 目隠し用の衝立はあるのだけど、なんとなく。


「あっ。あの、変なところじゃなくて普通のお風呂だよ」


 急に御影さんが、慌てたように言った。

 あれ? 何か微妙に会話がかみ合ってないというか、なんで慌ててるんだろう? 酔っているから?


「変な所って?」

「えっ? いや……」


 口ごもっている。

 私は、振り向いて彼をじーっと見た。


「いやっ。今日行ったのは普通の、この前レェナさんが間違えて入りかけた混浴のところ!」

「あぁ、あそこ」


 この街では、普通の所らしいけど……私は無理。気にしない人は、男女ともに行けるのだろうけど。

 でも、そこが「普通」なら、変なところとは? 興味があるけど、御影さんがいつにもなく焦る姿がおかしい。


「ふふっ」

「……やっぱレェナさんのその笑顔、好きだな」

「えっ?」


 しみじみと、微笑む彼に、どきっとした。

 好きだとか、かわいいとか。伯母さんも、友達も、お世辞だろうとそう言われることは、とても嬉しい。

 私がお母さんの髪型を真似るのも、そう言われたいから。


 でも、この胸が高鳴る気持ちは、なんだろう。

 よく考えたら、彼がそういうことを言ったのは、これが初めて。私が慣れてないだけかも。


「いやっ、気分を悪くしたらごめん」

「ううん、嬉しい」


 そう言っている最中に、自然に、自分の顔が綻ぶのが分かる。

 さっきの慌てて取り繕ったのではなくて、自然な表情。


「うっ」


 御影さんは、私の顔を一瞬だけ凝視して、すぐに顔をそらした。そして、手で頭を押さえている。

 彼は、どういう気持ちなんだろう?


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 彼を見上げると、彼の口元も少し緩んでいるのに気がついた。

 私は、相手が誰とでも、こうやって楽しい気分になるのがとても好き。


「じゃ、ちょっとあっちで、着替えてくるよ」


 御影さんは、そういって、衝立の向こうに行った。私は、ごろりと上を向いて天井を見つめる。

 やっぱり、部屋で一人でいるより誰かがいてくれると、寂しくない。


 しばらくして、御影さんの着替えが終わる。彼は、そのままもう一つのベッドに歩いて行った。


「……じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


 そう言葉を交わして目を瞑るけど、しばらく時間が経っても、なかなか寝付けない。何度も寝返りをうってしまう。

 衣擦れの音で御影さんの睡眠を邪魔していないか、心配になった。

 そう、悶々としていると、


「レェナさん、寝られない?」


 御影さんの声が聞こえた。

 寝るの、邪魔してしまったのかな?


「うん……ごめんね」

「俺も眠れないから」


 それを聞いて、同じなんだと少し安心した。


「寒くない?」

「俺は、全然」


 寒いと思っていたのは私だけだったみたいだ。

 そういえば、手を繋いだとき、彼の手のひらとか暖かかったことを思い出す。


「御影さん、こっちに来ない?」


 何も考えず、思ったこと言った。すると、御影さんは、困っているのか、戸惑っているのか、少し間を開けて聞いてきた。


「いいけど…………どういう意味?」

「そのままの意味だよ。ちょっと寒くて、近くにいたら暖かいかなって」

「そっか。添い寝か」

「うん……?」


 ふうー、と長い溜息が聞こえて、御影さんが歩きだした。彼の足音が近づいてくる。そして、さっと、私がいるベッドの上に乗り、隣で横になった。

 彼は同じ毛布に入らず、少し離れて反対側を向いている。


 御影さんの方を向くと、私の手のひらが彼の背中に触れる。

 このままだと、手のひらしか暖かくないし、彼も毛布の中に入らないと寒いんじゃないかな。


「こっち向いて欲しい」


 そう言うと、少し間を置いた後、御影さんは、また溜息を吐いた後、くるっと反対向きになり私の方を見た。

 同じタイミングで、私は自分にかかってる毛布を彼にかけてあげる。


「寒い?」

「うん……」


 彼は、私の頭の下に腕を伸ばし、反対側の手は背中に回してきた。

 抱き締められたことはあるけど、今は普段着より布が薄いためか、彼の体温をより近く、暖かく感じた。

 なんだか緊張する。


「あ、酒臭い?」


 すんすんと匂ってみるけど、特に変な匂いはしなかった。お風呂入ってきたというし、何も気にならない。


「ううん、全然」

「そっか。よかった」


 せっかく、温かくなってきたんだし、どちらにしても、このままでいいと思った。

 それにしても、私はさっきから、ずっとドキドキしてるのに、彼は平然としている。お酒が入っているから?

 腕枕も、いつも誰かにしてるかのように自然にされちゃったし。慣れている……?


 少しすると、次第に落ち着いてきて、私は、少しぼーっとしてきていた。

 まぶたが少し重い。このままだと、すぐ眠れそう。人の温かさって凄いなって思う。


「あのさ、一応……俺も男……誘うのは…………」


 御影さんが、随分ゆっくりとした口調で、途切れ途切れに言った。

 誰とでもこういうことするな、と言いたいのだと思う。もちろん、そういうつもりはないし、女の人ならともかく男の人とは抵抗はある。

 あるはずなんだけど、御影さんは、気にならなかった。年の差から親みたいに感じかもしれないけど、それよりも、もっと強い気持ちがあるような。


「結構……今も……理性……」


 彼は目を瞑り、何か言っているけど、もう意味を理解するのは無理だと思う。


 きっと、今日は悪い夢を見ることはないと、そんな予感がする。

 私も眠くなってきたので、まぶたを閉じた。温かくて気分も落ち着き、とても穏やかな気持ちになる。

 次第に、すうっと、意識が遠のいていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=oncont_access.php?citi_cont_id=122268010&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。