番外編 練習を頑張ります!
書いたものの、あまりのしょうもなさにカットしたのですが、番外編ならいいだろうと思い投稿してみます。
少し時を遡り、ルセの街を出て間もないころの話です。
馬車で移動の日々。ルセの街を出て数日もすると、すぐに馬車の移動に飽きてくる。
王都ヴァラトまでは一週間以上かかるということだ。
魔物に襲われることもあるけど、冒険者の護衛がたさんいるこの商隊は、それほど大きな心配もなく、私が戦闘に参加することはなかった。
私は狼になった御影さんに騎乗できないかと考えていた。もしそれができれば、セイランにさらわれたときに見た、狼に乗っていたゴブリン達のように、戦いの時にも役に立つかもしれない。
その練習ができないかと御影さんに話をしていたのだけど、実現はしていない。
御影さんは、何か不思議な座り方をして目を瞑っている。ザゼンと言うらしい。
話しかけたり、ほっぺたを突っついたりしていたら、静かに怒られたので、今は近寄りがたい。
寝てると思ったのだけど。
「あーっ。ひまだー」
そう言って馬車といっても貨車の平らなところに寝そべって言う。
「レェナ、足をバタバタするとパンツ見えるよお」
「ジャンパースカート長いし覗かない限り大丈夫でしょー」
「クレフ意外とむっつりだからぁ」
「そうなの?」
むっつりの意味はなんとなく分かる。すると、ユノーナまで笑いながら、
「クレフ、むっつりい!」
といってクレフさんを指差した。
「——レェナさん? それにユーユ!」
これまた静かに怒られてしまったので大人しく夕方を待つことにした。
モランディさんは、ずっと遠くを見て考え事をしていた。
やがて夕方になり、馬車を止めて野営の準備が始まる。
私たちも、もちろん準備を手伝う。今日は商人さん達と冒険者達と一緒に食事をするということで、大勢で一緒に作業をしていた。
私は、少し前にしていた話を思い出して、御影さんに話しかける。
「ね、今日は……その、御影さんの上に乗ってみたいけどいい……?」
「ん?」
「忘れたの? 頑張って……練習するからって」
「いや、あのレェナさん? その言い方だと——」
ざわざわ。ざわざわ。
周囲にいた人たちがざわめいた。
びっくりしたような目で、私——ではなく、御影さんを見ている。
中には、軽蔑するような、何か汚い物を見るような目で、御影さんを睨んでいる人もいた。
「あんな可憐な子に、一体何を言わせるんだあの男は……最低だな!」
「親子みたいな年の差だし、結婚も、つきあってるわけでもないのだろう? ……最低だな!」
「ああ、そんな……あの子が……」
ヒソヒソと声が聞こえた気がしたけど、何が問題なんだろう?
御影さんを見ると、頭を抱えていた。
その後、御影さんに割り当てられた食事は、なぜか非常に少なかった。調子は悪くなさそうなのに、お皿に配る人が随分少なめに入れていた。
彼はずっと、「誤解だ……不幸だ……」とぶつぶつ言い、涙ぐみながら食べていた。
食事の後、私と御影さんは、近くの森に、二人だけになれる場所に移動する。
「はじめるね」
私がそう言うと、御影さんは、腰の位置を下げた。
「じゃあ私が上に乗るね……」
「…………」
「や、動かないで……うまく上になれないから」
「…………」
「御影さんがじっとしていてくれたおかげで、上に乗れたよ。じゃあ、手を乗せるね、その後、足で、体を挟むよ」
「…………」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、前に……動いて」
「…………」
騎乗のコツは、御影さんが少し大きめの狼になること、私がしっかりと両足で狼の胴体を締めて、体を安定させて走ることで高速の移動ができるようになった。体重の移動をうまくすれば、態勢が崩れにくい。
「はあぁ、はあ」
化身を解いて、御影さんは元の姿になると、赤い顔をしてへたり込んだ。彼は、もっと精神力が必要ということで、少し休むことにしたみたい。
一人、人を乗せて走るのは、かなり大変という事なのかも。
騎乗の練習以外にも、動物の状態での行動の自由度を増すための練習をしているみたいだ。
御影さんは、自由に化身の姿になったり、逆に化身の姿を止めたりした。
といっても、何回も化身化したり解除をしたりできるわけではなく、大きく休憩、つまり一日一回の睡眠を取った後、再び睡眠を取る間に二回まで化身化できる、という制限があった。
「暗くなってきたし、今日はこれくらいにしておこう」
「うん」
私たちは、みんなの所に戻った。なぜか、視線が冷たい。主に、御影さんに対して。
「さっき森の方で……女の子の声が聞こえたけど……何してたんだか」
うーん、見られていたような気配は感じなかったけど、話し声とか聞かれたのかな。
まあ、騎乗の練習をしていただけだし、文句を言われることは無いと思う。
すると、御影さんは溜息をつくと、私に提案をしてきた。
「はぁぁ。レェナさん、化身の話、皆さんに話しておこうと思うんだけど?」
「そっか、知らない人いるもんね。いいと思う」
そう言って、御影さんは商隊の全員を集めると、説明を始めた。
狼になれることを伝えても、初めは半信半疑だった。だけど、実演をしてみると、ものすごい歓声が上がった。
このような、呪文ではないのに、大きく形状変化を行える魔法は見たことがない、と。
「というわけで、レェナさんに乗ってもらい、騎乗の練習をしてもらっていたのです」
化身を解いて人の形に戻った彼が言うと、みんなの御影さんを見る冷たい目が、和らいだ気がした。
そして、翌日から御影さんに振る舞われる食事の量が元に戻ることになる。
「まあ、色々安心したよ」
「戦う力は彼女の方が高い上、その変身能力があるのならそれが一番だろ」
「はは、随分歳上なのに、尻に敷かれているわけだ」
以前より商隊のみんなは、御影さんに優しくなったように見えた。
相変わらず御影さんはブツブツ言っているけど、私は安心したのだった。




