第28話 王都へ
「次の方」
「はい」
私たちが呼ばれ、審査官というのだろうか? 王都に入るための審査をしてくれる人の前に移動した。椅子に座った彼の前のテーブルに、御影さんが私たちの身分証を置いた。
身分証と言っても、カーラ村の村長が適当に書いたものに見えるのだけど。
一人づつではなく、私と御影さんの二人で話をするみたい。審査官は、身分証を手に取った。
「カーラ村から来られたのですね」
「はい」
「その方は、娘さんですか?」
「いえ、近所に住む知人なのですが、私は彼女の付き添いでやってきました」
「ふむ——」
審査官は、彼の手元にある私たちの身分証と、私と御影さんを交互に見る。
「はい、いいでしょう」
「あ、どうも」
あっさり王都に入る許可が出た。手荷物も軽くチェックされただけで、何か言われる事も無かった。目的とかも聞くのかなと思ってて用意してたけど、随分拍子抜けした。
このまま、さっきの騎士の人に気付かれないように王都に入ってしまおう。ヒソヒソと御影さんと話をする。
「目だけで見て欲しいけど、あの騎士の人」
「ん?」
御影さんが、何か気付いたみたいで、小さな声で話してきた。私は言われたとおり、目だけで、さっきの騎士を見る。
すると、金属の鎧を着た人が馬に乗ったまま、台の上に立っているあの騎士の元に近づいていた。
「あの馬に乗った人、街の方から来たよ。俺たちを探してたのかもしれない」
「あ、危なかったね」
ちょっとタイミングが悪かったら、出会ってたかもしれない。道ですれ違わなかったし。
私は運の良さにちょっと驚き、変な笑いがこみ上げてくる。
「さ、このまま入ってしまおう」
御影さんの後について、またコソコソと外壁の門に向かう。
うーん、こっそりチラ見した台の上の騎士がにやりとしたような気がしたけど、声もかけられなかったし、きっと気のせいだろう。
門の真上にそびえる、光の塊を放った塔を見た。
上にまっすぐ伸びる塔は、まるで白い針が夕焼け色の布に、突き刺さっているように見えた。
「はえー」
景色の壮大さに、つい口から変な声が出る。それが聞こえてしまったのか、御影さんが私を見て笑った。
「はは、まあ凄いよなこれ。何かの映画で見た見たワシントンの記念の塔だったか、あれに似てるな」
「エイガ? エイガって何?」
「うーん、説明が難しい。白い壁に動く写真を映す物があって、それをみんなで見るというか」
「うー。シャシンとかまた別の言葉が……でも、分からないけど、楽しそう」
「ふふ。そうだね、また俺が来た世界の事も話すよ」
「うん!」
「それにしても……もの凄く中に入ってみたいけど、きっと軍事施設なんだろうなあ」
「こういうのに興味があるの?」
「ある。これでも、物作りに携わってたし」
「そーいえば、カーラ村の防衛機構にも興奮してたよね」
「はは、そうだったね」
放っておくと、いつまでも塔を見ていそうな御影さんをひっぱって、中に入っていく。
門を潜り、王都に入った。入ってすぐの所は広場になっていた。そこには、不安そうに話している人がたくさんいた。座り込んでいる人もいるし、数百人はいるかもしれない。
多分王都の外壁の外から避難してきた人たちなのだろう。
「レェナ!」
懐かしい声が聞こえた。その声に振り向くと、ユーユが走ってきて抱きついてきた。
「レェナぁ」
次にユノーナも抱きついてくる。
「みんな! 無事だったんだ」
「心配したよぉ!!」
ユーユもユノーナも涙ぐんでいた。大げさだな、と思ったけど、そうか……彼女たちは、あの爆発を見たのかもしれない。
「いやー、レェナも御影さんもよく無事だったな、完全にダメだと思ったぞ」
「無事で何よりです」
モランディさんとクレフさんも声をかけてきた。みんな、元気そうだ。
ん? みんな?
「セイランは?」
「ああ、あいつは宿屋で待たせている。あまり人目につかない方がいいし」
結局王都に入ったんだ。うまく審査官もごまかせたのかな。
それにしても、よく大人しくしてるな。何かあったのかな。
確かにオニだとバレると大変な事になるだろうし、おとなしくしてた方が良いと思う。
「とりあず宿に戻ってから話そう。なんとか、二人の部屋も確保してるし、話を聞かせて」
「うん、わかった——」
そう言って、歩き出そうとしたとき、やっと周囲の異変に気付いた。
私たちの周りにいた人たちは、いつの間にか少し離れた所にいる。他の人たちと、私たちの間には不自然な隙間ができていた。
その隙間を作っているのは、衛兵さん達のようだ。杖を持った魔術師っぽい人もいる。
「なるほど、あなたはカーラ村のレェナというのですね」
見覚えのある人が私の目の前にいて、聞き覚えのある声で話しかけてきた。私の顔をじっと見つめてきている。
「え……」
目と目が合った。そうだ、この人はあの時オーガを倒してくれた、さっき台の上に乗っていた騎士——。
ざわざわと、周囲から戸惑いと驚きの話し声が聞こえる。
「皆様、申し訳ありませんが、大人しくついてきてください。抵抗などなさらぬよう」
有無を言わさず、私たちは全員、一台の凄く豪華な馬車に乗せられた。全員を乗せると、すぐに馬車が走り出す。
せっかく王都に着いたというのに、いきなりのトラブルに巻き込まれてしまった。
いったいこれからどうなるんだろう?
悩んでいると、ユーユが話しかけてくる。
「罪人のような扱いじゃないみたいだけど、レェナ何したのお?」
「え? いや、なにも……あの人に助けて貰ったくらいで……」
「そーいえば、あの騎士なのかなんなのか分からない男、やけにレェナをジロジロ見てた気がするよお」
「うーん、ほんとに思い当たる事無いんだよね……」
そういえばオーガを倒してくれた後、私の顔見て何か言ってたような気もするけど。
「面倒ごとには変わりないさ。それにしても色んなやつに目を付けられてるから、もうちょっとこう……」
御影さんが言い淀んで溜息をつき、モランディさんはうんうんと頷いている。
彼らは何か通じるところがあるのだろう。
ぐううぅ。
お腹が鳴った。みんなが私の顔を見て、笑い始める。
今すごく自分の顔が赤くなってる気がする。
こんな時でも、お腹がすく自分に、私は深い溜息をつき、苦笑いをしたのだった。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、下にある評価の★をクリックして応援していただけると嬉しいです。
ブックマークや感想、レビュー等、皆様の評価が励みになりますので、どうかよろしくお願いします!




