第24話 湧き上がる感情
そのセイランの腕に、今度は魔法ではない、木と鉄でできた矢が命中する。振り向くと、ユーユが弓に次の矢をつがえようしている。クレフさんは、剣を構え、モランディさんは、攻撃の態勢のような険しい表情で様子を確認している。
「クッ。俺は、お前らと戦う意図はない——」
セイランが言うものの、それを信用するユーユ達ではないみたい。彼らは攻撃をしようとセイランの周りを囲んだ。
みんなで協力すれば、倒す事ができるのかな。セイランは受けた傷がすぐ直ってしまうし、あの二回の素早い攻撃はやっかいだと思う。こちらにも怪我人が出るかも知れない。
それに、オーガの集団が気がかりだし、今、戦うのはあまり良くないかもと思う。
セイランは、私の身を守ってくれるクレフさん達を攻撃する理由も、特にない気がする。
私をさらうのなら、徹底的に拒否しよう。そうしたら、引き下がってくれないかな。
「この人の言う事は本当」
「人?」
クレフさんが細かいところに突っ込んでくる。オニって言った方が良かったかな。
「セイランって言うんだけど、彼は砦では私を襲おうとしたゴブリンを倒してくれた。それに、今は戦っている暇はないと思う」
「そうだけど……しかし……」
クレフさんは納得しないみたいだ。
私はセイランに向けて話しかける。
「ね、セイラン、今は引いて。私はあなたに、ついていくのは無理」
「うむ、分かっている。しかし、もうレェナの光が隠されているようで、殆ど見えぬ。光を失うのは恐ろしい事だ」
「そう言われても」
私が困っていると、セイランはとんでもない事を言い出した。
「できれば同行させて欲しい」
「え? いや、その姿で街には入れないし、みんなも怖がる」
「それは心配ない」
一瞬煙が浮かんだと思ったら、セイランは人間の男性の姿になった。彼もさっきのザレナとかいうのと同じように、幻影を見せる事ができるということなのかな。
幻影は、モランディさんも使ってたけど。
「これは幻影とは違う。そこの狼と同じ、体を変質させている」
そうセイランは言った。なぜ御影さんの化身を知っているんだろう。見破ったわけでもなさそうなのに。そんな疑問はあるけど、敵になるよりマシだと思って、私は彼の案を受け入れてもいいような気がしていた。
そうか、砦の家具は人から奪ったと言っていたけど、多分この力を使って街に入り込んでいたんだ。
「レェナちゃん、ほんとに大丈夫かい?」
「レェナぁ……」
みんな信用してないみたいだ。こればっかりは仕方ないよね。
「レェナちゃん、やっぱり信用するのは難しい。今はないけど隷属化の魔法を早めに入手して行動を制限したい」
「承知した」
セイランはモランディさんの問いに即答した。隷属化って現実には見た事ないけど想像する通りなら……セイランそれでいいのか……。そこまで……?
でもよく考えたら、みんなには内緒だけど、御影さんも隷属化と言えばそうなんだよね。
「とりあえず、今はあのオーガの集団をなんとかしたい」
「そうはいっても、あの数は無理だ……王都の兵士が出るのを待つしかない気がするけど」
それは私も同意見だ。だから……。
「だから、せめて人がいるなら逃げてと伝えたい」
「レェナちゃん、気持ちは分かるけど、見ず知らずの人を助けても、いいことなんてないぞ」
「それは分かってるけど」
「育ちが良いのも考え物だな。なら、俺たちはこのまま王都に向かう。やるなら、レェナちゃんだけでやるべきだ」
「うん……」
彼らの言い分はわかる。でも、このままだと後悔しそう。妙な感覚が沸く。やらなければいけない、そんな感情。
「我も従おう」
セイランはついてきてくれるみたいだ。だけど、狼に乗れそうにないし……。
御影さんは?
狼を見ると、というように私を見て、次に自分の背中を見た。乗れ、と言っていると感じる。
「ふん、御影さんもお人好しだな」
「レェナさん、自分の身を守るのを第一に、危なくなったらすぐ王都に向かうんだ。多分、王都の兵は気づいていて、門の外に集結を始めるだろう」
モランディさんとクレフさんが、それぞれ忠告をしてくれる。
「レェナ、ごめんね」
申し訳なさそうに、ユーユが言った。
ユノーナは……どうも、私と来たいようだ。多分だけどよく分かって無い気がする。
「ユノーナ、必ず迎えに行くから、今はクレフさん達と一緒に王都に向かって」
「レェナと一緒じゃいけないの?」
「危ないから」
危ないなら、なぜ私は行くのか。その説明がうまくできない。
でも、どうしても、ここで逃げてはいけない気がしていた。多分、あの街に人がいなさそうなら、みんなと一緒に逃げると思うけど。
この湧き上がる感情は一体何だろう?
「待っててね」
私は、ユノーナの髪を撫でた。
「セイランは、彼らと一緒に王都に向かって」
「おいおい……しょうがないな」
モランディさんが不満そうに文句を言うけど、なんとか押さえて貰う。透明化の魔法も使えるみたいだし、姿を消して王都には入らないという手もあるかも。
「ごめん、みんな。私の我が儘で」
私はそう言って御影さんに乗り、城壁の外の街に向かって、走り出した。




