第23話 内なる声の主
ガキッ。
オーガの棍棒と私の剣がぶつかって、金属の悲鳴のような音がする。
ギリギリと、歯が欠けていくような、そんな嫌な感触。すぐに力を逃がすように一旦払う。そして、再度オーガの武器を、剣で受けようとして力を込めて構えた。
しかし、オーガの持つ棍棒は、スカッと自分の目の前を通り過ぎる。
狼に化身している御影さんとオーガを挟み、戦っているんだけど、どうも様子が変。
攻撃を避けようとしたけど間に合わず、打撃を受けると思ったけど、届かなかったり、さっきのオーガの空振りもそう。
オーガの攻撃が、目に見える範囲より狭いような気がする。
そうしているうちに、御影さんの噛みつきが成功して、強く上半身を引っ張り、オーガが倒れた。
こうなると、起き上がるまで攻撃ができないので一方的に私は剣で切りつけられる。私は思いっきり、剣を叩きつけた。鈍い手応えと共に、剣が血に染まるのが見える。
この感覚はまだ慣れない。
「グアッ————」
オーガは、何か言葉を発したけど、私には聞き取れなかった。あれ?でも、傷の割に出血が少ない気もする。
そしてすぐに、立ち上がってしまった。
また棍棒での攻撃をしてくる、そう思ったとき。
「思ったよりやりますね」
「えっ?」
オーガが流暢な共通語で話し始めた。
「レェナちゃん、そいつから離れろ!」
モランディさんの声が聞こえた。御影さんが、私の近くに戻って来て、二人で距離を取る。
「あなたは、レェナというのですね」
「…………なぜ名前を?」
あ。さっきモランディさんが私の名を呼んだからそれを聞いただけか。間抜けな質問をしてしまった……。
そんな質問を、オーガはさらっとスルーして言う。
「面白いものを見せて貰いました。先ほどの力、興味があります。でも、面倒なので……魔法の矢!」
「魔法!?」
オーガは魔法は使わないとずっと思っていたけど、私の思い違いなのかな。使うなら、ちょっとまずいと思う。魔法が使えないと思っていたから、私は立ち向かったのだよね。
でも……ううん、違う。これは、オーガじゃない! 砦や、さっき人を襲っていたオーガ達と、今、目の前のオーガはその振る舞いが明らかに違うと思う。
オーガの姿が変わっていっている。
さっきから感じていた違和感の正体は、オーガに何者かが、化けていた、ということなのかな。次第に別の姿が見えてくる。
大柄な人? ううん、人とは大きく違うところがある。頭に生えた黒い角、背中に生えた黒い翼、赤いゴツゴツした皮膚。
「私も名乗っておきましょう。フラズといいます。魔の王と呼ぶものもいるようですが」
「魔の王!?」
前に聞いた事がある。言っていたのは、オニのセイランだったっけ。
思いだしているうちに、彼が私を指差し、その指の先に魔法の矢が現れてきていた。
なんて数なんだろう。驚いたけど、妙に冷静に数えてしまう。その数、十本。あんなの全部受けたら、かなりの重傷か、ひょっとしたら命まで落とすような気がする。
必中で鎧なども貫通する魔法の矢に、私は何の対抗策も持っていない。
どうしたらいいの……。
心配する私を余所に、フラズは、私を指した方向からずっと左の見当違いな方法を指差し、魔法の矢を放った。
何もないところに、矢が吸い込まれていって、消える。
すると、どこかで聞いた声が、何もいない所から聞こえた。
「なっ」
「透明化など私には効きませんよ」
「クソッ!」
フラズが勝ち誇ったように言うと、さっき悲鳴を上げた声が移動して、フラズの方向に向かった。
そう思ったら、フラズの目の前に、見覚えのある青みを帯びた肌をした大きな男が現れた。
「セイラン!」
私はつい、彼の名を呼んでしまった。透明化していることに気付かなかった。モランディさんも気付いていなかった? いつからいたのだろう。
無事だったの、と少し安心もしたけど、また追われたり、さらわれる可能性の事を思うと気が重くなる。でも、私も含め、御影さんやユーユ達もあの時とは違うと考えると、そこまで深刻に考えなくてもいいか、とも思う。
「ほう、動きは速いし力もある。さすがオニというわけですか」
フラズは、素早く二回ずつ攻撃をするオニの攻撃を軽々とよけ、余裕そうにしている。オーガのふりをしていたときと、動きがまるで違うように見える。オーガの真似をしていた?
セイランは、お腹の辺りの衣服が破け、血を流していた。さっきの魔法の矢の影響だと思う。
それでも、十本の矢を受けても、あまり影響があるように見えない。
「どうなってる?」
「あ、あれがセイランねえ」
「ユーユ、知ってるのか?」
オーガを倒したんだと思うけど、クレフさんらが集まってきた。でも、目の前の、フラズとセイランの戦いに戸惑ってるみたいだ。
「おや、そろそろ潮時ですかね。レェナ、あなたの顔も見られたしこれで失礼しますよ」
「逃がすか。お前のその声は、頭に響いていた内なる声と同じだ。どういうことだ?」
さも余裕そうにフラズが言い、セイランが聞いている。
「その通り、私の声ですよ。今後も役割を演じていただきます」
「なんだと? 何のために?」
「ふふ、レェナを見つけてくれた事、感謝しますよ。では、ご機嫌よう。瞬間移動!」
そう、フラズは呪文を唱えると、瞬時に彼の姿が消えてしまい、セイランの爪が空を切ったのが見えた。
モランディ「魔法の矢十本って何考えてるんだろう」
ユノーナ 「うん?」
モランディ「魔法の矢は初級呪文。術者に応じて威力が違うけど、一呪文で十本出せるなら、より高等な魔法を使った方が威力が高いはず」
ユノーナ 「なんで魔法の矢だったのかな?」
モランディ「わからん。強い力を持ってるけど、バカなのかも。たくさん出せる俺は強いぞーと威張りたかったとか」
ユノーナ 「ばーかばーか」
クレフ (かわいい)
フラズ 「へっくしっ」




