第22話 王都の外壁
ルセの街を出て、後二週間ほど街道を進むと、王都ヴァラトにつくということだ。
私の父のがいる可能性があるし、会えることに期待が高まっていく。
途中、小さな村や、それなりの大きさの街があるみたいだけど、食料とか補充が必要なときだけ寄って、あとは通り過ぎることになっている。
途中、それなりに長い期間だったので、中間の村に寄ったりして進んでいく。
それと、御影さんが狼になれるということで、もしかしたらできるのかも、と、騎乗の練習もしていた。
「あれが、王都ヴァラトの外壁だよ」
ユーユが、教えてくれる。
ついに、遠くにだけど、街と、その外壁が見えてきた。
カーラ村からずっと下ってきたのだけど、目線より下に王都ヴァラトの外壁とその先に広がる街、そして少し遠いけどお城かな? そんな感じの建物が見えた。
外壁より手前、街道の周囲にも、所々、家が建っていたり、畑が広がっていたりする。
巨大な外壁が、街を包むように広がっているそうだ。
人口はおよそ、二十万。周辺の都市を含めていくと三十万人に到達するということみたい。
人口五十人のカーラ村と、とても比べられない大きさ。ユノーナに出会ったルセの街でも一万人程度だったし。
外壁の手前に、ルセの街よりも小さな街がある。人口は数千人程度と、クレフさんが言った。王都以外から集まってきた人たちが、長い年月をかけて家を建て、街になったということみたい。
その街に外壁はない。
やっと王都の外壁が見えて、旅の一端の終わりが近づいたというのに、何か嫌な予感がした。
それは、杞憂じゃなくて、現実のものになる。
「街道の先で、オーガが人を襲っている!」
ユーユが、目をこらして先を見ると、数匹のオーガが、人を襲っているということだ。
襲われているのは、数人の人間みたい。家族だろうか? 父親らしき人が盾になって、奥さんや娘さんらしき女性を逃がそうとしていると、ユーユが教えてくれる。
騎乗の特訓が生かせるタイミングが来た、と私は思い、御影さんに視線を送った。
彼も察したのか、うなずいてくれる。
「ユーユ、馬車を止めて。私たちが先行する!」
「分かった。後から行く。気を付けて!」
馬車が一旦止まったので、すぐ下りて、御影さんが狼に化身する。
私は装備を調えると、剣を構えて白い大きな狼の背中に飛び乗った。最初の時より、少し大きくなっている。
ユーユ達は、後からきっとやってきてくれると思う。オーガ達が街道から外れていたら、そのままヴァラトまで駆け抜けていたかもしれないけど。
ユーユ達が来てくれるまでの間、時間稼ぎを私はするつもりでいた。何もしなければ、あの家族の誰かが、殺されてしまいそう。
私たちは全力でその家族の元に走った。
私がたどり着いたときは、家族全員が四匹のオーガに包囲されていた。父親らしき人は、既にオーガ達が持つ鈍器で殴られていたみたいで、かなり負傷しているように見える。
なんとか立っているものの、もう動けそうにないかもしれない。
カァン。
金属のぶつかる音。ボスらしき、一回り大きいオーガが、最後の一撃を加えようとしているところに、ギリギリ間に合って、その鈍器を剣で受け、弾く。
手が痺れるような重い衝撃が伝わってきた。うまく力を逸らせたみたいで、オーガが驚いている。
覚悟していたのか、目を瞑っていた父親らしき男性が目を開けた。この状況を見て驚いているみたい。その後ろの女性二人も同じような表情をして、口から声を漏らす。
「おお……?」
御影さんと私は、スピードを落としきれず、その場を一旦通り過ぎてしまった。すぐさま方向を変え、私たちはオーガと、驚いている男性の間に割り込んだ。
「オマエは——」
そのオーガが言葉を発する。黒目ではないみたい。私は、御影さんから下りると、問答無用で距離を詰め、斬りかかった。
以前、砦でオーガと剣を交えた事がある。その時は、その力の強さに吹き飛ばされたけど、今なら、ちゃんと動きを見て躱せそうな気がしていた。
「御影さん、がんばろう」
私の言葉で、私と御影さんが淡い光に包まれる。
突然の乱入者に驚いたオーガだけど、自分の攻撃を弾いた力と淡い光に警戒をしているみたい。
「この力は——」
やった、考えてくれればくれるほど、時間を稼げる。私は、助けた人たちから、大げさに剣を振りながら、オーガの注意を引きつけて移動した。その四匹を、あの家族から引き剥がすように。
オーガは、結局殆ど考えないまま、私に襲いかかってくる。そのタイミングで、ユーユ達の馬車が近づいてきた。
やった! 間に合った。みんなで攻撃すれば——。
そう思ったが、考えがとても甘かった事に気がつく。
このオーガ達は、たった数匹で、外壁の近くに姿を見せたのか。
最初はいいだろうが、すぐ狩られてしまうのが目に見えている。そんな単純な事が分からないほど、彼らは愚かなのか。
目の良いユーユが最初に気付いた。
「何……あれ……」
私たちは、今は少し盛り上がっている丘の上にいて、少し差遠くまで見通せる。かなり遠くだけど、黒い霧のような塊が、地平線の先から迫ってきていた。
おびただしいほどのオーガ……少なくとも百匹以上はいそうな、そんな塊が、歩いて移動してきている。
幸い、歩く速さはそれほど早くなさそう。
まだ遠いところにいるし、今できる事をやろう。
私たちは、目の前の敵を協力して倒すことにした。状況を把握しようと私は周りを見渡した。
ユノーナが、モランディさんの近くにいる。一緒に戦おうとしているみたいだ。
モランディさんが、何か小瓶のようなものをオーガの一匹に投げ、前見た光景と同じように、ガシャンという音と共に瓶が割れ、液体が飛び散った。
「あそこに、炎の矢を、放って!」
「うん!」
さっき小瓶をぶつけたオーガをユノーナが指差した。そして、呪文を唱える。
「炎の矢!」
まっすぐ伸ばした指の先に、火に包まれた矢が四つ出現したと思ったら、まっすぐオーガに向かっていき、一匹に命中した。矢が深く突き刺さって、オーガに傷を付ける。さらに、さっき浴びた液体がぼうっと音を立てて燃え上がった。
オーガは、あっという間に火だるまになっている。
「おお、すげぇぇえっ」
モランディさんが歓喜の声を上げている。ものすごい、いい笑顔をしている。そんなに嬉しいのかな?
「ぐぉぉぉぉ」
火だるまになったオーガが、のたうち回っている。まともに戦える状況じゃなさそうだ。
ユーユは、少し距離を置いて、一匹のオーガに弓矢をひたすら放っている。うまく位置を調整して、決して味方に当てないように注意深く射ている……と思う。その割には、随分速いペースで射ているように見えた。
その為、オーガはユーユに近づけていない。
クレフさんは一対一で、オーガと戦っているようだ。その一匹だけ、さっきの家族の方に近づいていたみたい。
そして残るは、他の三匹のリーダーっぽいオーガだ。
他のみんなは苦戦を感じさせなかったけど、今の私は、このリーダーのオーガに対してどの程度通用するのだろう?
隣に御影さんがいる。少し怖いけど、不思議と気持ちが高ぶるのを感じつつ、二人でオーガへの距離を詰めていった。




