第21話 討伐隊の報告
特に何事も無く、時間が過ぎれば良かったんだけど。討伐隊の帰りが予想より遅くなっていた。
モランディさんのように、待っている他の冒険者達に聞いたんだけど、心配するほどのことはない、よくあることだ、と言われてしまう。
もう一日待っていて、それでも帰還や連絡が無い場合は、斥候を出すみたい。
問題のモランディさんは、夜になっても帰ってこなかった。何やってるんだか……。
私たちはお風呂の施設に行くのはやめて、体を拭く程度で体を清めた。
こういう宿屋には、生活魔法の炎をコントロールする魔法、そのまま炎が使える人を雇ったり、来て貰ったりして、お湯を沸かしてもらえる。
私は、桶にいっぱいのお湯を貰って、部屋まで運んだ。
「ちょ、これ一人で持ってきたの?」
そんなに苦ではなかったんだけど御影さんには驚かれてしまった。彼には、食堂ででも時間を潰して貰うとして、まずは私とユノーナが体を拭くことにする。
お風呂でも見たけど、ユノーナの白い肌はきめ細かくて、すごく滑らかだった。
今回は、ユノーナにも私の体を拭いて貰った。こういうの、なんかいいな。ちょっとくすぐったかったけど。
相変わらず、痣が気になるようで、ユノーナが、ひたすら指でつついていた。
お互いが吹き終わり、ちょうど二人とも、服を着終わったタイミングで、モランディさんが部屋に入ってくる。ノックもせずに。
「あの、ノックくらいしてくださいね」
「……残念。でもいい匂いだな」
おだてに乗らないようにして、食堂に御影さんがいるので、呼んできてもらうことにした。
ちょうどタイミングが良かったようで、御影さんとモランディさんが、割とすぐやってきた。
「じゃあ、私たちは下にいるから、二人仲良く体を拭いておいてね」
「俺は、今日はいいよ」
モランディさんが逃げようとしていたので、止める。
「ダメ、清潔にしなきゃ」
「じゃあ、先に御影さんで」
「ダメです。お湯が冷めちゃうし、一緒にしてください」
「レェナちゃん敬語になると怖いよね」
しぶしぶ部屋に入るモランディさんを見送って、ドアを閉めた。
めんどくさがりか、何か知らないけど、あとはきっと御影さんがなんとかしてくれる。多分。
私はユノーナと二人で、食堂で甘いお菓子を食べて時間を潰すことにする。
この食堂に、食事に来たりくつろいだりする人たちとも、顔見知りになっていた。
どういうわけか知らないけど、飲み物をご馳走してくれたり、時には、遊ばないかと声をかけてくる人を撃退してくれる。
とても、居心地がいい。
さて、もうそろそろいいだろうと時間が経ってから、部屋に戻ると、半裸の二人がまだ体を拭いていた。
「ノックくらいしてくれませんかねぇ」
モランディさんが皮肉っぽく言う。
幸い、二人とも下を履いていたので、大丈夫だった。何が、って感じだけど。
「ごめんなさい!」
私は、急いで即退出した。
それにしても、二人とも結構鍛えられてるような体をしていたと思う。私とは明らかに違う。自分は、どうして腕が太くならないのだろう。
結局、心配した討伐隊は、翌日の朝、帰ってきた。
怪我人が何人か出てしまったということだけど、クレフさんも、ユーユも無事でよかった。
「アンデッドが出て大変だったのお」
ユーユに会うと、そう泣きついてきた。
「アンデッド?」
「うん。一回死んだ生き物を、魔法で復活させたやつ。オークのアンデッドは死体だけだったけど、ゴブリンのアンデッドが大量にいた。それに、何より大変だったのは、トロールのアンデッドだったよお」
私が、というか御影さんの狼が最後、噛みついて倒したオークは、死体だったと。
あれは、アンデッドというんだ。
ということは、私たちの元に来たとき、既にアンデッドだったということなんだ。あいつが、もしまあ活動していたら、倒したと思っても、また起き上ががって余計な損害を出したのかもしれない。
きっちり、トドメを刺せていてよかった。
でも、あれがアンデッドだと知っていたのなら、衛兵さんに聞かれたときに、もっとうまく伝えられたのにな。
怪我人がそのせいで、出たとしたら……私のせいだ。私は、本当に、何も知らないんだと、恥ずかしく思う。
魔法のことも、オニののことも、トロールも。何も知らない。
「知らなかったことは、仕方ないよお」
ユーユがそう言って、私の髪を撫でながら、慰めてくれる。
それでも、私は、色々教えてもらって、勉強して。いろんな面で強くならないと、と思う。
オニはいなかったそうだ。
また、アンデットを生み出すような、道具や魔法を使う者もいなかったみたい。
結局、セイランも、あの杖を持つゴブリンも、倒されず恐らくは逃げてしまったのだと思う。
砦の中は、比較的綺麗であり、しばらくはこの街から衛兵さんが何人かで見回り、今後も管理するということのようだ。
ほったらかしにいて、まものが住み着いても行けない、という判断みたい。
王国側も、兵士の訓練所にしたいと考えているみたい。
この国の多くの街の衛兵さんは、国が管理する正規兵でもある。
以前は貴族がいて、地方でも彼らが管理する兵士もいたのだけど、今では貴族も全て廃止され、税金を納める代わりに、正規兵を衛兵として配備されるようにして、治安を守っているらしい。
この辺りの仕組みも、知らなかった。ひょっとしたら、土曜学校で習ったのかもしれないけど、興味がなかったため、忘れてしまったのかもしれない。
他にも、忘れてることがあるんじゃないか。だんだん心配になってきた。
知識というのは、大切だと身にしみて分かった。
少しづつ、できる範囲で学んでいけたらいいな、と思った。
その後、一泊し、私たちは、商人さん達と一緒に、このルセの街を後にした。
討伐隊 報告メモ(抜粋)
砦は、ルセの街北西十ケイロの距離に存在。
その入り口と思われる所にて、ゴブリンゾンビ10匹、トロルゾンビ1匹と遭遇。
アンデット系に対する準備をしていなかったため、負傷者が出るも、撃退に成功。
やはりしぶとく、倒したように見えても、もう一度立ち上がる例が多数あった。
砦内部は、何者かが住んでいたようで、荒れておらず家具などが置いてある部屋が存在した。
内部でゴブリンゾンビ7匹と遭遇し、これも撃退に成功。
死体は、復活を懸念し、一箇所に集め焼却処分とした。
なお、事前の聞き取りを行った少女が存在を示唆したモンスターは、全てゾンビ化していたようである。
以下は推測となる。
いつ頃からモンスターがここに住み着いていたかは不明だが、家具などから察すると、ここ数ヶ月など比較的最近ではないかと思われる。
ゴブリンやトロル、ゾンビなどではない、ある程度知能が高い者が居住していた可能性がある。
ゾンビ達は、比較的新しい防具や武器を所持していた。この砦に住んでいたが、何らかの理由で死に至り、おそらく住人によってアンデッド化されたと推測される。
今後、そのような者たちの拠点にされないためにも、完全なる破壊か、監視を含めた見張りを置くなど、
何らかの対応が必要である。
ルセの衛兵団では単独対応が難しいため、王国衛兵団本部に報告し、対応を協議する必要があると考える。




