第20話 仲間の尾行
二人は、手を繋いで人通りの少ない方向に向かって歩いて行く。
私たちは、少し距離を置きながら、彼らの歩く方向についていった。
余り近づけないから、彼らの声を聞くことができない。
いったい何を話してるんだろう。
「何話してるんだろうね?」
「随分親しそうだけど」
「……」
ユノーナは分かってるのか分からないのか、何も言わなかった。
「ねえ、やめない?」
「もう少し……」
なんとなく悪いことをしているような気分になってきたので、私は御影さんに言うけど、もう少し続けたいみたい。
やがて二人は狭い路地に入っていき、姿を見失ってしまった。
道は一本道だったから、脇道に逸れたわけではなさそう。
「道が狭いし、俺だけ様子を見てくるよ」
そう言って、御影さんはユノーナを私に預けて、一人奥の方に進んでいった。
「ユノーナ、ああいう大人ってどう思う?」
「?」
彼女にはよく分からないみたいだ。
しばらくして、御影さんが帰ってきた。なんだか悩んでいるような顔をしている。
「どうだった?」
「うーん、二人ともいたけど……」
なんだか歯切れが悪いというか……様子がおかしい気がする。
「どういうこと?」
「気になるなら、見てきたらいいよ。うーん、いいのかな?」
すっごく気になることを言うので、これは見に行くしかないと思って、ユノーナを預け一人で見に行く。
狭い路地を二回曲がり、その先を覗いてみると。
「…………んっ」
モランディさんと、女の人が抱き合っていた。
そして、顔と顔を近づけ、キスしている。
「!!」
彼の片手は女性の腰に、もう片手は、背中から上着の中に入っているように見えた。見間違いかもしれないけど。
いったい何をしているのか。ってなんとなく分かる。
リーサはあまりこういう話をしなかったけど、もう少し歳上の女友達から聞いたことがあった。
私は、心臓の鼓動が早くなるのと、顔が赤くなるのを感じて、その場を後にした。
「見たみたいだね」
「…………」
御影さん達の元に戻ると話しかけてきた。だけど、私は返事をしないまま、ユノーナの手を引いて、大通りの方に向かって歩いた。
「その、レェナさん、ごめん」
「どうして謝るの?」
「なんか怒ってるみたいだから」
「怒ってはないけど……」
慌てた御影さんが、走って追いついてきて、謝る。
どんな顔をして御影さんと話したらいいのか分からない。それだけなんだ。
他の男の人、例えばクレフさんとかなら平気な顔をして、びっくりした、と話せそうな気がするのに。
でも、ちょっと意地悪されたような気も少ししたの。
そのまま気まずい感じのまま、食堂に入ることになった。
適当な席を見つけて、三人で座わり、注文をする。終始無言の私たちに、ユノーナは不思議そうな視線を向けた。
周りでの会話は、奴隷商の話題で持ちきりだ。
こんなに大騒ぎになるなんて。
「レェナさん、気付いてる? みんな、奴隷商の話をしている」
「うん。ユノーナ達の討伐隊の話をしている人なんていないね。今日帰ってくるはずなのに」
私がそう言うと、御影さんの顔が少し明るくなった。
「それだけ、街の人には衝撃だったってことだ。子供がさらわれていたというのも大きいかもしれない」
「そうだよね。あの子達、大丈夫かな」
少し心配になってくる。無事保護されたとは聞こえた気がするけど、その後無事に親御さんの元に返ることができたのか。
「無事に、帰ったらしいぜ」
不意に、モランディさんの声がしたと思ったら、テーブルの真横に立っていた。
「わっ」
私は驚いて、声が出てしまった。
何事もなかったように、平然としている。それに、どうしてここに? という疑問も生まれる。
「モランディさん、どうしてここに? 部屋で寝ていたんじゃ?」
「いやね、さっき、なんか見られてる気がしてね」
そう言うと、彼は御影さんの方を見た。御影さんは、視線を躱すようにそっぽを向いて、不自然に口笛を吹き出す。
いや、それ心当たりがありますって言っているようなものじゃない。そう思ったら、とてもおかしくなって、笑ってしまった。
「ふふふ、あはは」
「お、いい笑顔だ」
モランディさんが私を茶化して言ったけど、不思議と嫌な気分には、ならなかった。
その後、モランディさんも一緒のテーブルに座り、話をする。
さらわれた子達、私たちが見た二人は、無事親御さんの元に返されたみたいだ。
奴隷商と、ハーデアリー商会は何も関係がなく、どちらかというと、商会の仕業にしようとしていたみたい。
捕まっていた商人さんは、怪我の回復中とのこと。命には別状ないけど、精神的にかなり参っているみたい。
建物の中で亡くなっていた二人は、奴隷商内の内紛として衛兵さん達は処理しているとのこと。
すごい。短時間で、いろんな話を仕入れてくるモランディさん。さっきの女の人が、治安維持をしている衛兵さん達のトップと関係あるとかないとかということだけど。
あれ……彼は、精神を操る魔法を多く使っていたと思うけど、もしかしてそれを使ったんじゃ。
「ねえ、その情報って、もしかして魔法で……」
「俺はいつも正々堂々とやるから、そんな姑息なことはしない」
ホントかな。さすがに、私には使わないと思うけど、用心した方がいいのかも。
「仲間には使わないようにな」
「へぇ、そんな怖い顔するんだ」
御影さんが注意するのを、モランディさんが茶化した。この人、悪い人じゃないとは思うけど、どこまで本音で話しているのか、分からないことがある。
それに、昨日魔術師と戦ったけど、魔法の怖さが身にしみて分かった。
直接的な攻撃魔法の方がまだマシなんだろうか。特に最後に受けた、何でも相手の言葉を信じて従ってしまう魔法。あれにそのまま、囚われて命令されていたら、御影さんやモランディさん、ひょっとしたらユノーナまで攻撃していたのかもしれない。
私は、そのことを思い出してぶるっと震え、自分の身を抱きしめた。
「そういえば、ユノーナを魔術ギルドに連れて行ったんだっけ?」
「あ、うんそうだけど」
「どんな魔法が使えるか分かった?」
「うん、とりあえずは炎の矢と識別の呪文が使えるみたい」
「なっ。なっ。炎の矢だって??」
「うん。そうだけど、どうしたの?」
炎の矢ってそんなに驚くほどの魔法かな?
モランディさんは、目をギラギラさせてユノーナを見ている。怖い。
「ね、ほんとにどうしたの?」
「はっ」
モランディさんは、ふと我に返ったように私を見て、微妙にひきつった笑顔を見せた。
「……じゃあ、皆さん、ごきげんよう」
え? また一人で行動するの? そう言うと、モランディさんは、ひょうひょうと逃げるように、私たちの前を去って行った。
また、どこかの女性にさっきみたいなことをするんだ。私は、そう勝手に想像すると、生暖かい目で彼を見送った。
「ユノーナ、あの人に気を付けてね」
「うん!」
ああ、屈託のない笑顔に素直なところ。なんて可愛いの。
私たちは、昼食を終えると、後はゆっくりしようということで、宿でゆっくりしようということになった。
この街に入る前日からバタバタしてたし、たまにはゆっくりするのもいいかもしれない。
私たちは、そのまま宿まで戻り、それぞれ思い思いに過ごすことにした。




