第19話 魔術ギルド
「こんにちは」
私たちは、なんだか毒々しい、黒を基調とした壁に、「魔術ギルド」という看板がついている建物の中に入った。ここまで来るのに、何人かに道を聞いて。
そこには、入り口のすぐあとにテーブルがあり、その先に受付のおじいさんが座っていて、それ以外は……誰もいなかった。
「やあ、いらっしゃい。君は不思議な【色】をしているね」
「色、ですか?」
おじいさんは、私を見てそう言った。色というのはどういうことだろう?
「そもそも魔術師じゃ無さそうだね。神官? ……いや違うようじゃが」
「私じゃなく、この子のことで相談があるんです」
私は、ユノーナの手を引き、彼女をおじいさんに見せた。
「ほう! これは、これは……」
「あの?」
「おっと、すごいのが来たと思ったけど、経験も浅そうだし気のせいじゃな」
私は、ユノーナがどんな魔法を使えるのか聞いてみる。
「そうじゃな、この子は、魔法の素質を持っているようじゃな。その種類は、占術じゃ。未来を見たり遠い先を見たりする魔術に優れておる」
「未来、ですか」
未来を見られたらどんなにすごいことだろう。本当に未来が見られるのなら、あの時こうすれば良かった、という後悔をしなくても済むのかな。
「既に炎の矢の魔法を覚えていたようじゃな。占術では無いが、珍しいわけでもない。これはサービスじゃ。後で呪文書に書き写しておくといいだろう」
「ありがとうございます」
「あと、占術関係なら、今ある中では識別の呪文を覚えるのがいいだろう。これも占術の魔法じゃよ」
結局、識別の魔法は、魔法の巻物を買うことになっちゃったけど、炎の矢の魔法を、おまけしてくれたのはよかった。攻撃魔法があるのは心強い。
でも、これを使うと炎が周りに燃え移ることがあるから、気を付けないとね。特に、室内では。
「これでいい?」
「うん」
とりあえずユノーナはこれでいいかな。
次に私の力とか聞いてみようかな。
「そういえば、君ら知ってるか? なんと奴隷商人がこの街にいたらしいぞ?」
「え、そうなんですか!」
突然のおじいさんの発言に、御影さんが反応する。何か、口調が棒読みっぽいけど。
「街の外れの建物に、誘拐した子供がいたそうじゃ」
「そんな、ひどい」
私も御影さんを真似して、調子を合わせてみた。
「うむ。酷い話じゃ。時々、子供がいなくなることがあったのは確かじゃが、まさか組織的に誘拐していたとは」
「それで、どうなったんです?」
「火事が原因で発覚したみたいなもんじゃが、建物は半焼だが、うーむ」
おじいさんは私やユノーナを見た。私たちがいると、話しにくい内容——きっと、亡くなった人がいるということだと思う。火事ではなく、誰か人の手によって。
「ともかく、その組織はもうだめじゃろう」
「そうなんですね。じゃあ、もう安全なんでしょうか?」
「うむ。他にもそういう組織がある可能性もあるが、子供など人がいなくなるような事件がなくなれば、もう大丈夫だと言っていいじゃろ」
「よかった」
とりあえず、私たちのことも出てきてなさそうだし、大丈夫そう。私たちは、おじいさんが思っているのと違う意味で、胸をなで下ろした。
「私って、魔術師的にはどうなんでしょう?」
「そうじゃな……」
私は、自分のことも知りたくて、おじいさんに聞いてみた。
「よくわからんね。そのぶら下げてるペンダント、それがどうも漏れる魔力を抑えているようだけど」
「これが?」
ユノーナから貰ったペンダント。これが、魔力を抑えている?
私は、試しにそのペンダントを外してみる。
「やはり、神官職に似た魔力を感じるが、すまん、それ以上は分からんね。ただ、胸の少し上、そこから立ち上がるオーラが見えるようじゃ」
「オーラ?」
「わし並みに経験を積めば、おぬしらも見えるようになるじゃろ。魔法の流れじゃ」
「隠した方が良いのでしょうか?」
「そうじゃな、それがいいじゃろ。余計なトラブルを生まぬためにも。さっきのペンダント、身につけておくといいじゃろう。オーラも、ペンダントもどちらも初めて見る物じゃが」
あの痣、オニのセイランが言っていたこと。なんとなく、分かってきたけど、そうなるとこのペンダントを、何故ユノーナが持っていたのか、やっぱり疑問になる。
話せるようになったことだし、また後で聞いてみよう。
「じゃあ、この人はどうでしょう?」
私は御影さんをおじいさんの前に連れて行った。
「これまた不思議な感じじゃな。自然……精霊の力……エルフ——」
「エルフ?」
どきっとする。ユノーナがエルフだとは気付かれてないと思うし、なぜ御影さんがエルフと関係があるのだろう?
「いや、すまん、これまた分からんね。最も、魔術師や妖術師など以外はハッキリ分からないことが多いから、珍しいわけじゃない」
「そうなんですね」
「ああ、じゃが君ら三人には、何か縁のようなものを感じるな。かといって、家族でもないんじゃろう?」
このおじいさん、結構鋭いというか。長く生きて魔法を極めていくと、こういうことも分かっていくのかな。
色々詮索される前に、去った方が良いかもしれない。
「ありがとう、大変に参考になりました」
「そうかい、そうかい」
御影さんがお礼を言うと、おじいさんはすごく嬉しそうに笑った。
「ところで、ここにカーラ村の出身者が来たことありますか?」
「カーラ村……ああ、あるぞ。名前は忘れたが、娘に凧オヤジと呼ばれてるとか言ってたな」
「凧オヤジ!!」
父はここを訪れていたんだ。
「おや、もしかして君がその娘なのかい?」
「そうです。父がどこに向かったのか分かりますか?」
「王都ヴァラトじゃよ」
「やっぱり」
「殆どは商人経由で魔法の巻物を手に入れていたんだけど、時々カーラ村の村人が直接届けてくることがあったんじゃが、その男はここで商売をした後、戻らずそのまま王都に行くと言っておった」
「ありがとうございます! すごく参考になりました」
「なんのなんの」
私たちは、この魔術ギルドを立ち去った。幾つか分かったことも、そして分からないことも増えたけど、来て良かったと思う。
ぐぅぅぅ。
安心すると、お腹が減るみたい。私のお腹が大きく鳴った。
「ねぇ、レェナぁ、今の何?」
「あ……」
「じゃあ、そろそろどこかで食事でもしようか」
御影さんの提案で、食事をすることになる。
しかし。
「あれ……?」
私は、少し前の通路を、見覚えのある後ろ姿が歩いて行くのを見た。
「あれ、モランディさんじゃない?」
「あ、そうだね。宿屋で寝てたんじゃ……」
御影さんが、同意してくれた。ユノーナも、うん、と同意してくれる。
その、見覚えのある後ろ姿の男の人は、誰か知らない女の人と一緒に歩いている。とても楽しそうに二人とも話していた。いったい誰だろう?
「ついていってみようか」
「う、うん……」
御影さんが、なにか悪巧みのような顔をして聞いてきた。私も興味があって、同意する。ユノーナは御影さんがおんぶして行くことになった。
こんな時に、透明化があれば便利だよね。でも街中だし、無闇に使うのはいけないのかもしれない。
私たちは、気付かれないように注意しながら、モランディさんの後をつけていった。




