第16話 冷たい瞳
様子を見てから、とは言われた。けど、私と御影さんは同じタイミングで、互いに繋いだ手を強く握りしめた。行こう、と伝え合うように。
相手の意思を確認して、私たちは躊躇せず、すぐにモランディさんの後に続いた。
二人とも同時に部屋に入る。
そこには、黒いフードを着た男の人が二人いて、モランディさんの侵入に驚いている。部屋の奥の方、ソファーの上に、ユノーナがいた。両手を後ろ手に縛られ、眠っているみたいだ。
怪我も無さそうで、表情も落ち着いている。顔色も悪くないし、大丈夫みたい。よかった。今すぐ助けてあげたいと思う。
私も少し前にさらわれたわけだし、その心細さについて、身をもって知っている。
「やあ、こんばんは。警報の呪文は解除させていただきましたよ、クソが」
二人の男のうち、一人のフードは何やら装飾が多く、指にも指輪をいくつかはめられている。
モランディさんは、馬鹿にするような口調で彼らに告げた。もしかして煽ってる?
「何だお前は、魔術師……いや、妖術師か? たった一人で……何をしに来た?」
「ほう、よく分かったな。一人で十分」
おお、ちょっとカッコいい。女性に見える姿に妙に似合っている。
「フン、バカめ。返り討ちにしてくれるわ」
男たちは立ち上がり、一人は短剣を、もう一人は厚い本のようなものを取り出し、戦闘態勢に入った。
私は、姿が見えない今のうちだと思い、短剣を構えた男の人の近くに駆けていき、切りつけた。その瞬間、透明化が解け、自分の姿が見えるようになる。
「なっ!」
驚いた顔をした彼の声が部屋に響いた瞬間、私が振り下ろした剣は、相手の肩の辺りに命中した。十分な手応えがあった。私は剣をすぐに持ち上げ、後ろに下がって距離をとる。
男はそのまま倒れてしまった。多分、気を失ったのだと思う。
「二人目がいたとは……」
派手なフードの男は冷静に感想を言った。そして、さっと後ろに下がり、ユノーナの元に近づく。
「あっ!」
しまった。私はつい焦って叫んでしまった。人質にするつもりなのだろう。私が駆け寄ろうとするが、多分間に合わない。
その男が、ユノーナの胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたのが見えた。でも、それが彼女に触れることは無かった。
「なに?」
男が驚いて後ろに下がる。そして一瞬震えたと思ったら、座り込んでしまったみたいだ。
「ぐっ……」
御影さんが見えるようになった。人質にしようとした男の足に、短剣を突き刺したみたい。彼はすぐ引き抜くと、鞘にすぐ収めた。
彼が武器で誰かを攻撃するのを、初めて見たような気がする。顔を見ると、少しの躊躇もない、冷たい瞳をしていた。それを見て私は背筋がぞわっとするのを感じる。
「ぐ……三人目? 透明化の呪文を同時に三人に使った?」
「いやいや、そんな力はねぇよ。魔法の巻物だ」
「ふん、やはりそうか」
あれ? モランディさんそんなの持ってたっけ。どこかに隠していたのかな。
男は懐から液体の入った小瓶を取り出すと、全部飲み干すのが見える。
御影さんがユノーナを腕に抱いている。よかった。
「このまま逃げたら……」
「裏口に回った連中と挟み撃ちにされるぞ」
モランディさんに速攻で否定された。うー。
「そっか、みんな、頑張って倒そう」
全員姿が見えるようになってしまったし、激励する意味で私はつぶやく。
すると、私と御影さん、モランディさんと、さらにはユノーナの体が薄らと光を帯びた。
「これは……」
モランディさんが驚いている。
「ふん、詠唱がなかったが何か支援の魔法か? 人間束縛!」
突然派手なフードの男は、呪文を唱えた。これは、相手を麻痺させる呪文だ。
魔法の力に抵抗するけど、失敗して魔力の影響が現れてきて、体が動かない。手足の感覚が無くなっていく。そのまま、立っていた格好のまま、横に倒れしまった。
感覚が無いおかげで、衝撃の割に痛みがない。
「うぅぅぅ」
「レェナ!」
御影さんが叫ぶ。
「ちくしょう——」
なんとモランディさんも抵抗できなかったみたいだ。うずくまっている。これは、ちょっとまずいかもしれない。
モランディさんなら、この光の力と自らの力で、抵抗できそうな気がするけど……運みたいな所もあるのかな。
「ははは! 形勢逆転だな」
派手なフードの男は、近づくと私の髪をひっぱり、起こそうとするが、無理なのを察したのか、私の胸の辺りに手を回し、抱き寄せるように引き起こされた。
嫌だ、触れられたくない。
「ほう、なかなか上玉じゃないか」
男は、そう言いながら、いつの間にか取り出した短剣の切っ先を私の首筋に当てた。
「おい、そこのお前、この娘を傷つけたくなかったらその武器を捨て、エルフを寄越すんだ」
「だ……め……」
せっかく助けられそうなのに、この脅しに屈して欲しくない。麻痺が解けつつあるのに、精一杯伝えようと口を動かすけど、かすかにしか声が出なかった。
それを聞いて、男は短剣を持つ手を持ち上げた。柄で殴るつもり? けど、その手は振り下ろされることはなかった。
「傷付けるのは惜しいな。痛みも感じないか。さあ、どうするね?」
男は御影さんにそう言った。麻痺が解けつつあるのに気付いていないみたい。
御影さんは、私に視線を合わせてきた。私は、その目を見つめ返す。そして軽く、まるで私から了承を得たようにうなずくと、ユノーナをソファに寝かせた。
私は瞬間的に彼の考え方を理解した。魔法で繋がってるわけでもないのに、直感で。
突っ込んで来て、男に体当たりするつもりだ。
「早く武器を捨てろ」
男は御影さんが、脅しに屈したのだと思い、嫌な笑みを浮かべる。
何度か行っていた抵抗で、私は麻痺を解くことができていた。男の短剣によって動きを封じられているけど、隙ができればすぐに離れようと思う。
御影さんが狙いを定めたようで、こちらに向かって走り出すのが見えた。




