第6話 化身
白い狼がこちらに向かってくる。すると、白い狼はオーガのほうへと走っていき、オーガに飛びかかった。首筋に噛みつかれたオーガは「ガアアアアアア!」と声を上げ、倒れた。
また立ち上がるかもしれないと、様子を見ていたけど、動く様子はない。しかし、まだ狼がいる。ゆっくりと近く狼に対して、私は再び剣を構えた。でも襲ってくる様子は全くない。
「くぅーん……」
まるで甘えるかのような声に、私はひとまず剣を収めた、
「もしかして、助けてくれたの?」
そう聞くと、白い狼が大きく、うなずいた。そして一瞬、躊躇したのち、すぐに私の手を舐め始める。くすぐったい。こうしてみると、犬とあまり変わらない感じ。それにしても、この狼はいったい? 今まで見てきた狼とは全く雰囲気が違う。
でもこの瞳の感じ、見たことがあるような気がする。
「レェナ!」
聞き覚えのある女性の声が聞こえた。声の方を見ると、ユーユ、クレフさん、モランディさんの三人が森の中から出てきたのが見えた。
「みんな……!」
とても嬉しくて、涙がこぼれそうになるのを感じる。私は、いてもたってもいられず、彼女らの方向に走り始める。後ろにはさっきの狼がついてきている。
「レェナ無事だったんだ!良かったぁー」
私に抱きつきたそうなユーユをクレフさんが引き留めて言う。
「とりあえず、ここを早く離れましょう。敵が仲間割れをしている今のうちに!」
クレフさんが見た先では、セイランがトロールと戦っていた。
「でも、セイランが……それにゴブリンのみんなをこのままにしておけない!」
「いったい何を……何を言っているの?」
ユーユが私の手を引く。私は、その力に抵抗した。
「だから……みんなを……」
ゴブリンたちは野ざらしのままだし、セイランは今も必死に戦っている。私だけこの場を離れるなんて……。
すると、私はふわっと甘い香りと柔らかものに包まれた。私はユーユにぎゅっと抱きしめられていた。
「レェナ……ここにいてはいけないの。あいつらは、あなたを誘拐して……ひどいことをしたの」
「そんなことない!」
ユーユが私を抱いた腕に力を込めた。涙が出てくる。彼らを……見捨てるなんて……。
「レェナ、言うことを聞いて。ここにいてはダメ」
「イヤだ……いやだ……」
バシッ。
頬の痛み。ユーユの手のひら。私の思考が止まった。
「……ごめんレェナ……クレフ、お願い」
ユーユが瞳に涙を溜めていた。
クレフさんが、私の手を強く引っ張る。私は彼に引きずられるようにして森の中に入った。私は涙が止まらない。
夜の森を歩く。1時間ほど歩いたところに、冒険者と馬車を待たせていると説明を受ける。
元は人が住んでいた砦だっただけに、道が整えられて歩きやすい。ユーユが持っていたほのかなランタンの明かりを見て、緊張しぱなっしだった心が徐々に解けていく。
「ごめんね……みんな、危険なのに助けに来てくれて……私が間違ってた」
「ううん……ウチこそ。痛かったでしょう?」
ユーユが私の頬に手を伸ばした。彼女の気持ちが温かい。
みんなの先頭を狼が歩いている。地面の匂いを嗅ぎながら、方向を決めているように見えた。なぜみんなは、知らぬ狼を信頼しているのだろう?
「ねえ、あの白い狼ってどうしたの?」
「あー、あのワンちゃん可愛いよねぇ。みっちゃんっていうの」
「ワンちゃん……みっちゃん……そういえば御影さんは?」
ユーユが突然ニヤニヤと笑いだす。
「あれ御影さんだよぉ。狼になったのお」
「はいーー?」
信じられないと言い続ける私に、ユーユが色々説明してくれた。
オニに私がさらわれた後、御影さんに何らかの職階級ーー自分の体を自然の動物に変える化身の力ーーの力が発動したということだ。
「レェナがさらわれた後、御影さんがとにかく必死でねぇ。焦れて一人で探しに行きそうだったから、なんとか落ち着けるために縛ったのお。そうしたら、狼になっちゃったのぉ」
化身になると、その動物の能力が使えるみたいで、匂いで私を追うことが出来たらしい。匂いと聞いて、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「でもね、狼になったっきり、戻らないのお」
「えっ?」
「私たちの言葉は伝わるけど、言葉を喋らないから苦労したよお」
まさか一生狼の姿ってことはないよね……。先頭の狼を見ると、視線に気付いたのか、こちらに振り返った。私は、笑って手を振ってみたら、尻尾の振り幅が少しだけ大きくなったのが分かった。
御影は、「化身:狼」の能力を獲得していた。




