第5話 増援
「ワアアアア!!」
突如歓声が上がった。黒目のゴブリン達が、相手を圧倒していく。敵のゴブリンたちは、戦意を失い、散り散りに逃げていく。
私が傷を癒やしたゴブリンが、私に振り向き言った。
「貴方の声で心が震エ、守られるようナ、力を感じましタ」
「うん!」
早くセイランの加勢に向かわないと。そう思った矢先、苦しそうに倒れている黒目のゴブリンを発見した。
「あなた、血が……」
腕に腹に背と、体の至る所が傷だらけだ。急いで患部に手を当てる。すると触れた部分が僅かに光って傷がふさがった。しかし、立ち上がるほど元気になることはなく、息も絶え絶えだ。
「もう少しだから! しっかりして!」
「十分助かっタ。感謝すル。前を向いテ……」
私が泣きそうな顔をしていたのか、気遣う言葉をかけてくれた。
「大丈夫だから! 治してあげるから!」
私は彼の黒い目を見て微笑む。すると彼は、少しだけ口角を上げて言った。
「命をかけテ、お守りし……ま…………ス……」
そう言い残して、ゴブリンの腕が力なく垂れた。瞳が眠るように閉じていった。
涙が私の頬を伝う。目の前で、命が失われた。彼を救えなかった。何もできなかった。悔しさが胸の内から込み上げる。
なんということだ……笑うゴブリンなんて、初めて見た。
「それは置いて行ク。立ち上がっテ」
別のゴブリンが私の手を引く。その表情は苦しそうに歪んでいた。もしかして、彼らにも人間と同じように感情があるんじゃ——
「ぐあああああ!」
低い唸り声が聞こえて、声の方をみると、セイランが肩口のあたりに傷を負っている。
オーガが月明かりに照らされる。肌の色がさっきと違い黒くなっている……!? トロールも異様だった。側面に落ちていたトロールの腕が、背後からセイランを襲っている。
加勢しようとした私たちに気付いたのか、杖を持った敵のゴブリンが私を指す。するとオーガがこちらに向かって、歩いてくる! 目はうつろで、どこを見ているのか分からない。その様子はまるで操られているかのようにも見える。
私を守るようにゴブリン達が隊列を組んだ。
迫ってきたオーガは、ゴブリン目がけて無造作に、持っている棍棒を振り下ろす。ゴブリン達がかわし、棍棒が地面に打ち付けられると、どしん、と地面が揺れた。
すごい力だ。
ゴブリンたちが持っていた剣やナイフで次々と切りつけていく。厚い皮膚に阻まれ、致命傷になることはないが、確実にダメージを与えているはずだ。だが、オーガは傷に対して全く無頓着で、痛がる様子もない。
守られるだけではいけないと、私も前に出た。
「下がっていてくださイ」
「ううん、私も戦う」
オーガに近づくと、なんだか少し嫌な匂いがした。血の臭いと混じった鼻が曲がるような不快な匂い。吐きそうになるのをぐっと我慢して、縦横無尽に切りつける。だが、オーガがこちらに攻撃を向けてくる様子は一切ない。
次第にゴブリンが倒され、ついに残り二人となった。そのうち一匹のゴブリンが捨て身の攻撃で、オーガの腹に深く剣を突き立てた。
「お守りしまス」
先ほど私が傷を癒やしたゴブリンが、身を乗り出す。突き立てられた剣のダメージが相当だったのか、オーガはついに、倒れた。
「はぁー。終わったー」
勇敢に剣を突き立てたゴブリンが、倒れたオーガの上に乗り、腹から剣を引き抜く。血は流れないけど、剣は黒く濡れていた。
その矢先、オーガがびくりと動いたのが見えた。「危ない!」ゴブリンに向かって、声を張り上げる。ゴブリンが振り返り剣を向けた瞬間、頭上に棍棒が振り落とされた。
「そんな……」
信じられない……。突然の出来事に言葉を失う。だって、オーガはさっき確実に仕留めたはず。
オーガは、立ち上がり、こちらに走ってくる。逃げようとしても歩幅が大きいオーガが有利だ。あと少しの距離に迫ったところで、容赦なく棍棒が振り払われる。ゴブリンが盾になってくれたのだけど、かばいきれず二人とも吹き飛ばされてしまった。
横を見ると、棍棒の打撃を受けたゴブリンが、倒れていた。体を揺らしても、全く反応がない。
出会って間もないし、親しいわけでもないのに、鼻の奥が痺れてきた。涙をぬぐい、なんとか立ち上がり剣を構える。
剣を持つ手が、震えていた。
でも、身を挺して守ってくれた彼に報いたい。その気持ちが私を奮い立たせる。
「ワオオオーン!!!」
突然、獣の鳴き声が聞こえたと思うと、森の中から一匹の狼が現れた。カーラ村で襲ってきた狼によく似ていた。四肢は逞しく、真っ白な毛並みが美しい。
不意にその狼と目が合った。憂いを含んだ、強い意志を感じる瞳。
オーガと狼、二匹相手にどう立ち回る……。私は必死に考えを巡らせていた。




