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僕は、その日も暇を持て余していた。理由は、入院をしているから。僕の診断をした先生から、後一ヶ月入院しなさいと言われた。最初は、体の何処にも異常が無いから、不満で不満で仕方なかった。
でも、病気が原因ではなく、飛鳥井父から僕を保護するためだと後日知る。
「ふわーぁ……」
あまりにも長い病院生活のため、僕はついにニート病にかかってしまったのだ。詳しい病気の内容は、何をやっていても眠い状態が続き、起きてられない状態だ。つい最近、お父様が本を買ってきてくれた。
実は、その本を読み漁っていたものの、いつもなら全て読み切るまで決して眠くなることはない。
だがしかし、現在は読み始めて5分。すぐ眠くなった。そのおかげで、お父様が持ってきた本は、全て白兎が読み漁ってる。ヤギじゃないから、食べる問題はない。
「眠そうだねー、少し体でも動かせば?」
「うーん、そうだね。うさんぽでも行くかい?」
「あのさ、どう見ても僕人間だけど?」
その時だった。カランカランという甲高い金属音がしたと思えば、僕の部屋の奥では、看護婦さんが驚いた顔で、手に持っていた器具を落としている。
「ほら、君が変なこと言うから」
「いや、普通そうじゃないよね!? なんか、皆つい最近可笑しいんじゃない!?」
そうそう。この白兎、看護婦さんたちが気を利かせて、彼の好きな野菜をたっぷり増量させたんだ。そうしたら、ブツブツ文句を言い出すのさ。今時の兎は、専用フードじゃないと文句を言うらしい。困ったもんだね。
「でも、散歩かぁ。僕も病院内の散歩には飽きちゃったよー。ちょっと、遠出したいなぁ」
「動物園が恋しいかい?」
「動物園に知り合いなんて居ないよ!!」
「あぁ、ごめん。ペットショップ育ちだったのか」
「なんで、そういう方向にいくかなぁ!?」
そろそろ、この兎を弄るのにも飽きてきた。入院し始めて、やく一ヶ月立ってる。毎日毎日、白兎と他愛もない会話をする。そして、夕方になったら毎日蓮や悠斗様、そして如月が遊びに来るんだ。
実のところ、この病院と聖羅学園は近い距離にあるらしい。だから、お見舞いついでに遊びに来てくれるんだ。
あぁ、それと、実は馬鹿凛は、遠い所へ行ってしまった。飛鳥井父が馬鹿凛ぞっこんラブで、馬鹿凛が関わると人が変わるらしい。
そのせいで、入院して一週間後くらいに、「凛をどうか、九州へ行かせないために、口添え頼む!!」って飛鳥井父から土下座された。もちろん、きちんとあのことについても謝ってもらったし、子供に対して大人気無い対応をしたことも反省してる様子だった。
でも、馬鹿凛の悪口を言った僕も悪い、と必ず付け加えてくるんだ。全く、飛鳥井父は何も反省してない。飛鳥井家のお祖父様で、ヤクザの頭がこのことを聞き、大いに怒った。
というのも、実はヤクザを継いでいるのは、千鳥家らしい。なんと、この白兎の兄は時期若頭として期待されてるとか。その父親も幹部として信頼されていた。そう、この白兎と馬鹿凛、蓮、悠斗様は親戚なんだって。それを知って、何が原因で虐められるのかって理解した。
しかも、白兎のほうが立場が上らしく、僕を殴ったことが白兎にバレて、飛鳥井本家の怒りを買ったとか。
「パパもさ、早くあんな奴海に沈めちゃえばいいのに」
「いやいや、一応おじさんでしょ?」
「おじさん、もう一人居るし、別に減っても問題はないよ?」
あまつさえ、この発言。最初は気が付かなかったものの、家族関連の話しになると、平然とこんなことを言う。そりゃ、虐められるわけだ。
「元々さー、凛は嫌いだったし、正直凛もまとめて処分してもらって構わないんだけど。お金に変えちゃったほうが、後々楽だと思うよ?」
彼のお金に変える、というのは売り飛ばすって意味だろうね。どうして、何処に行っても友達ができなくて、病院でも友達が居ないのか。この原因は自分自身だと気づかせたほうがいいのかなぁ?
「薫くん。あんまり、そんな危なっかしい発言辞めたほうがいいよ」
「なんで?」
「それが原因で、友達できないんじゃない?」
現実を叩きつけると、白兎は驚いた顔で僕を見つめる。ぽかーんと口は開き、非常にマヌケな顔だ。こんな奴が、ヤクザ関係者でどっぷりその沼に浸かってるだなんて、思いもしないだろう。
「普通なら、危ないと思って手を出さないけど、次第に何もしてこないのをいいことに、色々虐めが始まったんじゃないかな?」
「そ、そうだったのかぁ……。でもさ、僕、どうしたらいいかわかんなくて」
そうそう、この白兎、結構根暗。愛想笑いとか一切しないし、一匹狼タイプらしき、本を渡せばずっと本を読んでる。しかも、運動系は一切苦手。趣味はインドアなことばかり。僕と二人で喋ってるけど、如月が混ざれば、全然会話についてこれなくなるんだ。
まぁ、白兎を怖がってる蓮や悠斗様は、白兎がいるとすぐ帰っちゃうけど。あまり、仲はよろしくないと見た。
「まぁ、君、お世辞にも明るいとは言えないしなぁ。フォローできる点がないんだよ」
「明るくしようと思って、笑ったりしてるんだよ?」
まぁ、頑張ってるのは認めるよ。見た目はいいんだけど、どうも根が張ったオタク臭さが拭えない。それに、会話も結構受け身で、話す内容も特につまらない身の上話。いい子なんだけど、結構好かれるタイプじゃないねぇ。
そのせいで、他の患者さんとかに愛想笑いしてる白兎を見かけるよ。でも、聞こえるように「気持ち悪い笑顔」って言われるんだ。
おかげさまで、この頃の白兎は他人とコミュニケーションを取ろうとしなくなってる。あまり、よくない傾向だなぁ。だって、コミュニケーションがとれない人間は、社会に出ても除け者にされる。
社会っていうのは、ただ真面目に仕事をしとけばいいってものでもない。いくら仕事ができても、場を乱す悪とされ、悪即斬を受けてしまう。
「うーん、他の人と会話しててもつまらなさそうだし、なんかイマイチ盛り上がりに欠けるね」
「ま、まぁ、気持ち悪がられてるっていうのも、会話しててヒシヒシ伝わってくる……」
「そういう相手は、大体苦手だろう? 相手だって、そう思ってるさ」
「そうかなぁ? なら、もう会話しなくていいや」
コミュニケーションっていうのは、難しいものだね。好きな相手とだけ関われたら、飛鳥井父のような悲劇は起きないだろうに。
だって、飛鳥井父って本当は僕のこと嫌ってるでしょ? そうじゃないと、あの発言ありえないよねぇ。餓鬼が偉そうな口聞いてるって、本音がぽろりと出てたしね。
まぁ、中身がおばさんなんだから、しょうがないけどさ。
「いいなぁ、姫香ちゃんは。大体の人と仲良く出来るじゃん」
「そう? 相手がそう感じさせないだけで、嫌われてる場合もあるよ」
「例を上げたら?」
「飛鳥井家のお父様。あの人は、最初から僕のことを嫌いだったんだろうね」
「あー、なんか親の七光の癖に、とか散々言ってたよ」
「やっぱりねぇ」
まぁ、お互い様だと思う。
だって、僕は蓮に対する飛鳥井父の行動はどうも好きになれない。何が理由で、蓮だけ除け者にしてたか知らないけどさ。
「でも、結構ハッキリ言うタイプだから、飛鳥井家のおばさんには好かれてるよ?」
「そうなの?」
「うん。そもそも、飛鳥井のおばさんは、蓮贔屓だから。我儘ばっかり言うから、凛はあまり好きじゃないみたい。飛鳥井のおじさんが暴力振るうから、仕方なく付き合ってただけだよ」
「そもそも、なんで二人は結婚したんだろう?」
「飛鳥井のおじさんが、権力欲しさに」
なんか、飛鳥井家も結構ドロドロしてるんだなぁ。
蓮だって、誕生日に両親が居ないせいで、暴走した。凛だって、誕生日は自分の誕生日だと思い、蓮が誕生日だと思ってない。
それに、飛鳥井のおじさんとおばさんが一緒に居たことはほとんど見ない。何かに理由をつけて、単独で行動してるほうが多い夫婦だ。
だって、烏ケ森夫婦なんて、僕が悠斗様と遊園地に行くことになったら、夫婦そろって行く気でいるし。
それなのに、飛鳥井夫婦はどっちが行くかで揉めてた。結局、飛鳥井夫人が折れたけど、後日談の話だ。
「でもさ、これでようやくお爺ちゃんが飛鳥井のおじさんを要らないって言ってくれたから、飛鳥井のおばさんも離婚できたんだよ?」
「お気に入りだったとか?」
「うん、子供の頃から面倒見てたらしい。そもそも二人は幼なじみなんだって」
飛鳥井夫婦が幼なじみ? 烏ケ森夫婦ならまだしも、結婚しててほとんど一緒に居ない程仲の悪い夫婦が、ねぇ……。
「大体一緒に居るのは、凛が関わることだけ。そんな状況だから、仲は悪かったのに。お爺ちゃんは、いつか仲直りするって言ってたもん」
「それだけ可愛がってたんだろうなぁ」
そうか、可愛がっててくれた人に、今回のことで見捨てられるのか。そう思うと、自然と「ざまぁ」って言葉が出てくるね。だって、本人は全然悪いと思ってないんだし。
「待っててね、後少しでうちのゴタゴタが解消されるから」
「うん、早く終わるといいなぁ」
それから一週間たち、僕は無事に退院出来た。でも、飛鳥井父と出会うことは一切なかった。凛も行方知れずとなったが、何故か凛の親戚は誰も探そうとはしない。
それどころか、急に蓮と悠斗様が仲良くなり、凛なんて最初から居なかったような雰囲気が漂った。




