20
今日は、イーグルアイのお披露目式。凛様は赤、悠斗様は青、凛が黒、僕は白という制服で、ステージの裏舞台でスタンバイしてる。
この日は、彼らがどの親衛隊に属するのか、それとも無所属なのかを決める大切な日だ。
そして、芸能人の子供や、愛川レオンくん目当ての報道機関も大勢詰めかけている。
「む、む、無理だよぉ……」
この前まで、あんなに「俺がリーダーだ!!」って張り切ってたのに、大勢の人を目の前にして、凛様が弱音を吐きだした。足がガクガクと震え、こんなんじゃ、イーグルアイは務まらない。
「っと言っても、もう如月くんに変更することもできないんだぞ?」
そうそう、前日まで、凛様じゃなくて、舞台慣れしてる如月さんに変更しようという動きが、あった。しかも、上層部だ。
ここ数日の、人気の動きを見てたんだろうねぇ。
「だ、だってぇ……」
ぐすぐすと泣き出した凛様。流石に、これはカッコ悪いなぁ。
はぁ、と嫌そうにため息を付くのは、蓮。巻き込まれた側だもんね。
「じゃあ、どうすんだ!! このまま、引いたら面目丸潰れだぞ!?」
イライラ蓮は、噛みつくように叫んだ。ギラギラとしたその瞳は、この前の狼のようなオーラを加味しだしている。
完全に、悠斗様が怯えだした。
これは、やばいぞ。
「はーい、はい。そこまで」
髪型だけ、宝ジェンヌ風に仕立てた僕が、パンパンと手を叩く。もちろん、衣装は男物だ。
「目が赤くなる前に、行くよ。喋れないんなら、後ろに立ってていいから。練習サボった凛様が悪いんだし、何も言わなくていいから」
そうそう。リーダーだー!! って騒ぎながら、練習には何度も来なかった。おかげで、彼の台詞は僕が覚えちゃったよ……。
「う、うぅ……」
「すまないね、姫君……」
「あのさ、師匠。悪いけど、凛様贔屓辞めたら? どう見ても、この腰抜けっぷりは、甘やかしたことが原因だと思うなぁ」
「そ、そんなつもりはないんだけどなぁ……」
その様子を見て、蓮は「フンッ」と得意げに微笑んだ。まぁ、蓮はなんだかんだ言いつつ、真面目に練習してたもんね。悠斗様だって、上手くが出来るかな、なんてワクワクしながら練習してたんだ。逃げてた君が、全て悪いよ。
「練習しなくても、一人でやれば大丈夫って、言ってたよな?」
「だってぇ、だってぇ……」
仁王立ちし、見下すように笑う蓮。もしかすると、凛はここでドロップアウトしたから、ゲームに出られなかったのかな?
「凛様、僕が手本見せるから、今回は後ろでじっとしてて」
まぁ、僕の立ち振舞が男でも通用するか、なんてそんなのわかんないけどね!!
「ひ、姫ちゃん……」
情けない顔の凛様が僕を見上げてくる。今現在、凛様は駄々こね中のため、体育座りをしてたんだ。
「ほら、凛。行くぞー? 時間は待ってくれないんだから!」
親友の悠斗様に引っ張られ、渋々立ち上がる凛様。そして、僕らは前に進んで歩き出す。
最初に出て行くのは、蓮。そして、僕。次に、悠斗様。最後に、凛様。
僕は、早速王子様スマイルを作る。目の前には、不安そうな顔をした僕の両親が居る。
実はね、僕が男装するなんて、お父様とお母様には一言も言ってないんだ……。
でも、ここまできたから、絶対失敗は出来ないぞ……。
って、台詞忘れた。最初、リーダーの台詞だよね? ぼ、僕が言わないと行けないんだけど……!!
あぁ、もう。てきとーでいいや!!
「皆っ、聖羅学園へようこそっ! 僕は、白桜って言うのさ。よろしくね?」
特技の王子様スマイルを発動させ、大きく手を振れば、お母様とお父様、そして召使い一行と、僕の親戚一同プラス、グランパ、グランマが手を振ってくれる。グランマなんて、席を立って手を振ってるよ!
あ、でも台詞全部忘れたー……。
「――蓮だ。似たような奴は、忘れろ」
咄嗟に、凛様が蓮につかみかかる。それを、必死に悠斗様が抑えて……。いつもの光景が広がってる。
「はぁ!? お前な、何言ってんだ。一応、俺がリーダーだぞ、俺が!!」
「ハッ。どう見ても、白がリーダーにしか見えないけどな?」
「んにゃろーっ!!」
あぁあぁ、こんな時何やってんだか……。
僕は、苦笑しながら二人を眺める。
「あぁ、もう! 二人共何やってんの!!」
「ほら、自己紹介自己紹介」
「あっ、俺、リーダーの凛! カッコイイほうが、凛! よろしくなっ!」
ニカッと元気印な笑顔を見せた。おぉ、結構上手くできたんじゃないかな?
もしかして、蓮ってばこれ狙ったとか? 優しいとこあるじゃん。
「あの、俺。悠斗です。運動はお喋りとか苦手ですけど、頭使うの、得意なんですっ」
えへへ、と言いながら照れたように笑う悠斗様。
で、この後の台詞考えてないんだよ。
「新しく始まる、聖羅学園のパーティーに、皆よく来てくれたねー? 今日から通うお友達も、前から通ってたお友達も、みぃんなで楽しく盛り上がって行こう!!」
おーって感じで手を突き上げれば、会場から「キャーッ」と言う黄色い声援が湧き上がる。なかなか、掴みはいいぞ。
でも、もっと盛り上げないと。
次、何言おう……!? 僕は、頭をフル活動させる。
「今日から一年間、僕らが中心にイベントを盛り上げていくけどー……、皆の助けがないと、全然盛り上がらないから。そんなの、つまんないよね? だから、皆ー、協力よろしくー!」
あぁ、ヤバイ。このままだと、他の人達の台詞無しで終わりそう。
でも、どうやって台詞振れはいいんだろう……?
「それじゃ……、これから、新しい聖羅学園の物語を作って行こうっ。主役はー、君たちだ!!」
パチッとウィンクし、手を会場の方に広げる。咄嗟の行動だった。
そして、頭のなかは真っ白になった。
「皆ー、楽しい学校生活にしようねー!!」
僕は、両手でパタパタと手を振った。さり際がわからなくて、もうこれ以上続けるのは無理だった。
だから、逃げるように、手を振りながら退場。
最初から、用意してた台本はあった。忘れないように、何十回だって読みなおした。
でも、このザマさ……。あぁ、本当にやっていけるんだろうか……?
「おぉ、皆よくやったよ!! 姫君、頑張ってくれたねぇ?」
舞台裏に戻れば、師匠が出迎えてくれる。
師匠ー、貴方のコミュ力ください。アタシ、無理ー。
「あぁぁぁぁぁぁっ、台詞忘れちゃったのっ!! れれれ、蓮っ、どうしよっアタシ、全部すっからかんになって!!」
あぁ、もうどうしよう。どうしよう……。
アタシは、ガクガクと蓮を揺さぶる。あぁ、もう恥ずかしくてどうかなりそうだよぉ……。
「お前はよくやった、あれでよかったよ」
蓮は笑いながら僕の頭を撫でる。
ケラケラと笑いながら、僕が落ち着くまで、蓮はずっと側にいてくれた。
そうして、数分後。自分のメッキが剥がれてることに気づき、またそこで悶絶することになる。あぁ、恥ずかしい……。
「お、終わったー。で、でもさぁ、まだまだあんなことするんだよなー?」
「あぁ、もちろん。今回は、桜の姫君が頑張ってくれたからいいが、次からは自分でやれよー?」
「めんどくさ」
「うわぁ、俺にできるかなぁ……?」
凛様ってば、自分で言い出したことなのに。
そんなことを思いつつも、あえてえ口には出さない。だって、そんなことをしても面倒なことが軽くなるとは思わないしね。
それに、僕は自分の道を再確認させてくれたイーグルアイに感謝してるんだ。
僕は、一年間王子様をやり遂げるよ。
そして、皆に受け入れてもらえなければ、諦める。需要がないなら、続けていても仕方ない。
だから、この一年は僕にとって勝負の一年だ。
「すみません。イーグルアイさん、外にお願いします!!」
テレビ取材の取材できてたスタッフさんたちだ。
僕らは、後戻りできない位置ばできたということだね。どんなに泣いたって、どんなに嫌がったって、一度引き受けたからにはやり遂げないと。
「行こう、一度引き受けたんだから、もう後戻りはできないよ」
「だ、だってよぉ……」
「言い出しっぺは凛様だろう? 自分で言い出したんだから、最後まで責任持ちなよ」
「そうだよ、凛。俺だって、無理やり押し付けられたけど、どうにか頑張ろうって努力してるよ」
「で、でもさぁ……」
あぁ、自分で言い出したのに、ぐずぐず言うのか。何だか、イライラしてくる。何だろう、凛様のことはどうも思ってなかったけど、嫌いだ。
何故、師匠はこんな甘ったれだけ可愛がるんだろう?
「凛様、君のこと見損なったよ。今後、僕の名前を気安く呼ばないでね」
「ひ、姫ちゃん……」
なんで、こんないいとこ取りするヘタレが可愛がられ、努力してる蓮は認められない?蓮は、一人で寂しかったんだ。
だから、あんなに暴走したんだ。僕に向けたあの依存は、僕への依存じゃない。師匠、貴方への依存だよ。貴方は、そのことを自分の意志で知らなくちゃいけない。
それが、親としての仕事だろう?
「姫君、凛はやる時にはやるやつなんだ。許してやってくれ」
「悪いけど、師匠。貴方のことも軽蔑させてもらう。この感じじゃ、許嫁なんて続けられないよ。代わりは、悠斗様っていう立派な代わりがいるんだ。――それ、忘れないでね」
刹那、僕の後ろに強い風が舞う。同時に、壁が壊れる音がした。振り向けば、師匠がコンクリートをぶち壊している。
師匠顔はギラついていて、その顔はヤクザそのもの。彼が、裏社会で生きてきた人間だという証だ。
そして、その顔は、『あの時の』蓮とそっくりだった。
「小娘……、丁重にもてなしときゃぁ、いい気になりやがって……!!」
自分に都合が悪ければ、こうやって怒るのか。師匠だって崇めてたけど、こんな男崇めるだけ無駄だ。浅はかな気持ちだったね。
僕は軽く溜息をつく。僕を殺しそうな目で、彼は僕を睨んでくる。
でも、いいんだ。僕が一声悲鳴を上げれば、テレビの報道陣はかけこんでくる。近くに、両親もいる。
君らヤクザが力でしか語れないのなら、僕もあえて力で語ろう。
「そもそも、何が原因で僕がこんなことしなきゃいけないの? いつ頼んだ?」
それを言うと、飛鳥井父は舌打ちをする。
たぶん、怒鳴れば言うことを聞くと思ったんだろう。
でも、そうはいかないんだ。男は、いつだって怒鳴ったり力でねじ伏せて、女を黙らせる。僕の前世の親父とそっくりじゃないか。
だから、僕は一生恋なんてしない。する気もない。負けたくもない。男なんかに、負けたくない。もっと、もっとかっこよくなりたい。男なんか目じゃないくらい僕はかっこ良くなりたい!!
「俺も、姫香ちゃんの意見に賛成だよ。おじさん、凛が言い出しっぺなのに、練習しないで遊んでばかりなのは怒らないんだ。なのに、なんで姫香ちゃんは怒るの?」
「餓鬼が口出しすんじゃねぇッ!!」
僕は、咄嗟に二人の間に入る。
そして、次の瞬間脳がひっくり返るような強い痛みを受け、僕の意識は途絶えた。




