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 その日、僕はテレビを見終えて部屋に閉じこもっていた。夕飯の時間になったのは知ってるよ。楓も心配してる様子は、雰囲気でわかる。

 でも、なんだか自分がどうしていいかわからずに、膝を抱えて閉じこもっていた。

 部屋の外では、如月さんの怒鳴り声とドアを叩き続ける音が響いてた……。


「だーから、さぁっさと出て来いやぁぁぁぁぁっ!! (タマ)もぎ取んぞオラァァァァッ!!」

「おおお、お嬢様ぁぁぁっ!! お願いです、自分探しはいいですから、早く出てぇぇぇぇぇ!!」


 分からなかった、何も何もかも。先が見えない迷路を進んでいるようだった……。

 キラキラと輝いてる人達が、ここに来る。

 それなら、本当に僕が攻略キャラにならくていいんじゃないか……?

 だって、ゲームの世界とは全然設定が違うんだ。僕は、ただのゲーム脳になってるんじゃないか……?


「お、お、お、お嬢様ぁぁぁぁぁっ、もう無理ですぅぅぅ!!」


 突然、凄い勢い爆音がした。ひょっこりをドアの方を覗きこめば、髪を振り乱し、息を切らせた如月さん。何故か、薙刀を片手に持ち、半泣きの楓が僕の近くで倒れていた。

 ちなみに、ドアは破壊されてる。


「あのさ、何やってんの?」

「お、お嬢様……、それはないですよぉ……」


 目の前には、目が血走った如月さん。

 とりあえず、彼女を宥めようと思う。運がいいことに、僕は寮に帰ってきたから、王子様スタイルに戻ってるしね。


「如月さん、どうかした?」


 ふわり、とハニカムように笑って、見せる。

 すると、ぎろり、と如月さんは僕を見たんだ。ありゃりゃ、効果ないのか。


「さっきのテレビは、何ですの……?」

「あぁ、あれ? お金持ちのお坊ちゃまお嬢様を一本釣りするための、新たな餌だと思うよ?」

「何故、この姫の道を極めし私が、メンバーに入ってないんですの……?」

「だって、そもそも発案者の飛鳥井お父様と知り合い?」


 すると、如月さんの表情が、だんだん元の表情に戻ってくる。

 そして、そそくさと髪を整えれば、いつも通りの如月さんだ。


「――それもそうでしたわ。考えてみれば、私はまだ知られていませんものね」

「うん、そうだよ」

「それで、貴方達二人が選ばれたんですの?」

「ううん、一応悠斗様と凛様もだよ」


 奥のほうでは、げっそりした顔の楓が、ドアの修理にとりかかっていた。

 あれ、自分で修理するんだ……。


「――はぁ、どおりで2名しか写ってないんですのね。あの二人、ぱっとしませんもの」

「まぁ、そう言わないの」


 何故か、如月さんは、僕の部屋のベッドに座る。なんか話し込む気満々だねぇ、君。

 昔から、この子考えたら一直線なところが強かったなぁ。


「悠斗は、秀才だし弱気キャラでなんとかなりますわー」

「まぁ、流石にあの新種ウィルス発見は驚いた」


 そうそう、ナルコレプシーが解消されたら、今まで平凡だった悠斗様の成績が一気に上がって、秀才キャラに大変身したのさ。

 まぁ、女の子に対して苦手な所は、まだ治せてないね。


「蓮のほうは、無口だし時々強いオーラが出るんですの。そのせいか、密かにファンクラブが出来上がってますわ」

「――そっか、学校が始まって一ヶ月立ったもんね」


 そうそう、蓮が凄いんだよ。取り巻きの女の子達も出来上がってるし、正直、僕ら以外の回りにいるメンバーが大変そうだなぁ。

 だって、凛様とは仲悪いから、取り巻きの女の子が引き剥がしにかかるの。

 そのせいで、凛様と悠斗様、僕と蓮って感じで、2組に別れちゃって。僕は、男装してるせいで、特に何も言われないけど……、女の子の如月でさえ、蓮には近寄らせないからね。


「えぇ。それで、貴方は男装麗人として徐々に目立ってきてますわね」

「うーん、そうだと嬉しいなぁ」


 あー、うん。なんか、僕にもお菓子とかくれる女の子が増えて、朝とか学校が終わる時とか、挨拶部隊が出来上がったんだ。

 まぁ、それを仕切ってるのは、如月さんだよ。完全に、自作自演っぽくて嫌なんだけど……。時々、楓も混ざってるし。


「そういう感じで、特に目立たない凛がメンバーに入るのは、非常にまずいですわ」

「でもさ、凛は飛鳥井父のお気に入りなんだ。そもそも、この学校は、彼のために買い取ったものだし……」

「ただの我儘男で幼稚だし、特にこれといった特技もない。彼には、人の上に立って目立つ才能は御座いませんわ」

「――うーん。正直、芸能人の子供も来るんでしょ……?」

「えぇ、そうですわね」

「僕さ、イーグルアイ辞退しようかなって……」


 ずっと、ずっと考えてたんだ。僕が、無理に目立って王子様をやる必要性があるのか。キラキラした芸能人を見てたら、僕じゃ駄目なんじゃないかって。敵わないんじゃないかって、ずっと思ってた。

 たぶん、僕は負けるのが怖いんだ。あの舞台に立ち、盛り上がらなかったらどうしよう。

 そんなこと、今でも考えてるよ。


「何っ、弱気なことを考えてるんですのっ!?」


 乾いた音が、辺りに響く。頬が、ヒリヒリと傷んだ。

 僕は、如月さんに叩かれたんだ。


「あのメンバーで目立てるのはっ、白桜家として社交界慣れした、貴方しか居ないんですのよっ!?」

「そ、それは、そうだけど……。芸能人に、勝てる気なんて……」

「貴方、何が目的でイメージを変えたんですの!?」

「そ、それは……」


 仲間外れなんて、嫌だった。

 でも、本当にそれが原因?


 よくよく考えてみれば、前世から男装したかった。ずっとずっと、カッコイイ男の人に憧れてた。

 宝塚ジェンヌのカッコイイ男役の人を見て、華麗にステージに立つ彼女たちを見て、キラキラと輝いてると思った。

 だから、僕は少しでも近づきたかった。カッコイイ人になるって、どんな気分なんだろう? ネットゲームでネカマして、カッコイイ王子様ってゲーム内ではもてはやされて、そのうち本格的に、王子様になりたくなった。

 それで、男装カフェの面接に行こうとして……。


 ずっとずっと、目の保養として彼女たちから愛されて、「貴方に会えるだけで幸せよ」とゲームの友人に言われ、心が弾んだ。

 ――そう、僕は女の子の王子様になりたいんだ。永遠の、王子様に。普通の男にはない、カッコイイ立ち振舞、台詞。

 女の子だからこそ、甘くとろけるような台詞を吐いても、うっとりと綺麗に見られる。男を越えたい。男以上の王子様になりたい。


 そうだ、そうだ……。働きたかった男装カフェで、キラキラと輝く彼らを見て、仲間になりたかった。楽しそうだった。なりたかった理想が、目の前に広がってたんだ……。


「僕は……、僕は……、男を越えたい……。男を超えた、かっこよさが欲しい……」

「そうですわね。男装麗人には、普通の男性にはない美しさが有りますわ」

「それ、か……」


 よし、決めた。僕は、もう迷わない。負けたっていいんだ。僕は、僕の決めた道を歩もう。


「ありがとう、如月さん」

「気にしないで。私達、親友ですから」

「しん、ゆう……?」

「あら、嫌ですの? 幼なじみとして、物心ついた時から、ずっと側に居ますのよ?」


 そういえば、ずっと如月さんとは喧嘩もしてたけど、なんだかんだ言いつつ一緒に居たなぁ。

 如月さんが、稽古が辛くて逃げ出すと、必ずうちの家に来るんだ。そもそも、家が近いからね。


「そうだったけ、懐かしいなぁ……」

「えぇ、そうですわ!」


 もし、僕が薫ちゃんから嫌われて、三人の友達の座から追われても、ずっと如月さんは側に居てくれるんだろうか……? ずっと、友達のままいられるんだろうか……?


「よく喧嘩もしましたわね。貴方の名前が羨ましくてたまらなかったんですのよ?」

「姫香、か。如月さんは、お姫様に憧れてたもんね」

「えぇ。いつか、カッコイイ私だけの王子様が、溺れる程愛してくださるのを夢見てるんですの」

「――恋?」

「もちろん。駆け落ちしたくなる程の熱い恋がしてみたいですわぁ……」

「そう、かなぁ……?」


 そんなことをした末路が、薫ちゃんから追われるように、恋人を奪われる人生。

 それなら、最初から女の子との擬似恋愛だけ楽しめばいいと思う。

 だって、僕は白桜 姫香。恋をすれば、いつか必ず、奪われる日が来ると思う。


「恋はいいものですわよ……? 愛するだけで、世界が変わるんですの。まだ、したことはありませんがね」

「ふぅん、それなのに、よく良いって言えるよね」

「少女漫画の見すぎかしら……? でも、お姫様扱いされて、狂おしい程愛されるのは悪く無いわ。そこまで、愛せる人が居ると、きっと毎日が楽しいと思うのよ?」

「そうなんだー」


 前世では、恋愛とは程遠かったからなぁ。恋より仕事。ずっと、アイスケーキ職人の夢を追い続けてたから、恋なんて全部捨ててた。

 そもそも、周りの可愛い友人が、男を奪っていくさまを見て、恋愛が怖くなってたし。一生、独身貴族も悪く無いと思ってたなぁ。


「もし、私が恋で苦しんだ時、必ず助けてくださいね?」

「ふふっ、できるだけ、助けるよ」


 そう言って、如月さんと指きりげんまんした。綺麗な細い指の感触が、何故かずっと、僕の中に残ってた。

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