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その日、僕の機嫌はすこぶる悪かった。何が、原因か? って聞かれたら、それはもちろん、凛様の我儘による、新制度導入騒動に巻き込まれたのが原因さ。
だって、いつもと違い、男子用制服の着用は認められず、普通の女の子の格好をしてた。
そのせいか、いつも以上に蓮の機嫌がよくて、少々気持ち悪く感じたのもまた事実。
そうそう、さっきから、ずっと蓮に髪を弄られているんだ。蓮も何かするわけでもなく、ずっと僕の髪を弄ってる。ただ単に、暇なんだろうね。
だって、今現在僕らは見世物になってるんだ。誰だって、機嫌が悪くなるだろう?
「素晴らしいわ!! 白桜家のお嬢様よ!」
新制度を発表する時、凛様、悠斗様、蓮、僕の4人を社交界にお披露目した。
すると、どうだろう。何故か、僕と蓮だけ気に入られ、たの2人は他所でうろちょろと遊びまわってる。
僕ら二人は、お人形のように椅子に座らされ、大人たちに鑑賞され続ける運命だ。これが、後何時間続くかはわからない。
実のところ、聖羅学園の新制度『イーグルアイ』のお披露目らしい。意味は、仕事運、金運の上昇を意味する宝石。将来、社会人として大きな偉業を成し遂げるように、とのことで付けられた名前だ。
そう、聖羅学園に必要とされている分野の象徴である。
この、イーグルアイのメンバーは、現在のところ『学園で人気な生徒』とされている。なので、今年はこの四人だが、来年からきちんと人気投票を行い、イーグルアイのメンバーを決めるとか。
そして、社交界のメンバーのお目当ては、コレじゃない。
それは……、僕らが着ている服だ。聖羅学園のイーグルアイメンバーのみ着用を許される、イーグルアイ専用服。
実はこれ、僕のお母様がデザインした服。男の子の服をデザインしないお母様が、聖羅学園にだけ特別枠でデザインした服だ。
男子は、中世ヨーロッパ貴族のようなゴシック服に、ジャボを消してブレザー要素を入れた物。全体的に黒く、所々青い刺繍がはいっている。ズボンは半ズボン。帽子は、ベレー帽子を風船のように大きく丸くした物。全体的に、青い薔薇やイーグルアイが飾られており、特に帽子にはワンポイントとして飾れている。
女子は、全体的に薄いピンク。所々、白い刺繍が入っている。服は、男子用のズボンをスカートに変え、チュチュで作られた、重ねフリルのミニスカート。靴は、ワンポイントのリボンが可愛らしいシューズか、ヒールの高いブーツの2種類を選べる。帽子も男子と同じだが、薔薇が青ではなく白になっており、イーグルアイが真珠に変わっている。靴下も、可愛らしいニーソックスがついている。
「素敵……、来年、うちの子も是非、聖羅学園へ入れるわ……!!」
「可愛らしくて素敵よ!! 高等部や中等部の衣装もお待ちしておりますわ!」
どうやら、お母様のデザインした服は、大絶賛のようだ。よかったよかった。
「でも、たった4人しか着れないのよね……?」
その瞬間、色めきだっていた場が、急に静かになる。
そうだ、どんなに可愛い衣装でも、我が子が着れなければ意味がない……。
「ですから、特別に親衛隊の制度を設けます。イーグルアイの生徒は、専用のマントを着用することで差別化し、イーグルアイの親衛隊は、この衣装を着用することを義務付けられます」
すると、盛り下がっていた場が一気に盛り上がる。
「親衛隊は、選ばれたお嬢様、お坊ちゃまのみ加入でき、好きな親衛隊に加入することができるのです! 親衛隊の活動内容は、支持するイーグルアイ生徒を助け、イベント事を盛り上げることです」
そう、簡単に言ってしまえば、裕福層の支持を得られるように、アイドルの近くに寄れる権利と可愛い衣装をプレゼントという新制度、それがイーグルアイ。
他にも、裕福層が有利そうな権利『親衛隊専用の御茶会ルーム』等が紹介され、お客様は色めきだっている。
これは、完全に心をつかめたようだ。
しかし、イーグルアイには、月に一度裕福層の親衛隊を持て成す『御茶会』が強制され、おはようからおやすみまで、常日頃親衛隊のお世話を受ける面倒なシステムが存在する。正直、僕はならなくていいや、っていうのが感想だ。
「今年のイーグルアイは、我が息子、蓮と凛、そして友人の悠斗くん、最後に彼らの許嫁の姫香ちゃんに決まっておりますが、来年より二年生以上からイーグルアイの選挙に立候補できます……!!」
「素敵……、今すぐうちの子を聖羅学園へ転校させるわ……!」
「おぉ、私の息子こそ、イーグルアイに相応しい……!! 今すぐ、転校の手続きを!!」
――そういうことか。一度手放してしまった、有力な金持ちを聖羅学園に転校させるのが目的、ね。
そういえば、この前の悠斗様の発表により、聖羅学園の名声は瞬く間に復活した。それと同時に、別なライバル学園に不正や体罰のニュースが大きく報じられ、通っていた裕福層は、皆転校先を考えている途中。
そう、タイミングを見計らって動き出したんだろう。
だからと言って、僕と蓮だけずっと座って相手をするのも、物凄く疲れるよー。僕、ナルコレプシーになったみたいに、眠くなる。こんな状態になって、何時間立ったかわらない。悠斗様や、凛様のほうは、ご婦人の相手をしてるし、色々お菓子を薦められてる。僕らには、『一切』そういうサービスはなく、お人形扱いさ。
全く、師匠は何を考えてるんだ……。
そもそも、このイーグルアイの企画を持ちだしたのは、僕じゃない。凛様だ。
それなら、彼にこの人形役をやらせるべきだと思う。女装でもなんでもさせればいいよ。
「あぁ、こんなことなら、最初から聖羅学園へ通わせればよかったわ……」
「そうですわね、もう寮の定員は締め切り、残りは試験で通らないといけないのでしょう?」
口々に「聖羅学園に行けばよかった」と嘆く人々。
そして、僕や蓮の着ている衣装を見て、「是非我が子にも」と口を揃えるのだ。
僕は、退屈すぎてため息が出た。蓮のほうは、せっせと僕の髪を三つ編みにするので忙しそう。
こんな状態は、まだまだ続き、開放されたのは夕方になってからだった。
その日の夕方、寮のリビングで、皆とテレビを見ていた時だった。
『電撃ニュース!! あの、有名小学生アイドル愛川レオン、堂々のイーグルアイ宣言!!』
「へっ?」
中央のソファーを、僕、蓮、如月さんの3人で占領しながら見ていた時だった。『イーグルアイ宣言』という言葉と共に、僕と蓮の写真が映しだされる。ニコニコと営業スマイルを続ける僕と、クールを気取ってる蓮の写真だ。
『聖羅学園に、新制度が誕生するそうです。何やら、学園内で人気の生徒を4人集め、イーグルアイという学園アイドルを作るそうで……』
テレビ番組らしく、愛川レオンという少年がインタビューしている映像を映しながら、アナウンサーがコメントしていく。
『他にも、芸能人の子供が続々と入学を公表しておりまして……』
僕が知ってた聖羅学園は、ただのお金持ち学校だ。学園内にアイドルが居るだけで、堂々と学園アイドルを作ることもなかった。それに、芸能人の子供が集まってくることもなかった……。
『来年、小学校では珍しい芸能コースも作る予定らしく……』
この学園が、大きく変わろうとしていた。
それは、ただの学園生活ではない、想像ができないほど異次元な学園生活なんだろう。
この番組を見て、僕は改めて自分の目標を再確認した。王子様として有名になって、薫ちゃんの攻略キャラになり、ハブられる運命を回避することだ。
でも、このテレビを見て、本当にそれが必要なのか……?
だって、そんなことをしなくても、カッコイイ男の子や可愛い女の子はいくらでも入学してくるんだ。もしかすると、薫ちゃんも別な人を好きになり、僕はハブられ続ける運命も無くなるかもしれない。
続々と流れてくる、芸能人の入学ニュース聞きながら、僕はずっと考え続けていた。
本当に、僕はこの世界で何がしたいの?
どんな自分になりたいの……?
次回、如月さんとぐっと距離を縮めますん。




