別行動 Side.澪
真都が考えていた通り、澪はずっと他の子供たちとそこにいた。
当の澪は遊ぶことに夢中で、真都が広場からいなくなったことに気づいていなかった。
周りの子供たちは、みんな澪と同じくらいか、それより少し大きい。
初めて会う子たちばかりだったけれど、澪は全く緊張していなかった。
「お名前なんて言うん?」
女の子が澪の両手を取って、上下にぶんぶんと振りながら話しかけてきた。
女の子の赤茶色の髪が陽に照らされてつやつやと光っている。
やわらかな日差しのような雰囲気をもった子だ。
「澪だよ!あなたのお名前は?」
「うちは朱奏!なぁ、澪ってここの子じゃないよな?どこから来たん?」
「どこから……?なんていえばいいのかわからないや。お兄ちゃんならわかるかもしれないけど」
真都を呼ぼうとあたりを見回す。
しかい、視線の先には誰もいない。真都と一緒にいたはずの悠の姿もそこにはなかった。
そこで初めて、澪は真都がいないことに気づいた。
「あれ……。お兄ちゃん、どこか行っちゃった」
途端に心細くなる。涙で視界がぼやけてきた。
澪は両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
「どうしたん?!泣かんでええやんか」
朱奏が澪をぎゅっと抱きしめて、頭をなでる。
年齢はあまり離れていないはずなのに、朱奏はまるでお姉さんのようで、澪はもっと真都が恋しくなった。
「澪はお兄ちゃんのこと好きなんやな」
「……うん。いつもずっと一緒にいてくれるの」
「いつも一緒か。それはええな」
朱奏がにっこりと笑って言った。
澪を立ち上がらせて、涙を自分の袖で拭う。
「大丈夫、うちらがおるよ」
朱奏はそう言って笑った。
周りの子供たちも「そうそう」と頷く。
澪は少しだけ安心した。
きっと真都は何かの用事でどこかに行っているだけで、すぐに澪の元に戻ってくるはずだ。
真都が澪を残してどこかに行ってしまうなんて、今までそんなこと一度もなかったのだから。
みんなにこにこと笑っている。
だから、そんなに心配しなくていいのかもしれないと思った。
「よかった。澪、笑ったな」
朱奏はそう言うと、澪の膝についた砂を払う。
ついでにほどけかけていた靴の紐を結びなおしてくれた。
そしてそのまま澪の耳に口を寄せてささやいた。
「せや、澪。うちらの秘密基地来る?」
「秘密基地?」
つられて澪も小さな声で聞き返す。
「お兄ちゃんが来るまでおったらええやん。ここより楽しいで」
澪は秘密基地と言う言葉についうなずきそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。
「でも、お兄ちゃん、そこわかるかなぁ?」
「お兄ちゃん、見つけたら、連れて行って、あげる」
それまで周りの子たちが澪を取り囲んでも我関せずに、一人で砂で遊んでいた女の子が初めて声を発した。
「ほんとに?」
「うん」
女の子は澪をちらりともせずにひたすら砂を触りながら応えた。
澪はぱっと顔を明るくする。
「あなた優しいのね!お名前聞いてもいい?」
「環」
「環ちゃんね!わたしは澪だよ」
「知ってる」
環は一切視線を手元から離さずに答えた。
「ごめんなぁ、澪。環いっつも遊ぶのに夢中で、怒ったりしてるわけじゃないねん。嫌わんといたってな」
「嫌いになんてならないよ!環ちゃん優しいもん!朱奏ちゃんも優しい!」
「澪はええ子やねぇ」
朱奏は少しだけ目を細めた。
やっぱり澪もこのままここで子供として生きてた方がええね。
そう呟いた朱奏の声は澪には届かなかった。




