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朝貢

 夏鉄が十五歳になった初冬。盤古大陸全土が騒がしくなった。戦争ではなく、朝貢貿易である。大陸の外側に位置する四つの国々が七年に一度、海から得た大量の塩を紅帝国に献上するのだ。紅帝国からも大量の米と美術品を下賜する。


 前回、夏鉄はまだ八歳だったのでこの大きな行事に参加しなかった。姉の月竹が参加した宦官から話をせがんでそれを興奮気味に夏鉄に語っていたのを覚えている。母親の宋加蘭も緊張気味にこの朝貢の意義を語っていた。


 海から離れている紅帝国にとって塩はなかなか手に入らない貴重な資源である。塩がなければ人間は身体に異常をきたして生きていられない。また、塩は保存食を作るのにも欠かせない上に殺菌作用もある。


 海沿いの周辺国四ヵ国もまた、紅帝国の豊富な米と高度な工芸品を欲していた。それと同時に紅帝国との朝貢は外交の要であり、自国内での権威を高める効果もある。四ヵ国が共謀して塩を遮断すれば、一億人ほどいる帝国の人々がどっと難民として押し寄せるか武器を取って攻撃を仕掛けてくる。四ヵ国合わせても紅帝国の人口の一割ほどしかいないので、塩の停止は国家の滅亡、もしくは大陸が崩壊する可能性が出てくる。


 また、四ヵ国は山岳地帯なので水田稲作には適していない。米食に強い憧れを持っている。


 四ヵ国は数日後には首都に到着する。盤古大陸のほぼ中心部である。各国から巨大な河川が東西南北から流れており、何十、何百隻もの船団が大量の塩と特産品を運んでくる。首都に到着する途中に紅帝国の役人の誘導に従って役所に塩が置かれていく。塩は帝国が管理して値段を慎重に決めて庶民達に売っていく。官吏の俸禄の一部にもなる。


 夏鉄は緊張した。腹の底が重い時が続く。集まって来た異国の者達の前で皇子として兄達と一緒に舞をしなければならない。塩を受け取ったという意味の儀式だ。皇太子として政務をこなしている長兄、結婚して地方に下った三人の兄、まだ未婚の末の兄と何度も練習をしているが、兄達から叱責される。少しでも失敗すれば怒鳴られたり胸を蹴られたり厳しい。長兄は怒れる他の兄達を宥めて仲裁しては再開させる。


 何年も呉蒼岩の元で身体を鍛えて武術の練習をしてきたので怪我らしい怪我はしなかったが、兄達の狼藉で心は痛んだ。実母の加蘭に泣き言を言っても、加蘭は困った顔をして溜息を吐く。まだ母親に甘える息子を頼りないと感じているようだ。


 夏鉄は母親の手伝いをしたかった。後宮の歴史編纂を任されている加蘭は大量の竹簡と紙を扱う。ある程度は腕力がついた夏鉄はそれを運んだり整理したりして母親を助けている。宦官達は気まずそうに割って入って夏鉄に手伝わせないようにしている。夏鉄には武芸を更に鍛えて欲しいようだ。


 姉の月竹は夏鉄を尻目に悔しがった。皇族でしかも十九歳で科挙の五段に合格したのにもかかわらず、女というだけで朝貢の儀式に全く参加できない。無論、政策の話し合いも全くの蚊帳の外。嫌そうにしている夏鉄に愚痴を言いながら叱る。


 色々不安は有ったが、夏鉄は何とか舞を成功させた。父帝は涼しい顔をして短く誉めた。

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