頑張る不器用な姉弟
夏鉄は十歳になる。相変わらず母親に甘えようとするが、宦官達は叱咤激励して宮殿近くの演習場まで連れて行き、武官達に引き合わせた。護身術や武芸の稽古をするのだ。
夏鉄は見るからに不服そうな顔をしている。担当官になった呉蒼岩は無表情で拱手した。柔術・剣術・弓術を仕込む前に基礎体力をつけなければならない。蒼岩は掌で夏鉄を誘導しながら早足で演習場の内側を一周させた。演習場は広く、朝から歩いて昼前まで元の地点に到着した。途中で丘や沢や谷や林が有り、歩きづらい。蒼岩は夏鉄の体力を推し量りながら速度を微調整する。転んだり滑ったりしないか何度も盗み見る。春だが夏鉄は汗を流している。
昼食を摂りながら休む。蒼岩は内心、心配になった。まだまだ子どもではあるが歩くだけで夏鉄は疲れている。男子にしては華奢だ。やや病弱な皇太子である旬鉄は十歳の時でも疲労を隠そうとしていた。蒼岩は旬鉄を直接教育したわけではないが、旬鉄の我慢強さは有名だ。
昼食後、腹が落ち着くと蒼岩は夏鉄に色んな動きをさせた。絨毯の上に座らせて足を思い切り広げさせたり上半身を倒して床に付けようとさせたりした。夏鉄は痛がり文句を言う。蒼岩は休ませながら同じ事をやらせる。その後、夏鉄を立たせると腰や腕を前後左右にじっくりゆっくり伸ばしたり曲げたりするように仕向ける。これも夏鉄は顔をしかめて嫌がりながらやった。
蒼岩は夏鉄を毎日鍛えさせたかったが、勉学や儀礼の練習もしなければならないので、二日に一度、みっちり仕込むことにした。夏鉄は不貞腐れたが、宦官達は了承して毎回、蒼岩の所に連れて行く事に決めた。
不貞腐れていたのは夏鉄だけではなく、姉の月竹も同じだった。十四歳になる月竹は、去年の科挙で三段を取得した。しかし、側室や女官達はその実績よりも身だしなみや音楽の演奏について指摘する。女にとっての教養は文官が必要とする勉学ではなく美学や芸術だ。月竹は髪型や服装や化粧について側室達に注意される。皆、怒鳴りも暴力も振るわない。公主である月竹を心配した。音楽や詩歌についても雅やかで麗しい旋律や響きを求めた。政治的で理屈っぽい月竹の演奏や作品は批判された。
宦官達から教わり、科挙を三段まで突破したのに、後宮の女達は誉めない。宦官達も苦笑いしながら月竹を宥める。風紀や芸術を求める後宮の女達の心理は宦官達も十分に理解出来る。
科挙は十二段階有って三年に一度、行われる。最高峰の十二段目に合格できれば皇帝に次ぐ宰相にもなれる。男子は家柄関係なく誰でも受験でき、実力に従って評価される。しかし女子はどんなに聡明でも七段目以上を目指せないことになっている。また、女子に積極的に科挙を受けさせる庶民の家柄は限られている。限られた財力と労働力を男子に優先させるからだ。
夏鉄も去年、科挙を受けて初段に合格していたので、姉である月竹に対抗心を燃やしている。武術の鍛錬をするより、知識や知力で勝負をしたかった。
二人の母親である宋加蘭は皇族にしては偏屈な二人を見比べながら、歴史を編纂していく。宦官達は母子に対して苦笑い。




