縁談
翌日。何藹鐘は藩金花に孫正琴の部屋に案内させた。正琴は金花の兄嫁で身重だ。金花も正琴も悪阻で藹鐘の相手は出来ないと断ろうとしたが、藹鐘は部屋の隅で絵を描きたがった。正琴が体調不良を起こしたら藹鐘の供の者が世話する使用人達の手伝いをすることにした。
藹鐘の父親である英芝は、
「どこまで迷惑をかければ気が済むのだ」
と、叱った。しかし金花の母親である藩秋蓮は使用人達に正琴を支えながら藹鐘の相手をするように命じた。夫の賀夏鉄と一緒に英芝を宥めて庭で談笑することになった。
英芝は元々、母親に命じられて藹鐘の見合いをしながら夏鉄の見舞いをする為に藩一家の所へ来た。罪悪感を覚える。英芝の母親は皇帝の妹で英芝自身も名門貴族の当主だが、夏鉄もまた皇帝の末弟であり秋蓮は帝国一番の豪商だ。縁談は破談同然な上に全然見舞いになっていない。
一方、秋蓮と夏鉄は涼しい顔をしている。特に夏鉄は実母を亡くして床に伏せっていたのに今では元気だ。秋蓮は茶と菓子だけではなく紙と筆記用具を使用人に用意させている。英芝は心中を詠んだ。
絵を描くばかりの無礼な息子の藹鐘を非難し、藩一家へ謝罪。秋蓮と夏鉄の噂通りの二人の人徳を称賛。正琴の安産祈願。英芝は三句ほど作詩した。
秋蓮と夏鉄は驚嘆した。英芝は書いた詩を声に出す。内容も筆跡も声も美しい。名門貴族の誇りを感じる。
英芝は藹鐘が更に問題を起こすのではないかと内心ヒヤヒヤしたが、秋蓮と夏鉄は楽しそうに英芝に質問したり金花を案じたりする。金花は家事も家業もこなす自慢の娘だが、芸術に詳しくない。二人はそれを心配している。英芝はむしろ藹鐘が金花の夫にふさわしくない甲斐性無しだと感じている。
夏鉄はにこやかに、
「では、当人達が了承すれば縁談は成立ということにしよう」
と、提案した。英芝は期待せずに同意した。母親からは破談しても良いので夏鉄を励ますように命じられている。金花に拒まれたら藹鐘も目が覚めるだろう。
昼下がりに藹鐘と金花は庭に来た。秋蓮は、
「藹鐘様。金花をお気に召しましたでしょうか」
藹鐘はじっと秋蓮を見つめたまま、黙っている。英芝は藹鐘を睨んで何か言いかけるとその前に夏鉄が、
「金花。藹鐘がお前を気に入れば、お支えする覚悟は有るか」
金花は一度藹鐘に振り向き、微笑みながら、
「ええ。藹鐘様がお嫌でなければお支えしたいのです」
英芝は息を飲んだ。金花がこの縁談にこだわる理由は無い。金花に尽くすような若い男達から縁談の申し込みが沢山有るはずだ。
藹鐘は無表情で金花に振り向き、
「俺は全然不満は無い」
秋蓮は満面の笑みで、
「では婚約は成立ですね、英芝様」
英芝は動揺を隠せず、
「金花には苦行ですぞ、叔父上、秋蓮殿」
「英芝様。私には光栄極まる縁談でございます」
金花がハッキリと言った。釈然としないが金花が本気で言っているのだと英芝は分かった。




