気遣い
何英芝とその息子の藹鐘は藩一家に盛大に迎えられた。親族や使用人の他に秋蓮の仕事仲間達や嫁の孫正琴の実家の者達や同業者達や地元の官吏達が父子を一目見ようと集まっていた。皆、しっかり整列して拱手しながら頭を下げている。町では掃除がなされているようで、道端にゴミやガラクタが落ちていない。川岸も手入れされている。船から降りて藩一家の家に到着した父子は内心驚いた。
秋蓮の夫で英芝の叔父でもある賀夏鉄が慇懃に迎えた。一家の主であるはずの秋蓮も控えめに恭しくしている。他の者達も後ろや脇でそれに倣っている。邸宅の敷地内も掃除がなされている。父子の供の者達は周りを見渡している。英芝は笑顔で夏鉄に、
「お初にお目にかかります、叔父上。我々に気を遣わなくてもけっこうでございます」
「では英芝殿、藹鐘殿、こちらへ」
夏鉄と秋蓮が奥の食堂へ案内する。英芝は苦笑いして、
「叔父上。我々を呼び捨てにして下さい」
英芝は夏鉄よりも六歳歳下だ。英芝の母親である玉葉は長女でも現皇帝の妹でもある。末弟の夏鉄はへりくだっているがどことなく気品がある。無駄な音を出さないし、口調はハッキリして威厳がある。その妻である秋蓮は三歩下がって夫を立てているが、顔つきや歩き方はいかにも健康的である。
夏鉄に誘導されて何父子は着席した。秋蓮は夏鉄の隣に座る。英芝は、
「叔父上が元気そうで何よりです」
「わざわざ来てくれてありがとう」
夏鉄が答えた。茶が運ばれてくる。周りを見渡していた藹鐘は英芝と夏鉄を見比べる。夏鉄は、
「どうぞ」
と、勧める。藹鐘は茶を飲む。英芝は呆れ気味に藹鐘を睨み、
「これは絵を描く以外には何もできないのですよ」
「貴方の詩も藹鐘の絵も評判だ」
夏鉄が誉める。英芝は苦笑いする。秋蓮は近くにいた使用人に命じて娘の金花を連れてこさせる。
金花はすぐに来た。皆、振り向く。金花はいつも動きやすい格好をしているのでぎこちない歩き方をして両親の近くで立ち止まった。何父子に拱手して深々と頭を下げる。夏鉄は金花を座らせる。金花は出入口側にゆっくりと座った。
藹鐘は無表情でじっと見つめる。服装は清潔感のある新品で上等だが容姿は凡庸だ。体幹を鍛えているのか姿勢は良い。見つめられて金花の目が泳ぐ。
英芝は藹鐘に、
「挨拶しろ。見合い相手の金花殿だ」
英芝と金花はいとこになるが、夏鉄が現皇帝の末弟なので英芝は気を遣った。秋蓮も帝国一番の豪商だ。金花はその二人の娘だ。藹鐘は無表情のまま低い声で、
「初めまして。俺は何藹鐘」
と、挨拶した。気の利かない挨拶に英芝は苦い顔をした。藹鐘はそれに気付かず、また茶を飲む。近くの使用人が空になった湯飲みに新たな茶を注ぐ。




