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喪中の夏鉄

 ここ数ヶ月、賀夏鉄は藩秋蓮に看病してもらっている。豪商として多忙な秋蓮は朝から夕方まで働きながら仲間達に指示を出しているが、夜になると夏鉄の部屋で一緒に夕食を摂って毎晩添い寝している。就寝前に一緒に入浴もする。秋蓮と夏鉄は四十六歳になった。秋蓮は夏鉄に裸を見せたくなかったが、夏鉄は秋蓮を強く求めた。


 秋蓮と離れている日中、夏鉄は部屋の中でぼんやりしている。日の光を浴びないと益々身体を壊すので、穏やかな晴れ間には嫁に来た孫正琴が身重の身体で夏鉄を連れ出す。夏鉄は抵抗しなかったが、毎日泣いている。正琴の悪阻つわりを思い出した様に気にかけるが、あまり話しかけようとはしない。正琴も無闇に問い詰めなかった。


 二十二歳になる正琴は同じ年の夫である真銭を案じている。姑の秋蓮が毎晩夏鉄を看病しなければならないので、遠出しなければならない時は真銭が代わりに行く。正琴は夏鉄に立ち直って欲しいが方法が分からない。夏鉄は今年の春に実母を亡くしている。


 秋蓮が仕事から戻ると夏鉄は顔を輝かせる。秋蓮は微笑むが胸がチクリと痛い。正琴や使用人達から事情を知らされている。一度、秋蓮が夏鉄の部屋に入ると夏鉄は離そうとしない。妻としては嬉しいが、子どもに戻った様な夏鉄の姿は悲しくもある。思えばこうしてじっくりと二人の時を過ごす時間はなかった。多忙でも秋蓮が耐えられたのは夏鉄が嫌な顔せずに待って帰りを迎えていたからだ。


 毎晩寝る時に夏鉄は秋蓮をしっかり抱きながら思い詰めた声で、

「秋蓮。俺より長生きしてくれ」

 と、ささやく。夏鉄が実母の宋加蘭を溺愛していた事は秋蓮も分かっている。秋蓮は加蘭とは二度会った。気丈で優しい姑だった。秋蓮も、

「夏鉄様。元気になるのが何よりの供養です」

 と、毎回言い返す。夏鉄は、

「分かっているけれど、お前を失ったら俺は耐えられない」


 そんな中、夏鉄の異母姉である玉葉から手紙が届いてから、変化が訪れた。玉葉と夏鉄は一度も面識は無かったが、玉葉は冷宮を新築してまで実母に孝行した夏鉄を気にかけていた。なかなか立ち直れない夏鉄を知って玉葉は孫息子である何藹鐘との縁談を提案した。秋蓮と夏鉄の娘である金花と会わせようとしているのだ。見舞いもかねて藹鐘をその父親である英芝が連れて来る。


 夏鉄は我に返ったかのように落ち着きを取り戻した。涙は止まり、秋蓮を独占しなくなった。使用人達に指示を出して英芝と藹鐘を迎える準備をした。何父子は名門貴族だ。公主だった玉葉を迎えた家柄でもある。夏鉄はそれを家族や使用人達に説明すると皆、浮足立った。しかし恐れずに真摯な態度をとれば何父子が嘲ることはない。藩一族は帝国一番の商家だ。夏鉄は落ち着かせる。夏鉄自身も皇帝の末弟だが、居丈高になることも卑屈になることもなかった。

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