劉孟笛
劉孟笛は機嫌が悪かった。経営が傾いている。役人や貴族に賄賂を送っても反応は良くない。むしろ叱責されながら突き返される。子分達も遊女達も士気が下がっている。徐々に子分達は辞めていき、遊女達は投げやりな態度をとっている。同業者達からは冷ややかな目で見られ、他の商人達からは侮蔑の目で睨まれている。
去年の朝貢貿易で塩を配っていた外国の使節団の接待をしていた時、孟笛は藩秋蓮を茶化して客である使節の者達を笑わせようとした。しかし客人達は楽しむどころか孟笛を蔑んだ。
使節団は自国から紅帝国の首都まで塩を配りながら船で河川を下っていた。首都で帝国側から米や工芸品を貰って交渉した後、帰る途中に孟笛のいる遊郭に寄っていた。彼等は秋蓮が帝国一番の豪商であり、皇帝の末弟の妻でもある事を知っていた。それを笑い者にする孟笛を鼻で嘲笑し、早々と退席した。孟笛の妓楼の者達は呆れた。他の妓楼の楼主達も使節団が突然引き上げていったので損をしたと孟笛を訴えた。
それ以来、孟笛の妓楼は閑古鳥が鳴いている。元々気が短く酒癖が悪い孟笛は周りに八つ当たりしたので更に避けられた。
孟笛は納得がいかなかった。秋蓮は月経用の下着を扱う商人で、それを大量に買い取る妓楼に頭が上がらない三流の女だった。若い時から容姿は凡庸以下で服装も地味で全然家庭的でもない。二十年ほど前までは婦道や風紀を乱すと批判されていた。女の浅知恵を駆使して女達を扇動し、妓楼に来るはずの女達を説き伏せて仲間にしていった。孟笛だけではなく、他の楼主達にとっても邪魔な存在だ。
けれども秋蓮は先帝の第六皇子と結婚して仲睦まじく暮らし、商売が繁盛している。更には姑の為に一昨年に身銭を切って冷宮を新築して、帝国一番の孝行者だと評価されている。
女達も多くの商人達も秋蓮に羨望の眼差しを向けている。官吏達ですら、秋蓮の才覚を認めている。秋蓮は賄賂に全く頼らないし帳簿管理にぬかりはない。更に秋蓮は尼寺に捨てられた遊女達の証言を集めて遊郭を役所に密告しているのにもかかわらず、全く報復せずに秋蓮から商品を買い続ける楼主達もいる。表立って誉めることはないが遊女達も秋蓮に一目置いているのが孟笛にも分かる。
孟笛よりも二歳歳下の秋蓮は今年で四十四歳になる。丁度二十年前から秋蓮は卑屈な笑みを浮かべて孟笛に商品を売り始めていた。五年ほど前に秋蓮が遊郭について役所に密告していたことが判明したのでキッパリと取引を全て止めた。土下座させて蹴り殺してやろうかと思ったが、それを知った他の楼主達が仲裁に入った。
ここ半年、孟笛ははらわたが煮えくり返っていた。




