自信ない真銭
留守を預かる二ヶ月半は不安と緊張の連続だった。真銭は両親の帰りを待ちわびつつも、仲間達から叱咤激励を受けながら家業をこなしていく。皆、大事な事を逐一報告するので真銭は戸惑いながらも指示を出していく。帳簿も書き漏らさないようにした。小船を漕ぐのも、大きな船を皆で操舵するのも上手くなった。荷物を担ぐのは苦労したが女達も頑張っているので弱音を吐かなかった。
妹の金花も使用人達と共に家事と機織に精を出していた。家事は地味で重労働だが励まし合った。機織は楽しかったが両親のいない中での作業は自信が無い。本当に売れる商品かどうか不安だ。売れ行きが想定以下だと暗い気持ちになる。
両親が首都に有る宮殿の冷宮を修繕した。市井の者達は浮足立って噂している。真銭と金花は酔狂な両親に驚き呆れたが、無事に帰還している報せを耳にすると二人は安堵した。
冷宮にいる宋加蘭は二人の父親である夏鉄の実母だ。つまり二人の祖母でもある。しかし、加蘭は先帝の側室だ。二人は一度も会ったことがない。二人にとって加蘭は遠くの偉い人だ。
色んな人達が父親の夏鉄と母親の秋蓮を褒め称えた。誰も興味を持たなかった冷宮を綺麗に建て直したのだ。これ以上の親孝行は無い。真銭と金花は不思議な気持ちになった。両親が半ば英雄の如く評価されて嬉しいが、何となく気まずく恥ずかしい。留守を預かっている真銭と金花は本当に自分達が仕事が出来ているか不安だった。
昼頃、両親が元気に帰ってきた。少し疲れているが両親は真銭と金花と再会すると満面の笑みを浮かべる。真銭は安堵で力が抜けて座り込み、金花は肩で大きな安堵の溜息を吐いた。周りの者達は苦笑いした。
夏鉄と秋蓮は皆にどんどんと質問して近況報告させた。商売はそこそこ順調で真銭と金花の才覚が認められているのがすぐに分かった。皆も夏鉄と秋蓮に冷宮の新築について説明させた。二人は淡々と答える。
今回の仕事で両親は儲かってもいないし権力を得たわけでもない。むしろ大きな出費だ。それでも真銭と金花はやはり両親が偉業を成し遂げたのだと分かった。両親も両親に同行した仲間達も、真銭と金花を支えていた者達も皆、晴れ晴れした顔つきだ。
夕食時に夏鉄は真銭に、
「お前もそろそろ結婚してもおかしくはない年頃だな」
確かに真銭は十八歳だ。しかし真銭には結婚はどことなく他人事だ。恋愛する余裕はない。年の近い優しい女や美人に憧れるけれども、恋慕というほどではない。既に恋人や婚約者がいる場合が多いので自然と諦める。
ぼんやりしている真銭に夏鉄は、
「将来を誓い合うような女はいないのか」
「いやあ。特に。いませんね」
真銭が不甲斐ない返事をした。金花は訝しそうに真銭に振り返る。母親の家業を継ぐのは自分ではなく真銭だと思っていたので、頼りないと感じる。秋蓮も似た気持ちなのか、
「それじゃあ母さん達が探して見合いさせようか」
「それでも良いけれど、嫌がっている女や婚約者か恋人のいる女を選ばないでね」
真銭が答えた。夏鉄は呆れ気味に、
「ちゃんと選ぶに決まっているだろ」
真銭の縁談が何となく始まる。




