新しい冷宮
秋蓮と夏鉄は百数十人もの商人や職人達を連れてきていた。皆、体格が良い。女達も何十人かいたが体幹や足腰がシッカリしていていかにも丈夫そうである。材木も瓦も石も運んでいる。
冷宮の脇の庭を平らに均して、鬱蒼と生えていた竹や曲った樹木を切って、そこに仮設の住居を急いで造営する。宮殿の外側に有る竹林を地主から許可を得て伐採し、組み立てる。竃門は土を盛って拵える。五日ほどで冷宮と同じくらいの大きさの建物が出来た。
冷宮の老人達はそこへ引っ越しをした。荷物らしい荷物は少なかったので一日で終えた。初夏なのに中は涼しく雨が降っても全く漏れない。湿り気は丁度良く、竹の匂いが気分を落ち着かせる。虫もネズミも見かけなくなった。今までの冷宮よりも過ごしやすい。加蘭はこの仮設住居で一生を過ごしてもかまわないと思った。他の者達も顔が明るく似た事を感じているのが分かる。
大工達は冷宮が想像以上に傷んでいるので、解体すべきかどうか確認した。冷宮の老人達は皆、許可した。宰相も皇后も認めた。外部の者も誰も冷宮に思い入れは無かったし、興味を持つ者もいない。
三日ほどで解体して瓦礫を運び出して均して更地にした。大工達が懸命に基礎を固める。設計図と地面を確かめながら印を付ける。
徐々に砂や石や材木を運んでは組み立てていく。釘を打つ音や掛声、材木や石を削って微調整するのが響く。健全な喧騒である。時折曇り、たまに小雨が降るぐらいで天気は良い。
あっと言う間に一ヶ月が過ぎていく。その間に竹の仮設住居の暮らしは快適だ。秋蓮と夏鉄が連れて来た女達は熱心に炊事も洗濯も掃除もこなす。自分達や建築中の男達だけではなく、冷宮の老人達の手伝いもする。宦官達や女官達は有難がった。食事も美味い。
男達も勤勉で結束力がある。仮設住居の造営を始めてから一ヶ月半で新しい冷宮が完成した。途中から増援が何十人も来て更に物資が運ばれたが速い。冷宮の者達は急拵えに疑問を感じたが、以前の冷宮に潰されてもかまわないと覚悟していたので皆に礼を言った。
素朴で飾り気の無い建物だが素人目でも丈夫そうな安心感が有る。冷宮の者達は再度引っ越しをした。竹の仮設住居よりも更に快適だ。敷地は変わらないはずだが広々としている。
秋蓮と夏鉄は皆と一緒に献上品を新しい冷宮に入れていく。地味だが使いやすい家具が多い。寝具や寝床も高価ではないが清潔感があって心地良い。冷宮の者達は素直に喜んだ。
加蘭は秋蓮の才覚に舌を巻く思いだった。連れて来た者達は皆、真面目で優秀だ。新しい冷宮も献上品も見事だ。秋蓮自身も指示を出しながら働いていた。それ以上に加蘭は秋蓮と夏鉄が仲睦まじい夫婦である事が分かって嬉しくなった。一瞬の目配せで通じ合い阿吽の呼吸だ。息子の夏鉄が幸せだと分かる。
秋蓮達は更に竹の仮設を解体して燃やして十日ほどで蔵を建てた。今まで二か月ほどの滞在になる。
別れ際に秋蓮は、
「冷宮や蔵に不具合が起きましたら御知らせ下さい」
と、言うと紙を渡した。商売の内容と連絡先が何箇所か書かれている。加蘭は微笑みながら受け取る。
秋蓮と夏鉄は仲間を連れて満足そうに宮殿の敷地から出て行った。皇帝は皇后に、
「これで朕が死んでも後宮の者達は安泰だな」
と、言った。皇后は困った顔をした。




