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豪商と遊郭

 藩秋蓮は相変わらず多忙だったが、最近は考える余裕が出来ていた。息子の真銭は十六歳になったし、娘の金花は十二歳だ。真銭は秋蓮の補佐が出来るようになったし、金花も家事や機織がさまになってきた。赤子の時から子ども達の面倒を観てきた夫の夏鉄は秋蓮の悩みを聴くようになった。


 秋蓮と夏鉄は丁度四十歳。今年、皇太后が崩御した。生前の皇太后の遺言で服喪期間は一年に短縮された。夏鉄は皇太后とは血の繋がりが無かったが、先帝の第六皇子だった夏鉄を皇太后が導いていた事を思い出した。こちら石花県は皇太后の故郷でもあり、そこで月経用の下着を扱っていた秋蓮を叱るように昔、命じた。それがキッカケで秋蓮と夏鉄は結婚して今に至る。


 夏鉄は時折、首都の方向に向けて冥福を祈りながら拱手する。皇太后の実子で夏鉄の長兄でもある皇帝の身を案じる。温和で病弱気味な皇帝が悲嘆から立ち直り長寿になる事を願う。


 秋蓮は紅帝国で一番の豪商だと噂されていた。原材料の作物の栽培から使用済商品の処分まで責任を持ち、品質管理や商品の改良も続け、仲間達や取引先や買手達を慮り他の商人達の利害調整もする。帳簿や在庫の管理もぬかりはない。子分達や息子の真銭や仲間達に仕事を割り振るが、秋蓮自身も現場で働く。


 年増でも不美人でも地味でも家事が出来なくても、誰も秋蓮を見下す者はいない。貴族や官吏も秋蓮の才覚を認めている。月経用の下着を扱う穢れた商人だと昔は嘲る者が沢山いたが、今では影も形もない。夏鉄は最初から秋蓮を醜いとは思わなかったし、心の底から好意を抱いていた。現在の秋蓮の評価は妥当だ。むしろ遅いと夏鉄は感じる。


 秋蓮は現状にまだ満足していない。月経用の下着の商売に十分に誇りを持ってはいるが、それ以上の事を始めようと考えている。遊郭の改善だ。遊郭は若い女達を集めて酷使させる商売だ。それを仕切る楼主達は秋蓮達の重要な顧客であると同時に仇に近い存在でもある。楼主達にとっても大量の商品を買わせる上に売り飛ばされそうになる女達を雇っていく秋蓮達をどことなく疎ましく感じている。秋蓮達は商品を遊郭に安く売っているが、満足していない。


 夏鉄は遊郭に複雑な感情を抱く秋蓮の話を傾聴している。最近、子ども達は自分達で行動しているので夫婦二人の時間が増した。浪漫有る話をしたかったが、夏鉄は本気で悩む秋蓮を支えようと思った。


 楼主達は若い女達を集めては一日に複数の男達の性行為をさせて酷使させる。女達が必死に稼いでも下らない理由で借金や利子を増やして経済的に追い詰める。衣食住を十分に与えない。無茶な避妊をさせては心身を壊す。女達が妊娠や病気をしたら捨てるように遊郭から出す。女達を売った家族には相応以下の金額しか出さない。


 遊郭の中に入って観察しなくても秋蓮達は取引する時の楼主達の傲慢な言動や態度で察しがつく。帳簿管理が杜撰で下等な楼主も少なくない。また、遊郭から尼寺に捨てられた女達の証言も沢山聴いている。秋蓮達はそれを紙や竹簡に書いては整理して役所に送る。しかし無視される。女達の世話をする尼達も昔から嘆願しているが役所は相手にしない。秋蓮達は時折、尼寺に寄付をしたり大工達に修繕させたり、女達に商売を手伝わせて稼がせている。


 話を聴いて夏鉄は胸を痛めた。女達はあまりにも不憫だし秋蓮は真剣に悩んでいるし、楼主達は実に穢らわしい。明らかに秋蓮の方が人徳が有るし商人として格が高い。しかし秋蓮の見た目や容姿は地味で、楼主達は暮らしぶりも服装も豪奢だ。


 秋蓮が納得する方法は無いかと夏鉄も悩む。

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