血筋
紅帝国では先帝の崩御から喪が明けて新しい皇帝が即位する。賀旬鉄。この年は丁度、冬に朝貢貿易も行われる。盤古大陸の周縁部四ヶ国が塩と特産品を贈り、内陸部の紅帝国は返礼品として米と工芸品を贈る。今回は即位式と貿易を同時に行う。四ヶ国は反発するどころか威光にあやかろうとした。
また、紅帝国は百の県が各自でとある商品の判断を下していた。先帝の遺言で月経用の下着の販売・流通を許可または禁止するかを決めていた。朝貢貿易の年は毎回、ピリピリした空気が天下に張っている。今回は即位式も同時に行われる。紅帝国の人々は苛立ちよりも不安を感じている。
百県中、三十県は下着の販売を許可しており、残りの七十県は禁止した。婦道や風紀を心配していた紅帝国の人達にとっては予想以上の許可数であった。しかし、外国からの使節団に刺激を与えないように、使節団が帰国するまで販売を待っている。
旬鉄の異母弟である夏鉄は石花県の伊鈴町で妻の藩秋蓮と共に首都が位置する西側に向かって拱手して感謝した。秋蓮が石花県で始めていた月経用の下着の商売が旬鉄の影響で先帝が認め、帝国を動かしたからだ。
また、夏鉄は旬鉄の身を案じてもいる。旬鉄は病弱気味で既に五十代だ。夏鉄と同じ歳で三十六歳になった俊学が事実上の皇太子だが、温和で頭が冴えている旬鉄に民衆は期待している。
秋蓮と夏鉄の息子である真銭と娘の金花は藩一族の墓前に線香と花を供えて手を合わせて黙祷した。去年の冬に流行り病で祖父母が相次いで亡くなった。生前に祖父母は遺書を書いていた。真銭と金花には父親の夏鉄が先帝の六番目の皇子だから夏鉄を敬い、同時にその血筋をひけらかさないように諭していた。むしろ商人として勤勉に働き母親の秋蓮の跡を継ぐように望んでいた。真銭と金花は不思議な気持ちになった。祖父母の遺言通りにするつもりだが、自分達が皇族の血を引いている実感は無く、嘘臭く感じた。
十二歳になった真銭も八歳になった金花も父親の夏鉄が高貴な人物だとは前々から気付いていたが、母方の姓を名乗っているし、商人の血筋を感じていた。夏鉄は二人を愛情深く育て、秋蓮は仕事一筋だ。二人は夏鉄を心底慕ってはいるが、それでも夏鉄の血筋を皆に自慢する気にはならなかった。秋蓮の血筋を強調した方がしっくりくる。科挙を二段まで合格した真銭は最近、帳簿の管理を任され始めている。他にも雑用をしている。金花もそろそろ母と兄の手伝いをするつもりでいる。
二人は祖父母や先祖の眠る墓前に一礼すると、静かに立ち去った。




