宋加蘭
皇帝の葬儀が終わった今、後宮は引っ越しの準備を始めている。後宮にいた女達は冷宮へ、東宮にいた女達は後宮に異動する。女官や宦官達は殆ど休まずに打ち合わせをしている。宋加蘭をはじめとする後宮にいた側室達は里帰りした元皇族達と大広間で再会している。
加蘭は息子の夏鉄と娘の月竹と再会できて満足である。二人の伴侶とも会えた。しかし夏鉄と月竹は相変わらず今目の前で張り合っている。夏鉄の妻の藩秋蓮は月経用の下着を扱い、それが元で夏鉄が皇太子の旬鉄に手紙を書いて帝国を巻き込む騒ぎを起こしている。月竹はそれに腹を立てている。秋蓮は恐縮しているし月竹の夫の陳慶伯は困惑している。
加蘭は微笑みながら、
「月竹。婦道や風紀を気にかけるお前の気持ちも分かるけれど、お前も男尊女卑に不条理を感じていたではないか」
月竹の目が泳ぐ。月竹は幼い頃から宦官に教えを乞いながら熱心に勉強し弟の夏鉄や男達に対抗心を燃やしていた。公主であるにもかかわらず、女というだけで公務や政務には全く参加できず、頼りなかった夏鉄が嫌々参加するのを見ては八つ当たりをしていた。科挙も七段まで合格したが、女はそれ以上は望めないことになっている。
月竹は秋蓮と加蘭を見比べて、
「そうはおっしゃいますが母上、月の障りを天下遍く話題にするとは正気ではありません」
「月の障りは止められませんし、御父上の遺言でもあります、姉上」
夏鉄が言い返した。月竹は夏鉄を睨む。夏鉄も真顔で見返す。慶伯は不安そうに加蘭を見やる。加蘭は、
「民草も役人も反対すればおのずと禁止になる。逆に皆が受け入れれば仕方ないと諦めなさい」
「おっしゃる通りです、宋夫人様」
県の長官である慶伯が返事をした。禁止か許可の最終判断は百県の長官達に委ねられている。月竹は慶伯に振り向き、
「弟や母上に遠慮なさらないで、旦那様」
「民草や部下の証言を精査して慎重に熟慮しますよ、公主」
慶伯は穏やかな口調で言い返す。加蘭は明るい声で、
「許可することになっても風紀や婦道が乱れないと私は思う。そんなに身構えないで、月竹」
月竹は肩を落としながら溜息を吐き、
「分かりました、母上」
夏鉄は安堵の溜息を吐いた。拱手して立ち去ろうとしたが、
「母上。これから本当に大丈夫なのですか」
と、暗い声で尋ねた。月竹も怯えた顔をする。加蘭は短く笑い、
「冷宮はお前達が思う様なおぞましい所ではない。尼と一緒に毎日経を唱えて慎ましく暮らすだけ」
秋蓮は不思議そうな顔をし、慶伯は不安そうな顔をする。加蘭は楽しそうな声で、
「冷宮の資料を読んだ事が有るけれど、本当に気楽なの」
月竹と夏鉄の目が泳ぐ。加蘭は、
「争いを起こしたり罪を犯したりした者達が冷遇されて目立つだけ。お前達が怖がる事はない」
夏鉄は悲しい顔をして拱手し、
「母上、御自愛を」
月竹も拱手する。秋蓮と慶伯もそれに倣う。
加蘭は二人の子ども達とその伴侶達を笑顔で見送った。




